124.黒猫屋敷~恩には報を~
いつもありがとうございます。
いよいよ明日、新作を投稿予定です。
お楽しみに!
こちらの4章は……ぼんやりとですがまとまってきました。
引き続きよろしくお願いします。
「んぁっ……ふみゅ……んっ、ンんっ……! ふぁっ……ぁあっ……!」
「そういえば族長はん……そのヒラヒラした服ぅ、ようできてはるなぁ……デザインも可愛らしいし――」
「こちらの城で働く使用人のものを参考に作りましたからね。生地も良いものを――」
「そうなんねぇ……でもちょっと、スカートが短すぎひん? そないなんちょっと動いただけで下着が――」
「……いえ、これで良いのです。これを着てお世話をさせていただいていると、主様が――」
「それホンマぁっ!? ちょっとわたしにも作ってくれへんっ!? 私もそれで主はんの視線を――」
「……ダメです。貴女は――」
「あぁんっ! 族長はんのいけずぅっ! ケチッ! あほっ! 根暗猫っ――」
「サクラ……貴女、そんなに配置換えが望みなら――」
「じょ、冗談やえっ!? またそないなこと言って――」
……………………。
「ぁっ、あぁっ……! 主様っ……主さまぁっ……! きもちっ、いいですぅっ……! ふぁっ、はぁんっ……ンんぅっ……!」
「アイネシア様! い、いえっ……奥様! 改めてご挨拶いたします! 私は――」
「あら、わざわざありがとう。貴女は……たしか西の方で働いてくれているってツバキさんが――」
「は、はっ! 覚えていただき光栄です奥様っ! さすがこれだけお綺麗で、主様の奥様になられるお方は――」
「……貴女、いい子ね。他の皆さんと比べると……失礼だけど、ちょっと小柄ね。歳は?」
「は、はっ! 主様や奥様よりふたつ下で、身体は小さいですが――」
「ちょ、ちょっとあんた! おとなしい顔してなにを抜け駆けして奥様にアピってんのよ!? 奥様っ、ア、アタシは――」
………………………………。
「はぁぁぁんっ、ンあぁっ、ぁんっ……! 主様っ……! わ、わたしっ……もうっ……! んっ、ぁっ、あぁっ……!」
「……ユエくんユエくん。その娘、大丈夫……? なんだかすごいことになってるわよ……?」
………はっ!?
「あぁっ……ぁっ……――――ンぅぅぅぅーーーーっ……!! ……ぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
「あっ……!? あ、あはは……その、いつもありがとうございます。これからも、よ……よろしくお願いしますね……?」
「はぁっ……はぁっ……はいぃ……主様ぁ……♡」
し、しまった……。
無心で『撫で撫で』を続けていたら、自分の番が終わった娘たちが賑やかにおしゃべりを始めて……それをなんとなく眺めていたら、どうやら最後の一人だったようだ。
マリアナさんに言われて我に返ったら……頭を撫でていただけだというのに、撫でていた娘は身体をビクビクと震わせると、それはもうトロトロな顔で口を大きく開けて熱い吐息を漏らしていた。
フワフワとした足取りで――しかも内股で――離れていくその娘は……どう見てもアレしてしまった後に見える。
「ユエくんったら女の子をあんなにしちゃって……ちゃんと責任取らないと、めっ、だからねっ?」
僕が『し、したぎぃ……変えてきますぅ……』なんて言ってるその娘を見送っていると、同じようにその後姿を見送っていたマリアナさんにそんなことを言われてしまった。
「い、いえその……頭を撫でていただけなんですが……」
「ダメよ? うふふっ……だって、ユエくんの手はとっても気持ちいいんだから……」
「そ、そうですか……気をつけます……」
これ以上なにか言うと今度はお姉ちゃんのヤル気スイッチが入ってしまいそうだったので、僕は熱がこもり始めているその視線から逃げるように顔をそらした。
何はともあれ、これでようやくみんなとの約束を果たす事ができた。
「……主様、お疲れ様でございました。みな、主様のご厚情に感謝しております」
『ありがとうございますっ!』
区切りがついたことに気がついたツバキさんが僕の後ろに立つと、この場をまとめるかのようにお礼の言葉があり、それに女の子たちの声がそろって続いた。
「いえ……みなさんにはいつも助けられていますので。これからもよろしくお願いします」
『はっ!』
「あと……ツバキさん、これを」
僕は今日この『ご褒美の授与会』ともいえる場があると聞いて急遽用意したもの……ポーチに入るくらいの、少し重たい布袋を取り出し、代表としてツバキさんに手渡した。
「は、お預かりいたします。……主様、これは……?」
「せっかくの休暇です。ちょうどみなさんが集まっているので、これで美味しいものを食べたり好きな服でも何でも買ってきてください。ちょっとしたボーナスのようなものです」
『!?』
ツバキさんが恭しく受け取ると『ジャラリ』と音を立てた袋の中身は……もちろんお金だ。
彼女たちが望む本当のものは……まぁ、中々与えてあげることは出来ないけれど、これくらいは報いても当然のことだろう。
なんだかんだと事情はあるものの、彼女たちだって年頃の女の子たちなんだから。
普段から余裕を持った活動費は渡してあるけど、僕に遠慮しているのか必要最低限しか使ってくれないので、ちゃんと使い道も言い含めておいた。
「ぼーなす……とはわかりませんが……なんと、こ、こんなにっ……!? は、はっ。頂戴いたします……ありがたき幸せ」
『ありがたき幸せ!』
よかった……。
急いで用意したから、僕の感謝の気持ちを表すためにももうちょっとあったほうがよかったかも……とは思ってたけど。
中身を見たツバキさんが驚くくらいなら、みんな存分に楽しい時間を過ごしてくれることだろう。
ツバキさんが大きく頭を下げると、みんなもそれに倣い……花に由来する名前を冠する女の子たちに満開の笑顔の華が咲いた。
「やったー!」
「王都って、おいしいものいっぱいあるんだよねっ!?」
「私は……可愛い服とかも着てみたいなぁ……」
「いただいた簪をお手入れする道具がほしかったのっ!」
「わ、わたし……お化粧とか、買ってみようかなぁ……」
「あら、いいわねそれ。奥様くらい……は恐れ多いけれど、今よりもっときれいになって主様に見ていただくのよっ!」
「みんないいなぁ……。私はお外は……」
「私もよ……」
おっと、そうだった。
「日の下に出ても大丈夫な方は出られない方の希望を聞いて、ちゃんとみなさんで使ってくださいね?」
『はっ!』
「主様……お気遣いありがとうございますっ!」
「ありがとうございますっ!」
僕が追加の注意事項を口にすると、盛り上がる中でシュンとしてしまっていた娘……ツバキさんのように光よりも闇に性質が近いせいで昼間の太陽の下を歩けない娘たちも表情を明るくしてくれた。
影に入ることができれば、陽の光が大丈夫な娘についていくこともできるけれど……みんながみんなツバキさんのように影に入れる力があるわけではないんだよね。
そしてみんなでワイワイと盛り上がりながら部屋を出ていき……一気にリビングが静かになった。
「主様……改めて、感謝申し上げます。部下たちも大変喜んでいるようです。ただ、あれほどの大金をいただいてもよろしかったのでしょうか……」
「いいんです。いつも助けられているのは僕の方ですので、あれでも少ないかと思ってるくらいですよ」
「そうよツバキさん。働きにはちゃんと報いる、これは上に立つものとして当然のことだもの。そのあたり……くすっ、さすがは王太子様ね?」
「あはは……といっても僕は影武者でしたけれど」
「私も……今度ルシフさんに何かプレゼントしようかしら」
「良いと思うわ。きっと孫娘から贈り物をもらった!ってくらいに喜ぶと思うわよ?」
「ア、アイネちゃん……ルシフさんは私のお祖父様ではないのよっ?」
「いいじゃない、喜んでもらえたら同じなんだから。渡すときに『お祖父様』って呼んでみたらどうかしら?」
「も~! そんなの恥ずかしいわよぉっ!」
「くすっ……」
「ふふ……」
ツバキさん以外の忍華衆のみんなが去って静かになったと思ったら、今度は僕らの笑い声で賑やかになった。
僕らが笑い合っておしゃべりに興じていると、しばらくはソファーの後ろで控えていたツバキさんが進み出てきた。
「皆様、そろそろ昼食のお時間でございます。私がご用意いたしますので、どうぞ食堂へお越しください」
「ええ、お願いしますねツバキさん」
「は。部下へご厚情の御礼として、久しぶりに腕を振るわせていただきます」
「わぁっ、それは楽しみねっ!」
「そういえば、寮では寮の食堂で食べているものね……ツバキさんの手料理なら私も楽しみだわ」
「どうぞご期待ください。アイネ様、マリアナ様」
「あら、言うわね?」
「ええ、事実でございますので」
「くすっ。胃袋から掴もうとした……ってところかしら?」
「……………は」
「ツバキさん、赤くなってる……かわいいっ!」
「マ、マリアナ様っ……!?」
そうして僕らは食堂へ移動し……ツバキさんの手料理に舌鼓を打った。
賑やかで大好きな人達の笑顔がたくさんある光景を見て。
ちょっとだけ……家族の食卓とか、そういう幸せな将来が……僕にも想像できて嬉しかった。
なんだか口にするのは恥ずかしくて、言えなかったけれど……。
――ただ、そんな嫌なことを忘れられるひと時も……日が暮れると共に終わりを迎えるのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
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次回、「アノ日~光落ち闇満ちる刻~」
いよいよ3章の『アノ日』が始まります……!




