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ドラゴン退治

「おい、大丈夫か?」

 頬を強く叩かれて目を覚ました。目の前にはサンチョの顔。

「架純先輩!」

慌てて上体を起こして辺りを見回す。

周囲は瓦礫だらけで、至る所から煙と兵士達のうめき声が上がっている。城はドラゴンの襲撃で、すっかり崩壊してしまったようだ。

「プリンセス・カスミは連れ去られた」

 サンチョはそう言うと、

「どこか痛むか?」と俺の顔を覗き込んだ。

「少し」

 俺は肩をおさえながら夜空を見上げ、

「何で生きてるんだろう?」

 不思議に思った。

「夢の世界だからさ。多少の痛みは感じるけど、死にゃしない。それより、大変なことになっちまったな。さっき、またアナウンスが流れたけど、ウイルスのせいで、あんた達当分、現実世界に戻れないみたいだぜ」

「え!」

俺は思わず叫んだ。そんなことあるなんて聞いてないよ、青木! 明日、学校があるんだけど、どうすりゃいいの。

「じゃあ、いつになったら?」

「さあ」

 サンチョは肩を竦め、何やら中身のいっぱい詰まった麻袋をひとつ俺に手渡して、

「とりあえず、ここにいると危険だ。ずらかろうぜ」

 自分の分の麻袋を肩に担いで立ち上がる。

「は、はい」

 俺も麻袋を担いで立ち上がり、サンチョのあとについて、まだ混乱状態の兵士達の目を盗んで城から退散した。


街の中も、ドラゴンの襲来で甚大な被害を受けていた。至る所で炎と煙が立ち上がり、喧騒で満ちあふれている。

その中を、俺とサンチョは足早に歩いて、ホテルの非常階段をのぼり、サンチョの部屋に入った。

「へへ、予定外のことがあったとはいえ、ちゃんと目的は果たしたからな」

 サンチョは床の上に麻袋を下ろして、その結び口を解く。中身は、目も眩むような金銀財宝だった。

「こ、これは?」

俺は担いでいる麻袋を下ろして、結び口を解いた。その中にもお宝がぎっしり詰まっているのを確認すると、サンチョに批難がましい視線を向けた。

あの騒ぎの中でよくもまあ、こんな余裕があったもんだ。

「あの城から盗んだ」

 サンチョは自慢げな表情を浮かべて、

「あんたらが騒いで、兵士達がみんな、塔にのぼって行ったから、お蔭で仕事がやりやすかった。感謝するぜ。ほら、取っときな」と金の延べ棒を一本、俺に差し出してきた。

「そういうことだったのか」

どこかから聞き覚えのある声が聞こえてきて、俺とサンチョは部屋の中を見回した。

すると、ベッドサイドのランプの明かりが突然灯り、部屋の片隅の椅子に腰かけた荻窪の姿が現れた。

荻窪は散々な目に遭ったらしく、まるでコントのように髪の毛がチリヂリで、顔は煤だらけになっている。ザマァみろ。架純先輩を泣かせた罰だ。

俺は笑いそうになったけど、何とか堪えた。けれど、サンチョは、

「命からがら逃げだして来たって感じだな」と遠慮なく笑い声を上げる。

「笑うな!」

 荻窪はこちらに歩み寄って来て、ひと差し指をサンチョの胸に突きつけ、

「二度と笑うな! ただじゃおかないぞ!」

 鬼の形相をしたけど、その髪の毛のせいで、より一層コミカルになる。この姿を見られたら、確実にファンは減るな。

「ああ、おっかない」

 サンチョは俺の方へ顔を向けて、肩を竦めてみせる。荻窪も俺の方へ顔を向け、

「架純は?」

「連れ去られたよ」

 俺の代わりにサンチョが答える。

「連れ去られた?」

 荻窪の顔色が変わる。

「ドラゴンに」

 サンチョは葉巻に火を点けて、椅子に腰かけた。

「一体、何なんだ、あのドラゴンは?」

「デビル・ドラゴンさ」

「デビル・ドラゴン?」

 これには俺も驚き、サンチョの方へ顔を向けた。牧歌的な世界観とやらを謳ってたよな、青木?

「そうさ」

 サンチョは煙を吐き、

「大昔……まだこの世界にモンスターがはびこっていた時代、人間に最も恐れられていたモンスターだ。ウイルスのせいで蘇っちまったらしい」

「そんな……」

 荻窪は言葉を失ってしまう。頼むから、そのビジュアルで情けない表情をしないでくれ。吹きだしそうになる。

「架純先輩は、どこへ連れて行かれたんですか?」

 俺が訊くとサンチョは、

「この街から北へ百キロほど行ったところに、バザード山っていう山がある。その山の頂上に、巨大な洞穴があってな」

 と答える。

「そこにドラゴンが?」

 荻窪が口を挟むと、

「そうだ」とサンチョは頷く。

「蘇ったってことは、大昔、誰かが倒したってことか?」

「ああ」

 サンチョは頷き、

「伝説の勇者たちが倒した」

「伝説の勇者!?」

 俺と荻窪は声を揃えて訊き返した。それを見て、サンチョは笑いながら、

「そうだ。伝説の勇者たちがドラゴンを倒し、やがてモンスターたちも姿を消して、この世界に平和が訪れたのさ」

 そう言ったところで、

「きゃあ~~」と、外から悲鳴が聞えてきた。またトラブルかよ、まったく。

「何だ?」

荻窪が真っ先に窓の方へ行き、俺とサンチョがそのあとに続いた。

窓の外を覗き見ると、広場に集まった人々に、ゾンビや、おにぎりのような形をした五十センチ位の大きさの青色の生き物が襲いかかっていた。

「やばいな」

 サンチョが苦み走った表情を浮かべる。

「あれは?」

 俺が訊くと、

「どうやら、他のモンスターたちも蘇っちまったらしい。あの青色のは、スライミンっていうモンスターだ」

 樵のような格好をした男が棒で叩くと、スライミンは液状になってしまった。

「こりゃあ、大変なことになったぞ」

 椅子の方へ戻り、サンチョはため息を吐きながら言った。

「クソ! 明日から撮影があるっていうのに」

 荻窪は窓枠にこぶしを叩きつけて、

「どうすりゃ、元の世界に戻れるんだ?」とサンチョに詰め寄る。

「俺に言われてもなぁ」

サンチョは困った表情になり、

「ドラゴンを倒せばいいんじゃないか」と投げやりに無責任にそう言った。

まあ確かに、サンチョが文句を言われる筋合いはないんだけどさ、もうちょっと考えてモノ言おうよ。あんなバケモノ、倒せるわけないって。

「簡単に言うなよな。あんなバカでかいの、どうやって倒せっていうんだ」

 荻窪は俺の気持ちを代弁するように憤慨して、ベッドの端に腰を下ろすと頭を抱えてしまう。初めてのお使いの途中で、財布を落として絶望する子どもみたいだ。

「あ、あの」

「何だ?」

 俺が挙手すると、サンチョが顔を向けてきた。

「伝説の勇者たちは、もう生きてはいないんですか?」

「生きてるぜ、今も。生ける伝説になってる」

「本当ですか? じゃあ、彼らに頼んで――」

「甘いな」

 サンチョは俺の言葉を遮り、

「腰の曲がったジジイにババア。とてもじゃないが、戦えっこないさ」と鼻で笑う。

「クソッ!」

 荻窪は腹立ちまぎれにベッドを叩くと、

「戦える奴はいないのか?」

「いるにはいるさ」

「どこに?」

「バーに行って、マスターに紹介してもらうんだ」

「よし」

 立ち上がる荻窪に、

「ただし、仲間にするには金がかかるぜ」

「そうか」

 荻窪は麻袋の中に両手を突っ込み、金銀財宝を掴みとると、

「もらってくぜ」

「おい!」

 サンチョが叫ぶものの、荻窪はドアを荒々しく開けて駆け去って行ってしまう。

「チクショウ、泥棒め!」

 サンチョはドアまで走ったけど、深追いせずに諦め、部屋の中へと戻り、麻袋の中を覗くと、

「まあいい。あれぐらい、餞別としてくれてやる」と鷹揚な態度で椅子に腰かけた。……あんたも泥棒なんだよ、言っとくけど。

 俺はどうしたらいいのかわからず、部屋の中を右往左往した。その様子を、サンチョは面白そうに眺めながら、

「いいのかよ、ライバルに先を越されて」

「で、でも、どうしたら……」

「それで仲間集めて、ドラゴン退治してくりゃいいだろ」

 サンチョは、俺が手に持っている金の延べ棒を指さす。

「ドラゴン……退治」

 間近で見たデビル・ドラゴンの姿を思い出して、俺の全身は恐怖で震えた。あんなバケモノ、もう二度とお目にかかりたくない。

「心配するな」

 サンチョはニッと微笑むと、

「さっきのあいつ、荻窪だったか、あいつには黙ってたが、策はある」

「え?」

「うまくいけばドラゴンを退治できる、とっておきの策がな。と言っても、簡単なことではないけど」

「な、何ですか、その策って?」

「こっち来な」

 サンチョは俺に手招きをする。


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