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『天使の銃弾』  作者: 土方 煉
2/13

『2』


「次は京都、京都です。お忘れ物が無いようお気をつけ下さい」


機械的なアナウンスが聞こえ、神谷は目を覚ました。京都なんていつぶりだろう。記憶では中学の修学旅行以来だ。


「んーっ…」


伸びをし、背筋からボキボキと音を鳴らす。


電車を降りた神谷はキャリーバッグを手に取り改札へと向かうが、改札は人でごった返していた。京都は日本人だけでなく、外国人も多い。


人混みが苦手な神谷は開けた所まで適当に進む。そしたら駅の正面玄関へと辿り着いた。目の前にはでかでかと京都タワーが立ちはだかる。


すると神谷のスマホが鳴り、画面をスワイプして電話に出る。


「もしもし?」


「もしもし、神谷さん?もう京都に着きましたか?」


「ああ、今着いた。どこらへんにいればいい?」


「えーっと…じゃあ京都はタワーの前の喫煙所で待ってて下さい。そこまで行きますんで」


「了解。じゃ、また後で」


電話の相手は久本だった。神谷は逮捕前の最後の仕事で久本と出会った。初めは神谷を狙う刺客として現れた久本だったが、神谷に完膚なきまでに叩きのめされた。以降、神谷は久本と付き合いがあり、出所後も久本は一番に神谷の元へ訪れた。今では師弟関係とまではいかないが、神谷は久本を信頼する一人として仲間意識も持っている。


駅前を少し進むと、スーツを着たサラリーマンで埋め尽くされた喫煙所が見えた。煙草を吸おうと思っていたが、人の多さに嫌気がさした神谷はブースの外で久本を待つ事にした。すると数分後に無地のTシャツにジーンズ姿で久本が現れた。久本はまだ20代なのでラフな格好が良く似合う。


「うぃっす!どうですか京都は?」


「京都なんて修学旅行ぶりだよ。それにしてもここは外国人が多いな」


「まぁ京都は有名なお寺とか神社が多いんでね。外国人ってそういうの好きでしょ?いかにも日本って感じもするし」


「そうだな。で、中野に関する手掛かりは掴めたか?」


「いえ、それが全然掴めてなくて……」


久本は茶髪の綺麗なサラサラヘアーをかきあげながら苦虫を噛み潰したような表情で申し訳無さそうに言った。


「そうか…まぁ俺も合流した事だし気長に探そうや」


「そうですね。とりあえずここじゃあれなんで移動しますか」


神谷は久本について近くのカフェに移動する事にした。


「いらっしゃいませーっ」


店内へ入ると20代に見える若い女性店員が駆けつけ、「お煙草は?」と聞いてきたので「吸います」と答えると奥まった喫煙席へと案内された。


席に腰を降ろすと神谷は久本に


「おいでやす〰️じゃないんだな」と笑った。


「いやいやどんなイメージですか。僕、京都出身ですけど生でそれ聞いた事ないですよ」


「えっ?そうなの?」


「はい。ちなみに、またおこしやす〰️も聞いた事ないですね。おおきに〰️はしょっちゅう聞きますけど」


「へぇーっ、それは知らなかったな」


「何かすいませんね、イメージ壊しちゃって」


するとそこにさっきの女性店員がやって来た。


「ご注文はいかがなさいますか?」


「僕はアイスコーヒーで。神谷さんは?たしかコーヒーだめでしたよね?」


「ああ、俺はコーラでいいよ」


「じゃあアイスコーヒーとコーラでお願いします」


「かしこまりました。失礼致します」


女性店員が離れたのを確認して久本は言った。


「先日の横浜でのチンピラ監禁殺害って神谷さんですか?」


「そうだよ」


神谷は即答した。


「やっぱり…ニュース見てすぐ神谷さんが浮かびましたよ。背後から後頭部に一発の弾丸が!って」

久本はため息混じりに話す。


「何でそれだけの情報で俺が浮かぶんだよ」


「どうせ油断させて撃ったんでしょ?いつもの手口じゃないですか。でも神谷さんならチンピラごときに銃を使うまでもない。そこであえて銃を使い、背後から止めをさして中野への見せしめにした……ってとこですか?」


「おいおい、すごい想像力だな……でもちょっと当たってる。ただ中野はそれぐらいじゃ何も感じないよ」


「もうさんざん聞きましたけど、中野にハメられたせいで神谷さんは逮捕されたんですよね?それって事前に察知できなかったんですか?」


久本は中野についての情報をある程度把握しているが直接は知らない。


「んー…事前に察知ねぇ。無理だったかな。お前は俺にハメられると思うか?」


「俺が神谷さんにハメられる?ないない。神谷さんはそんな人じゃねぇもん」


「まぁ俺が中野にハメられたのもそんな感じだよ。まったく疑ってなかったし信じてた。何せ俺をヒットマンとして育ててくれた人だからな」


「神谷さんを育てたってかなりすごいですよ。一体何者なんですか中野は」


「あれ?それ話してなかったけ? 」


「ハメられたってのは聞きましたけど。知り合った経緯は知らないですね」


久本は身を乗り出して聞き入ろうとする。


「以前、俺が大手企業で普通のサラリーマンとして働いてたのは知ってるだろ?当時の俺は真面目に働いているだけで毎日退屈で仕方なかった。そんな時に同期のやつに遊びに連れてってもらったんだよ。中野とはその時に出会った。その同期のやつの先輩だったんだよ」


「出会ったって…たまたまですか?」


「そう、たまたま。風俗で遊び終わって俺が同期のやつを待ってたら声かけられたんだ」


「何て声かけられたんですか?」


「その時中野は風俗のキャッチだったんだよ。だからお兄さんどっかお店探してる?みたいな感じだったかなー」


神谷はゆっくりと記憶を辿った。


「へぇ、そんな事あるんですね。その中野の後輩にあたる神谷さんの同期はヒットマンじゃないんですか?」


「日野?日野は違うよ。普通の会社員。だから中野がヒットマンって事も知らなかったな。ただ、風俗のキャッチは副業だろうとは言ってたけど」


「へぇ、勘が良いですね。それで?そこから神谷さんはどうしてこの世界に足を踏み入れたんですか?」


神谷はポロシャツの胸ポケットから煙草を取り出して火を点ける。


「改めて何で?って聞かれると難しいな…強いて言うならばカッコ良さみたいな魅力に惹かれてかな?ほら、俺映画とか漫画好きだろ?だからきっとその影響だよ」


久本は口を開けたまま驚いた。


「いや、男なら大半が映画や漫画のアクションの世界に一度は惚れますよ。今だに銃撃戦とかカッコいいと思いますし。だからって自分もヒットマンになりたいとは普通思いませんて!しかも会社まで辞めて…」


「初めは会社員をしながらヒットマンの仕事してたんだよ。まぁ当初は中野についてただけだから。それである程度してから会社は辞めたなぁ。上司に辞表を出した時も俺は傷だらけだったからすごい顔してたなあのおっさん」


神谷は懐かしむ様に微笑みながら煙草をふかした。そこでやっと飲み物が運ばれて来た。


「お待たせしました。アイスコーヒーとコーラです」


久本は私の話に呆れながら店員にありがとうと手だけ上げる。


「やっぱり神谷さんて少し変わってますね」


「それ褒めてるのか?」


「いや、褒めてはないです」


久本は声を出して笑った。


「けどまぁ神谷さんと出会ったおかげで俺の人生も360度変わりました。改めてありがとうございます」


「360なら一周して戻ってるけどな、まぁいいよ。あん時お前はヤクザだったっけ?」



「あ、それを言うなら180度か…あの時はヤクザじゃないですよ。ヤクザにもなりきれてないただのチンピラです」


「でもお前の上のやつはヤクザだったんだろう?ヤクザの世界はよく分からんけど、下っぱのチンピラに人を殺すよう命令なんかするなよな」


「今思えば上は…というか組は得体の知れない神谷さんが怖かったんでしょうね。だから最悪死んでも組にとってダメージの無い俺みたいなチンピラを使ったんでしょ。まぁチンピラの中でも俺が一番腕っぷしが強かったんで普段からちょくちょくそういう案件を振られてましたけど」


「大変だな。ヤクザもチンピラも」


神谷は煙草を灰皿に押し付けながら言った。


「いつもなら大した事ないんですけどね。でもこの時は相手が悪すぎた。神谷さんは組の想定以上の手練れだったから一気に流れが変わりましたよ」


「で、神谷はそのままの勢いで組長を殺して逮捕された…と。世間はそんな感じの認識だろうな」


「はい、恐らくは。組関係者以外は中野の存在も知りませんし、神谷さんが中野にハメられて逮捕されたってのも出回ってないはずです。それに神谷さんが無罪になったのも知っている人間は少ないと思います」


「そうか。ちなみに俺が中野を探してる事は?」


「知っているのは俺だけですね。まぁ神谷さんが無罪になった事を知ってる人間には想像はできるでしょうけど」久本は話終えると眼前のアイスコーヒーを喉を鳴らしながら流し込んだ。


「で?この後どうします?」


「そうだな。お前はこの辺の裏社会に詳しいか?」


「はい!…って言いたい所ですけどまったく……道案内ぐらいしか期待しないでください」


「おいおいマジかよ…。なら片っ端から聞き込みをするしかねぇな。とりあえず夜にもう一度合流しようか」


「そうですね。じゃあまたさっきの喫煙所に21時に待ち合わせしましょう」


「わかった。じゃあ出ようか」


そうして神谷と久本はカフェを後にした。

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