4話
「そんな……嘘だと言って……。」
私は教室の机に頭を突っ伏する。
教室内は大学の講義室に似た様な感じで、正面の真ん中に教卓がある。
私は奥側の隅っこに座り、悲嘆に暮れている。
朝からキリアから毒を吐かれ、そして同じクラスではなかった。前途多難な未来しか見えず泣いてもいいのではと思ってくる。
第一、私のフットマンなのにどうして教室が別になるのか不思議でたまらない。
「2年生になった早々そんな辛気臭いオーラを出してどうしたの?」
友人のマリアナが話しかけてきて隣に座る。
彼女はゲームの中では悪役令嬢の立場にまわってしまうキャラだった。ヒロインの女の子が王子に見染められるからだ。最初は2人を応援していたが、本当は王子の事が好きで、そんな事を知らずヒロインが王子の事を語るのでだんだんとヒロインにきつく当たってしまい、階段から突き落とすという事件を起こす。まるで学園ドラマみたいなお話だ。
好きで好きで堪らず、目の前の敵を排除するしかないという思考に陥るのだろう。
恋は盲目、悪役令嬢と言う立場も遠くから見たら本当は可哀想なキャラにしか見えてこない。
でも私はキリア推しなのでそんな可能性はミジンコほどにもないけどね。
「朝からキリアから毒吐かれて、クラスも違うのよ。悲しくなってくるでしょ!」
ガバッとマリアナに顔を向ける。
マリアナのいつもはキツい目つきがまん丸な驚いた瞳に変わる。
「あの優しそうで、何でも完璧にこなしてお嬢様第一のキリアさんが?」
「そうよ……告白なんてするんじゃなかったわ。」
「告白したの!その話詳しく教えて!」
マリアナが話に食らいつき私の両方を掴んで揺さぶってくる。
女子はやっぱり恋バナが好きなのね。
「ちょっとやめて、酔っちゃう。」
「あら、ごめんなさい。興奮しちゃって。」
テヘッと効果音がつきそうな顔で言ってくる。マリアナの笑顔は可愛いから許しちゃう。
「我慢出来ずにとうとう真正面切って告白しちゃったのよ……。」
「ようやっと!視線で射殺さんばかりの遠くからのアプローチだったのに、ようやく行動出来たのね。お姉さん涙が出てきちゃうわ。」
ハンカチを取り出し目元を拭っているが涙1つも出ていない。
「射殺さんばかりって何よ!そんな視線で見てはないわよ。」
確かに熱心に見つめていた事は認めるが、そんなスナイパー並みに見つめた記憶はない。
多分そんな目では見てないはず?
「何よ、中々行動出来なくて遠くからしか眺めてなかったじゃない。しかも片手にオペラグラスを携えて。こっちがヤキモキするわよ。」
マリアナが冷たい瞳で見てくる。
「だって、こんな感情初めてなのよ。好きな人が目の前にいたらどう行動していいかわからなくなっちゃうじゃない。」
乙女なら誰しも経験する出来事だと思う。
気持ちはわかるでしょという期待を込めて問いかける。
「だからと言って遠くから眺めるのはどうかと思うわ。自分の従者だからいいものの、知らない人から見れば犯罪よ。」
確かにそうだ、言い返すこともできない。
「どうしたら良かったのよ。」
「少しは私の従者、カイルを見たらどうなの?あの人は認めたくはないけど人との関わりが上手よね。女子を取っ替え引っ替えしてるイメージがついているけれど、恋愛について相談してみたら?半分くらいは勉強にはなるでしょ。何も知らない純真なユリシアちゃんには少し過激な事を教えられるかもしれないけれど。」
マリアナの従者、カイルはキリアの友人だ。世渡り上手で女子や男子からの人気もいい。色んな人と積極的に関わっているので学園内で知らない事はないのではというほどの情報通だ。
そんなカイルはキリアと距離がとても近い。私がキリアと話がうまくできない事をいいことに、目の前で見せつける様に仲の良さを発揮されるので私には敵にしか見えないのだ。
「イエヤメトキマス。」
敵と一対一になるなんて、カイルがどれだけキリアと仲がいいか自慢される未来しか見えない。
「そういえば、今日からユークリス様が登校なさるそうよ?」
マリアナが話を変え爆弾を落としてきた。