3話
私が前世にプレイしていたゲーム「貴方の暗闇に触れて」はイラストの綺麗さに惹かれて買ったものだ。わくわくゲームを進めたがどんなに選択ルートを変えても監禁されたり、主人公が感情を失ってしまったりとハッピーエンドではない終わり方をするので最終手段として攻略サイトを見たらまさかのヤンデレゲームだった、死なない限りハッピーエンドの終わり方らしい。
その記事を見てとんだクソゲーだなとゲーム機を布団に叩きつけた記憶がある。
流石に床に叩きつけるのはまずいという理性は残っていた。
主人公は公爵家の一人娘で、天真爛漫で周りからも愛されている女の子であり、純真なヒロインが心を病んでしまった相手を救うお話だ。
今の私と似ても似つかない性格だね。
1作目の攻略対象は3人おり、主人公が高等部2年に上がってからストーリーが始まる。
メインキャラはこの国の王子、ユークリス・アレンティウスだ。この王子は主人公を意思を働かせなくさせる為に薬漬けにし、自分の部屋に閉じ込める。
2人目のキャラは王子のお付きの騎士、ギリベルト・アンダーソンだ。内容的には王子ほど酷くはないが最終的には誰も来ない塔に監禁される。
そして最後の3人目のキャラは後輩のサリス・ウォルガナだ。この子は自分だけを見て欲しいが為に虐めぬいて最終的に主人公の精神を壊してしまうというヤンデレじゃなくサイコパスじゃないかとツッコミたくなるようなキャラだった事を覚えている。
そんなゲームは何と2作目が出ている。後から2人攻略対象が追加されたのだ。よくこんなゲームを発売できたよね。
私は、その2作目を買って帰る途中で事故に遭ってしまった。
後味が悪いゲームだったがスチルが綺麗だし、何よりヒロインの側にいるキリアが好きなのでもしかして続編のゲームは攻略対象になるんじゃない?という微かな希望を抱いて買ったのだ。
断じてストーリーにハマってしまったのではない。
イケメンのヤンデレは好きだけどね!
出来れば最後にゲームをしてから死にたかったよ、キリアが攻略対象だったかだけでも知りたかった……。
そして今日がゲームスタートの日、2年生に進学する日なのだ。
不安で胸いっぱいだ。こんな時こそ推しの笑顔を拝み英気を養わねば。
私は今から戦場へ赴く様な気持ちである。
これからゲームのキャラ達に出会うのかと思うと、薙刀とか自分の身を守れる物を持っていきたいくらいだ。
私達が通っている学園は共学であり、キリアも通っている。貴族の学校だが、側付きを伴ってもいいという事で、キリアも一緒に勉学に励んでいる。
なので学園内でもキリアの攻略ができるのだ。私が四六時中キリアに引っ付き周れば、変な子だと思って誰も近づかないだろうし、キリアにアピールする事もできる筈だ。私の事を避けなければ……。
私はキリアと一緒に屋敷から学園に通っているので馬車通学だ。学園内に寮もあり、そこから通っている人もいる。
玄関に行くとキリアが待っており、挨拶をしてくる。
「笑顔が尊い……。」
挨拶ではなく心の声が漏れた。
「はい?」
「いえ、何でもないわ。さぁ、行きましょ。」
キリアに告白したからというもの、最近心の声が漏れ始めている気がする。
吹っ切れたというか、自分の命がかかり始めていると遠慮しなくなってしまった様だ。
そんなキリアは最近さらに私を避け始めているが。
馬車の中でも私に顔を向ける事なく外の景色を眺めている。そんな姿も様になる。
「今日から2年生ね。同じクラスになれるといいのだけれど。」
「私はなれないことを祈っています。」
ん?今何とおっしゃいました?
笑顔でとんでもないセリフが聴こえた気がするんだけど幻聴かな?
「えと……今なんて?」
馬車がついたらしい。キリアが外に出て私に掌を差し出してくる。
「お嬢様が、早く私の事を諦めてくれるといいなと願っています。」
推しが笑顔で毒を吐いてきたわ。