1話
僕、キリア・ルートンは人生初めて告白されました。
「キリア、付き合って欲しいの。」
僕が廊下に置いてある花瓶に花を行けている際、
この屋敷に仕える旦那様の一人娘、ユリシア・ハーバヌリス様が話しかけてくる。
「分かりました。何処にお出かけでしょうか?」
もし、遠出するなら馬車を用意しないといけないかもしれない。僕は何処に行くのか問いかける。
「その付き合ってじゃないわ。お付き合いして欲しいの。」
お嬢様は眉間に皺を寄せ再度同じ言葉を言ってくる。
「えと、お嬢様に体当たりするのはいかがかと……。」
これで察するだろう。
お前と付き合う気は毛ほどもないと!
「貴方バカなの?私は貴方と交際したいと言ってるのよ。ここまで言わないと通じないの?女性にここまで言わせるだなんて男性としてどうなの?」
いえいえ、最初の一言で通じてましたよ。
ただ、言葉の意味を理解したくなかっただけですよ。それと僕の事本当に好きなんですか?最後の言葉ガラスのハートに刺さりましたよ。と言いたいけれど心にグッと仕舞い込む。
「お嬢様、私は将来執事になる為のフットマンです。
貴方と私には身分という壁があるのですよ。お嬢様が1番ご理解なさっていると思いますけど。」
「えぇ、でもお父様はその様な事気になさらないと思うわ。だって私のお母様は元メイドなのよ。だから、私と貴方は付き合えれるわよ。」
だろうな。旦那様は恋は身分など関係ないと周りに証明した貴族だ。お陰でこぞって身分差の恋愛が一時期多かったらしい。
しかし、そんな旦那様は貴族の恥だと指を指されているが本人は至って気にしていない。
「しかし、私は気にする方なので。では仕事がありますから失礼します。」
僕は足早にその場から逃げる。
「ちょっと!」
お嬢様が呼び止めるが知らない、逃げるが勝ちだ。
せっかく、貴族のお嬢様が付き合って欲しいと言ってくるのに何故付き合わないのかという疑問を持つ方がいるだろう。まぁ、どうしてこの様な行動をとってしまうのかというのはちゃんと理由があるのだ。
その理由を今からお話するとしよう。
一言で言うと僕は前世の記憶があるのだ。
僕の記憶が戻ったきっかけは庭仕事を手伝って、暑さで倒れてしまったのがきっかけだ。
「キリア、そろそろここを切り上げて屋敷に戻らないかい?一刻も早く冷たい水を飲まなきゃ倒れてしまいそうだよ。」
共に作業をしていたガーデナーのアルトさんに声をかけられる。
確かにこの炎天下の中作業していたら、熱中症になってしまう可能性がある。
私は熱中すると時間や周りを気にせず作業を続けてしまう事があるので声をかけてくれて助かった。
「そうですね、だいぶここの花壇も整いましたし……。」
急に立ち上がったせいかふらっと目眩がし、目の前が真っ暗になった。
遠くで私の名前を呼ぶ声が聞こえるがそのまま体が落ちていく。
このまま倒れてしまったらせっかく植え替えた花達を押し潰してしまうなどと思いながら僕は倒れた。
ふと目を開けると、真っ暗闇の中私は立っていた。目の前に長方形の光が出ている。その光の中に倒れている男性を見た。
そして私は……いや、僕は前世の記憶を思い出した。
前世の僕は高校生であった。
何も取り柄のない男子高校生で、成績も中の中。運動能力もそんな感じ。唯一、他の人とは違うなと思う事といえば庭いじりが好きな事。母親が花など好きだったので、一緒に花を植えたり、野菜を育てていたりしていたくらいだ。
そんな僕は17歳で亡くなった。死んだ原因は交通事故だ。
その日は妹に頼まれた予約のゲームを取りに帰った時に事故にあった。信号無視のトラックが歩道に突っ込んできたのだ。
平々凡々の僕が得など積んでいなく、このまま死んでいくんだな。思い残す事はそれ程ないけどせめて妹にゲームを渡してからがよかったのになと思いながら意識が遠のいていった記憶まである。
その光の中というよりテレビだけれど、そこに映っている男性は僕だ。
その光景を見て僕は一度死んだんだなという実感が湧いた。
僕がいるこの世界は妹が熱中していた乙女ゲームの世界だ。
仕えるお嬢様はゲームの中のヒロインである。
珍しい白銀の長髪に、目は赤目でぱっちりであり、笑顔は可愛らしい。しかしこのヒロイン最終的には死ぬんじゃなかったけ?妹曰く救いようのないゲームとか言ってたな。なんか全攻略者がヤンデレでどれもバットエンドに突き進んでいくゲームとか言ってた記憶が……。
しかもルートには従者が巻き込まれて死ぬんじゃなかったけ?
なんというゲームをやっているんだ妹よ。
記憶が戻った当初、そんなヒロインことお嬢様に壁ドンされました。
可愛い女の子に壁ドンされて嬉しいけど、実際にされるとちょっと怖いな、なんて。
「お嬢様、どうされたのですか?」
僕はお嬢様から距離を取ろうと僕から見て右側、腕の下を潜って逃げようとする。
ダンッッ
と大きな音を立て今度は足で通行を遮ってくる。
え……怖っ!僕何かしでかしました?
「……お嬢様、私何かしでかしましたでしょうか?」
僕は恐る恐る、お嬢様に問いかける。
「貴方、熱中症で倒れたって聞いたわ。」
眉間にシワを寄せながら言ってくるので、めちゃ怖い。
「お嬢様のお耳にも入ってしまったのですね。」
「後で貴方に塩入りレモン水を届けさせるわ。今日1日大人しくしとくことよ。」
そう言って去っていった。
何だったのだろう?僕の体調を心配してくれていたのだろうか。にしては凄い仏頂面だったし、人生初女性に壁ドンされてしまった。
まぁ、僕の身の為にもなるべく関わらずに済むようにしよう。
しかしどうやって関わらずして済むのか。
何でお嬢様専属のフットマンに転生しちゃたんだよ。
そんなこんなで色々お嬢様となるべく2人っきりにならない様避けていたけれど、何故か告白されました。
手元にスマホがあるなら調べたい。
告白断る方法
と。これが前世の学生時代だったら、夢かなとか舞い上がって、友人に相談したり、スマホでオススメデートスポットとか検索かけたりするんだろうけどな。
この世界で、いや前世も合わせて人生初告白されたのに……。
何故かな、目から汗が溢れてるよ。