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ゴザ協会の皆にバステルを届けた後、僕は王都をふらりと散策した。そして武装した王国兵の姿を見かけた。どうやら本格的に魔物の討伐に向かうようだ。魔族の皆は見つからないはずだ、ライザも森の中に村があると言っていたから、多分、いやきっと大丈夫だ。それに王国兵の中には密売人もいる。彼が上手く森への進軍を止めてくれれば、さらに良いのだが・・・。
(不安だ。僕に出来ることは全てやったと自負している。だがそれでも不安感を完全に拭う事なんて出来ないんだ)
暫くすると広い広場にいつか見た国王の姿が見えた。国王を迎える数多の群衆に向けて、優雅に手を振りながら国王はステージに立つ。そして王都の住民を見回した後、ゆったりとした口調で演説を始めた。
「諸君、本日は重要なことを発表するために急遽、この場を設けた。実は近日中に魔族の討伐のために王国兵を向かわせようと考えていたのだ。諸君も知っての通り、先の帝国との戦いは我らの勝利で幕を閉じた。我らは、強いのだ!」
国王のその演技交じりの演説に、大衆はいたく感動する。ふと周りを見渡せばどこもかしこも国王万歳の大合唱である。結局この王都の雰囲気は帝国との戦争一つでは変わらなかったようで、反吐が出る。確かにこの民衆の雰囲気を変えるというのは大変かもしれないが、今はゴザ協会の皆に託すしかない。もし僕が暴れて、何かの拍子に魔族の皆やライザの事がバレるのが一番怖いから。流石に既存の真実の魔法ではバレることはないが、改良しているかもしれない。そんなことを考えていると、国王が片手をあげて民衆を静まらせる。
「だが私はもう年だ、唯一の一人娘も魔物に襲われてウルルカンクに旅立った。跡継ぎの問題もあり、私が自由に使える時間と言うのは実は少ないのだ。もう諸君の前で演説をするのも最後になるかもしれない。しかし、このままでは諸君は不安だろう。一体魔物はどうなるのだ、大厄災はどうなるのだ、と。だから、私はここに宣言する。今日!今この時を以て王国兵は魔物の大規模討伐を開始する!」
「・・・え?」
周りで湧き上がる観衆の歓声に、僕の間抜けな声はかき消された。だが、今はそんなことは重要ではない。国王は今から討伐を開始すると宣言したのだ。慌てて広場を見回すと、いつの間にか王国兵が広場を埋め尽くしていた。まさか、この人数で魔物を討伐するのか?人海戦術で森の中を虱潰しに捜索するのか?
(不味い!この数は予想外だ!今すぐ森に向かわないと・・・!)
まだ完成が止まぬ広場に対して僕は背を向け、一目散に森を目指す。突風の魔法を追い風に使いながら、慣れた足どりで森の中を駆け抜ける。だが、そこで深刻な問題にぶち当たる。
「魔族の皆とライザ、どっちに隠密の魔法を使えば良いんだ・・・?」
不味い、不味い。討伐隊が組まれるのはもう少し先だと慢心しており、大事なことを見落としていた!僕の魔力回復速度ならば群落一つを長時間隠密の魔法で隠し通すことは出来る。だが、離れた場所にいる二つの群落まではカバーできない。
「今すぐライザを魔族の洞窟に移動させるか?いやダメだ、そもそも僕はライザの部落の場所を知らないじゃないか!」
そこでハタと気付く欠陥。逃げるための理由はいくらでも見つかる、討伐隊が組まれるのが早すぎた、戦争で忙しかった、ライザと仲間の時間を邪魔したくなかった・・・。だが、今更そんなことを言っても、僕自身が惨めになるだけだ。時間というものは止まりはしない、例え後から重大な過ちに気付いたとしても。それはぼ嫌と言うほど理解しているから、僕は唇を噛み締めて魔族の洞窟に向かうことしか出来ないのだ。
「ごめん、ライザ、ガルの皆・・・!僕のミスだ、せめて無事でいてくれ。この討伐隊を乗り切ってくれ」
そんなライザに届くはずもない謝罪の言葉をただただ言い続けるしか出来なかった。そして僕は魔族が住む洞窟に向かう。魔族の皆が僕の事を出迎えるが、今は一刻の猶予もない。歓迎の言葉を聞きながして簡潔に現状を伝える。
「皆さん、王国兵が攻めてきました」




