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fallen  作者: 流転
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「ワレはソロソロカエルとスルか」

「そうだね、今のライザにはもう帰るべき場所があるからね。ガルの英雄としてではなく仲間として、ね」

「チガイナイ」


そんなことを言って僕らは別れる。戦争の前に別れた時とは全く違う気持ちでライザを送り出す。きっとまた会えるだろうけど、暫くは無理だろう。仲間と過ごす時間と言うのは長いのだから。


「んー、くよくよしてても始まらない。僕も王都に行って、バステルでも買おうかな」


当然その目的は前にバステルを求めた時とは違う。殺すためではない。未来に繋げるために、バステルのあずかり知らぬところで、バステルには分かりもしない言語で、その実、当のバステルの命と金を秤にかけるのだ。だが、前までの僕とは違う、きっとあの店主も理解してくれるはずだ。


「らっしゃいー、ってこの前のあんちゃんか、どうした?バステルが必要になったのか?」

「えぇ、そうです。だから今日はバステルを売って欲しいんです」

「ほぉ・・・。一応何故必要になったか教えてもらおうか」


その質問は当然ではあるが、僕の心は決まっていた。淀みなく僕は自分の気持ちを曝け出す。もう前の様な後ろめたい気持ちもなければ、自分がさも正しいと感じるような傲慢さも持ち合わせていない。誠実な受け答えが今の僕には出来る筈だ。


「店主さんはゴザ協会ってご存じですか?」

「ゴザ協会?知ってるぜ、シスターと何人かの孤児がいるところだろ。それがどうした?」

「実はその境界に昔お世話になったことがあって、それでバステルを送ろうかな、と。バステルは食用にもなりますし、重い荷物も運べる。何なら畑を耕すのにも使えるでしょう?」

「なるほどな」


家畜と一言に行っても暮らし方は多種多様である。僕は王都で暮らして、様々なバステルの生き方を見てきた。使い道が多いという事は、少なくとも腐りはしないはずだ。それにこれは僕の気持ちの表れでもある。事実、ゴザ協会はヒエラ草の採取依頼からパテンさんへのポーションまで助けられてばかりだ。シスターもシスティアも、そしてミーシャも根は優しいことも知っているから、これが僕に出来るせめてもの恩返しだ。僕の応えを聞いて店主は一度お菊頷いた後、一番の笑顔を見せてこう言った。


「今のお客さんには心置きなくバステルを売れるな。折角だから一番上等な奴を売ってやる。値段はそのままでいいが、その代わり今の気持ちを忘れるなよ」

「・・・ありがとうございます」


人生という長い道のりの中で人というものは星の数ほど躓く生き物だ。実際、前にバステルの販売を拒否された時は、挫折にも似た絶望を感じた。そこから解決の糸口を探すヒントを与えてくれたのもこの店主だ。そして、店主の言葉はきっかけに過ぎず、自分が変われたのは自分自身の努力だと、今なら胸を張って言える。僕は最後に大きく頭を下げ店主へのお礼を告げて、店を後にした。


今、僕の前には古びた協会が建っている。前に来たときはヒエラ草採取の依頼を受けた時だ。扉の建付けの悪さは変わらず、ギギィと大きな音を立てて扉が開く。中からシスターを先頭にシスティアとミーシャが出てくる。


「あら、貴方は冒険者のリューさんですね。もしかしてヒエラ草を持ってきていただいたのですか?」

「いえ、ヒエラ草よりももっとすごいものです。なんと・・・バステルのお届けです」

「・・・え?」


シスターは最初何を言っているか理解できないと言った感じであったが、教会の外に出てバステルの姿を見た後、その顔が驚愕に染まり、パクパクと口を開け閉めしながら僕の方を見た。因みにシスティアとミーシャはこれほどまでに立派なバステルは見たことがないらしく、思わずバステルの方に走っていった。


「正真正銘、バステルです。ゴザ協会にはお世話になっているので、差し上げます」

「・・・いいんですか?」

「はい、構いません。ゴザ協会はあまり良い生活が出来ていないみたいなので。対して僕は戦争でお金が入りましたし、困った時は助け合いです」

「・・・ありがとうございます。このバステルは大事にします」

「その代わりと言っては何ですが、実はお願いが」

「何でしょう?」


さて、ここからが本番だ。ここのシスターはガダーディス信者でありながら、イスファ=リアを信奉する僕の事も受け入れてくれた過去がある。つまり、相手の話を自分の感情だけでぞんざいに扱ったりしないと言える。だからこそ僕はこのゴザ協会にバステルを送り予め恩を売っておきながら、少しでもその後の交渉が上手くいくように仕向けたのだ。


「ゴザ協会の皆さんに、魔族の脅威はあまりないという事を王都の中で言いふらして欲しいのです。大厄災が来ても王国には屈強な王国兵がいるじゃないか、と言う風に」

「え?それは、でも・・・大厄災が脅威であることは変わらないんじゃないでしょうか。それに王都の民はガダーディス信者です。大厄災は乗り越えるべき試練であり、そのためなら魔族との戦闘もやむなしという風潮は、そう簡単には拭えませんよ?」

「大厄災は神の試練・・・その前提がまず可笑しいじゃないですか。神は人間の事なんて眼中にないです、いつの時代も人間は自分たちで道を切り開いてきました。神は人間のために何かをしましたか?昔は勇者を召喚した時に神の祝福が授けられたと言いますが、今では呼び寄せの魔法なんて誰も使ってません。そもそも生まれた時から訳も分からずガダーディス信者にさせられて、それで満足なんですか?多種多様な生き方こそ人間の本質でしょう?」

「た、確かに貴方の言う事は分かります・・・」

「もしよければ、王都の住民に広まっているガダーディスの足枷を解いてはくれないでしょうか?シスターの貴方が説得してくれれば、必ず王都の住民の心は動きます。本当は戦争なんて誰もしたくないんです、それが人間相手でも魔族相手でも。彼らの生存本能を呼び覚ましてくれないでしょうか?」


僕が捲し立てるとシスターは次第に圧倒されていき、遂には僕の最後の一言がトドメとなった。


「・・・分かりました。ここにいる孤児も、親を魔物に殺されたり戦争で失ったりした子供が多数です。魔族と戦争をすれば人間側もただでは済まないし、王国兵にも帰りを待つ家族がいる。そしてそれは魔族にも当てはまることです。本当は誰も傷つきたくないはずです。ゴザ協会の全員で王都の民に語り掛けてきます。人の心を変えるのは至難の業ですが、待っていてください。受けた恩は必ず返します」

「・・・ありがとうございます!」


そうして僕らは握手を交わす。最初から人間一人に出来ることなど限られている、そこで諦めればそれまでだ。人生何も変わらずに朽ちていくのみになる。だがそこで周りを見渡せば、周りにいる人の表情が鮮明に見えるのだ。人間の心の弱さにつけ込むことは悪い事ではない、これも一種の助け合いだ。戦場でリクさんから学んだ生き方である。

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