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fallen  作者: 流転
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「諸君、王都は冒険者と兵士たちの活躍で守られた。残念ながら冒険者を筆頭として多くの者が散っていったが、その死は無駄ではないと信じている。帝国の魔の手を退けることが出来たという事は、大厄災にも十分対抗できるということだ。今は亡くなった者たちに向けて、ウルルカンクに祈りが届くように皆で手を合わせようではないか」


あの後、リグウェルさんは村に帰っていった。もう彼の事を敗残兵なんて呼ぶことは出来なかった、それほどまでに彼の背中は大きく映ったのだ。そして僕たちは今広場にいる。国王の鶴の一声が響き渡り、場を支配する。王都の国民のほとんどはその声に従順に従う。疑う事を知らずに信仰心だけで生きていられるのなら、どれほど楽だろうか。ただし、それは己の身に災いが降りかからない事が前提であるが。つまり何が言いたいかというと、僕の横でパグさんとリクさんが物凄い形相で国王を睨んでいるという事だ。二人ともこの場では何も言わないし、国王を糾弾した所で無意味なのは理解しているようだが、感情は抑えきれないようだ。国王の演説が終わり、国民たちは解散して、彼らにとってようやく戦争が終わったという認識が生まれたころ、当の僕らは居酒屋で酒を飲み明かしていた。


「くそっ、ふざけやがって!国ぐるみで変な実験しやがって。ってか、俺様はこんなどす黒い魔力瓶持ち歩きたくねぇんだがよ」

「俺もリューも持ちたくないんだ、お前が持て。あと声を控えろ、兵士に聞かれたら面倒だ」

「あぁ!?俺様は酒が弱えんだよ!オメェらみたいにポンポンとヌーラの火酒なんて飲めやしねぇ!おい店員!王国の水酒ひとつ!」

「王国の水酒って・・・それ、王都でとれた水ですよね?」

「リュー、あまり細かいことは気にしないほうがいいぞ、バカは放っておけ。あと意外だな、辛い酒もいけるクチとは」

「僕なんて弱いほうですよ。でも周りに合わせていくうちにいつの間にかはまっちゃいました」

「それで弱いとは、周りはよほど強いんだな。あぁ、勿論そこの雑魚は違うがな」

「誰が雑魚だ、聞こえてるんだぞぉ!いいか、オメェら、俺様はもうこの王都を出ていくぞ!」

「おぉ、いいぞいいぞ。とっととどっかに行け」


リクさんが長い息を吐きだした後、酒が入っているにもかかわらず妙に強い目で僕らを見つめる。その目で、彼が本気だということが分かる。もともと旅が好きなリクさんのことだから、この提案も別に不思議ではない。だが、今回はそれだけではなかったようだ。


「もううんざりなんだよ、俺様より大きな存在に振り回されるのはな。今回初めて抗ったが、結局対峙した兵士たちは操られただけの人形で、まるで下位争いの潰し合いみたいで、やってらんねぇんだよ」

「それで王都から出ていくのか、野垂れ死ぬのだけはやめておけよ、折角の命なんだからな」

「はっ、オメェに心配される謂れはねぇ。まぁ好きなように生きるさ、人生長ぇようで短けぇ、テメェの人生を堪能せずに何とする、ってな」

「またいつでも帰ってきてくださいね、話して分かりましたけどリクさんは良い人ですから」

「あぁ、そうだな。またいつか、な。じゃあな、達者でな」


そう言い残してリクさんは飲み代だけ残して居酒屋から立ち去った。彼には彼の人生があるのだ、僕がとやかく言う事でもない。暫くパグさんと飲んでいたが、やがてパグさんも決心したように話し始める。


「リュー、実は俺も少し生き方を変えようと思っている。というのも、今回の戦争で冒険者ってのは国にいい様に使われる職業ってことが分かったからな。そして俺には再生の魔法の才能があることが分かった。これからは癒し手として生きていこうと思う」

「癒し手ですか、いいですね。それに再生の魔法を極めれば、もしかしたらパグさんの大事な人を救えるかもしれませんからね」

「・・・おう、もう他人任せなんて事は出来るだけしない様に生きる。元を辿れば魔法だって神の奇跡の真似っ子だ、それなら俺が独自の研究で既存の魔法を変えることが出来るかもしれない。立ち止まっても何も生まれないからな」

「いいと思います、頑張ってください、応援してますから。僕は残念ながら才能なんてないですし、冒険者以外に生きていく道はないですから」

「そうか・・・。手が一本ないだけで、他は何も変わらない・・・、いや話せば芯のある強いやつだと分かるというのにな。先入観ってのはやはりいけないな。まぁ、なんだ。とりあえず飲むか」

「えぇ、パグさんの新しい旅立ちに、乾杯」


戦争が始まる前までは名前さえ知らなかった人と杯を交わす。ヌーラの火酒に脳を焼かれて、思い出の輝きが増す。べろべろに酔った体で居酒屋から出るが、記憶は消える事無く、思い出となり僕の中で生き続けているのが分かる。そのままパグさんと別れて、パテンさんの宿屋に向かう。


「パテンさん、ただいまですー・・・って、うわ!どうしたんですか詰め寄ってきて」

「どうしたもこうしたもあるかよ!戦争が終わったってのにリューが帰ってこないから心配したじゃねぇか!生きて帰れっていう俺との約束を守ってくれて、本当に良かった」

「大袈裟ですよ」

「バカ野郎、少しくらいの大袈裟はご愛敬だ、見逃せ。もうこの年になるとな、見知った奴らがどんどん死んでいって、この世界に俺だけが取り残されていくんだよ。今回も若い命が失われるかと心配したんだぞ。俺の寿命を削りやがって、許さねぇからな」

「・・・」

「だがな、生きて帰ってきてくれて本当にうれしいんだ。前のヌーラの火酒もよかったが俺にとってはこっちの方が誕生日プレゼントに相応しい。・・・そんなことを言うと酒が飲みたくなってきたな。勿論祝い酒だ、リュー二次会いけるよな?」

「えぇ、もう限界ですよ」

「そう言うなって、ほら座れ。まだ少しは飲めるだろ?」


そう言われて、僕は思わず座る。するとパグさんは台所からヌーラの火酒を持ってきて満面の笑みを浮かべながら


「よく帰ってきたな」


そう言って僕と杯を交わす。長い夜だった。戦場は地獄の様な時間が途方もなく長く感じられたが、今夜は明るさに包まれて、一瞬の楽しさの連続が織り成す、長い忘れられない夜だった。

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