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王都に帰ってきた僕は、少し寄るところが出来た。この前パテンさんにヌーラの火酒をプレゼントしたことやミーシャと下らない話で盛り上がったことがきっかけとなったのだろう。。古い記憶をたどりながら王都の町を縫う様に歩いていき、やがて人の喧騒が少なくなった頃に、目の前に目的地が現れた。それは懐かしい記憶のままのカタチを保っており、僕はしんみりと感傷に浸る。色とりどりのブレスレットが売られているのも昔と何ら変わりない。暫くたった後目当ての色のブレスレットを探し出すが、それはすぐに見つかった。透き通るような緑色のブレスレット。ライザの魔力の色にピッタリとあてはまる色のブレスレットだ。早速買おうとしたところで、前におじいちゃんと話したことを思い出して、折角だから値切ろうかなと考える。
「すいませーん!」
「はいよ」
奥から現れたのはおじいちゃんより年を取っているのではないかと思える老婆だ。ヒョコヒョコとティビのようにやってきて、僕を見て一言。
「前に来た時に一緒にいた爺さんは息災か?」
その言葉を聞いた時、僕は最初驚きを覚えた。前に来たときは確かにおじいちゃんとこの人は交渉をしていたけど、僕はそれを見ていただけでこの人と会話はしていない。それなのに僕のことを覚えているとは、素直に驚いたのだ。そして同時に悲しさもやってくる。
「おじいちゃんは亡くなりました」
「・・・そうか」
それだけ言って老婆は押し黙る。対して僕は言いたいことが山ほどあった。おじいちゃんと知り合いだったんですか、他人の死に驚かないんですか、悲しんだりはしないのですか、と。しかし僕がそれらの質問をする前に老婆がまた口を開く。
「坊やが悲しそうな顔をしていたから、そんなことだろうと思っていたよ。前に来たときは楽しそうな顔をしていたのにね」
「・・・よく見ているんですね」
「まぁそういう商売だからね。仕事でもなければあんな偏屈爺さんの名前も覚えていないよ。久しぶりにやってきたと思ったら、いきなり値切りしてきやがってさ。だいたいなんで来るたびに付き添いの坊やが変わっているんだよ。坊やだけ残してくたばるなんてあの爺さんも酷なことをするもんだ」
老婆はそう愚痴を零す。一度愚痴が零れると、たがが外れたかのようにおじいちゃんへの憎まれ口が次から次へと出てきて。僕は口をはさむことが出来ずにいた。やがて老婆はふぅ、とため息をつく。
「見苦しいところを見せちまったね」
「いえ、大丈夫です。あの、これ買いたいんですけど」
僕がそうやってブレスレットを見せると、老婆は少し悩むそぶりを見せた後、値引き後の金額を提示してきた。またも僕は老婆に驚かされる。
「いいんですか?毎回値引いてたら商売が成り立たなくなると思うんですけど」
「いいんだよ。これに関してはね。ただし、これだけは約束だ。次に来るときは笑顔を見せに来なさい。アタシャ客の笑顔を消すためにブレスレットを売ってるわけじゃないんだからね」
僕はその言葉の意味がよくわからなかったが、去り際に老婆の小声が聞こえてきて、ようやくこの人物の事を少しわかった気がした。
「カカの分まで生きるんだよ」




