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「平田さん、急にお呼びしてすみません。平田さんの依頼の件ですが、電話でお伝えした通り犯人が捕まったのでお呼びしました」
「探偵さん、妻は・・・佐恵子はこれで報われるんですよね?やつは死刑になるんですよね?」
「それについてなんですが、犯人の動機と行動がちぐはぐなんですよ。犯人は金目的と言っているのですが実際には殺人も厭わなかったので、精神鑑定を受けさせた方がいいと考えるんですよ・・・」
「精神鑑定・・・ですか?」
「当然奴さんの弁護士も精神鑑定を受けさせようとしてくるでしょう。平田さんにはそのことを止めないで欲しいんです」
源さんがそこまで言い終わると、平田さんの纏う雰囲気が変わる。それもそのはず、事件の解決を依頼した探偵に、犯人が減刑される可能性を示唆されて、さらにそれを見逃せと言われているのだ。俺は依頼人である平田俊己さんと、探偵事務所の先輩である源さんを見守る。そのつもりだったのだが・・・
「平田さん、俺からもお願いします」
「・・・それは結果次第では犯人を許せと言うんですか?」
「平田さんが辛いのは分かります。でも正直に言えば俺と平田さんは他人で、平田さんの苦痛が全てわかるわけではありません。他人だからこそこれほどまでに言えるんです」
「お、おい八代・・・?」
突然割り込んだ俺に対して源さんが驚きの声をあげる。だが俺は止まらない。最早自分で自分のことを制御出来ていないのかもしれない。言葉が次々に出てきて、とてもではないが、自分の事を客観的に見ることが出来ないのだ。
「今回の犯人も平田さんにとっては他人です。平田さん自身も犯人のことなど分かるはずがない、というか何も知らないと思います。そのうえで、精神鑑定だけは受けさせた方がいいと思うんです。精神鑑定の結果がどうであれ、その人物を知るうえでは重要な指標になると思うんです」
「私の妻を殺した殺人鬼という事実だけが大事なんです」
「・・・俺はそうは思いません。平田さん、感情に振り回されると本当に大事なものを見失ってしまうと俺は思うんです」
「・・・あなたに何が!」
「分かります・・・!俺だからこそわかるんです・・・」
後半、源さんは俺と平田さんの口論を黙って見ていてくれた。変わったのだ、俺も源さんも。過去に歩んできた道のりが、今の自分を形作る。そして、俺が歩んできた感情に身を任せる人生だけは依頼人には歩んで欲しくないのだ。嫌な思い出として自分の過去の記憶を封印してしまえば、これほどまでに楽なことはない。依頼人の意見を尊重すると言ってしまえば、自分は無関係でいられる。だが俺はたとえ自分が嫌われ者になったとしても、依頼人に強く当たる。少し考えさせてほしいと言って事務所の外に出る依頼人を、俺は黙って見ていた。




