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fallen  作者: 流転
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無数の墓がそびえたつ墓地の前の広場で白ローブの集団が演説をしている。騎士団と冒険者の遠征も大詰めらしく、彼らは自分たちの考えを群衆に向けて発表している。つまりは魔族を皆殺しにするべし、と。勿論彼らがラティムさんとリフィーア、魔族の皆を襲うのなら、僕は彼らと敵対することになる。そんなことを漠然と考えていると群衆から歓声が上がった。


「皆様、集まっていただきありがとうございます。私一人の力では魔族に対抗できずとも、人類が団結すれば必ず魔族は倒すことが出来ます。そのためにも我々には指導者がいる、そうでしょう?」


白ローブの集団の中で、前も演説をしていた人が演技臭く話す。そしてゆっくりとした動作で彼の背後に立つ人に人々の注目を向けさせる。


「今日はなんと我々の研究を支持しておられる国王陛下にお越しいただきました。さぁ国王陛下、前へ」


その言葉と共に現れたのはやせ細った一人の男だった。やつれてはいるが、その目には生気が宿っている。いやむしろ、生気以外にも混ざっている気がしてくる。それほどまでにその男は存在感を放っており、国王陛下と言われると納得してしまうのだ。この国の王様を初めて見た僕と違い、群衆達は沸き立っている。この場の雰囲気が僕というよそ者を寄せ付けまいとしている気がして、寒気がした。


「国民たちよ、静まりたまえ。諸君の気持ちは十分に理解した。そして私自身も諸君の気持ちを理解しているつもりだ。諸君は怯えているはずだ、大厄災に。なぜ自分が生きている間に大厄災が起きるのかと嘆いている者もいるかもしれない。しかし心配はいらない。魔物への対抗は、優秀な研究機関が努力の末に獲得した力により実現可能となった。今やこの国には紋様で強化された兵士たちが存在している。そしてこの力を使えば、魔族を滅ぼすことも可能かもしれない。魔物と戦うにしろ魔族と戦うにしろ、諸君は兵士たちを支えて欲しい。共に未来を変えようではないか!」


国王の長々とした演説が終わった。一瞬の静寂の後に湧き上がる群衆。国王の娘が魔物に殺されたからと言ってなぜ全ての魔物を殺そうというのか、関係ない魔族を殺そうというのか。僕には一切分からない謎だが、やせ細った国王の目にはやり遂げてみせるという信念の灯が宿っていた。


(理解できない・・・)


理解できないのだ。国王と国民の異常なまでの攻撃性と、この場を支配する人間の醜い感情を濃縮させたような空気が。べっとりと纏わりついてくるその狂気になぜ身を委ねることが出来るのか僕には理解できない。しかし否定はしない。理解できないことと否定することは同一ではない。彼らが彼らの信じる道を進むというのなら、僕は僕の信じる道を進むだけだ。


そんなことを考えていると群衆の中から一人の少女が前に出てきた。後ろにいるのはゴザ協会のシスターとミーシャだ。ということはあの子は協会が引き取った孤児だろうか。


「こくおうへいかさま、あいたかったです。えっと、えっと・・・これ、うけとってください」


緊張していたのだろうか、たどたどしい口調で話す少女が前に出したのはテラ花だ。敵意に敏感で、周囲に怒りの感情を感じると赤く発光し自信を守ろうとする植物だ。その後少女はポツポツと自分の両親が魔物に殺されたと語った。おそらく少女は魔物を許せないのだろう。テラ花が今もなお赤く光っているのは自分の感情をコントロール出来ていない証拠だ。はたしてテラ花を受け取った国王は口を開く。


「魔物に両親を殺されたのか、それはさぞかし辛かっただろう。もう少しはやく魔物に対抗出来ていたら、このような被害者が出なかったと思うと悔やまれる。すまなかったな、そして安心してくれ。仇は必ず取って見せる」


そう言い国王は涙を流す。その涙にあてられたのか少女は冷静を取り戻したようでテラ花の発光が止まる。周囲の人間は感動的な光景を見たように、人によっては涙さえ流しながら二人を拍手でもって称える。反面、僕は一人悪寒がしていた。先ほどまで国王は冷徹非常な人間だという印象を受けていた。しかし今はこうして涙を流している。人間らしいと言えば人間らしいが、果たして今日初めてあった人に心の底から同情できる人間などいるものだろうか。そう考えるとこの場の空気がさらにどんよりした気がして、僕は逃げるようにその場を離れた。

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