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気付けばブックマーク3件。タイトルも短く、検索ワードに引っ掛からないように細心の注意を払っていたのに、何処から辿り着かれたのか。
「ウカナイカオをシテイルな、リューよ。ナニかアッタのか?」
「ライザに話すほどの事じゃないですよ。よくある話です。理不尽に見舞われた人に手を差し伸べることが出来ない自分がもどかしく感じる、それだけの事です」
ある日の午後、僕はいつものようにライザと出会いお互いのことについて話し合っている。僕の剣をライザに見てもらい、ライザの魔法を僕が見る。ライザの魔力の扱いは成長しており、僕がおじいちゃんの家にいたころよりも速度も正確さも上回っているように見える。対して僕はどうかというと、もともとライザほど筋肉がないので、無茶苦茶な剣の振り方をした体にガタが来ていた。
「ムリをスルナ、リュー。ツライのナラ、キョウのレンシュウはヤメテオケ。リューのジンセイだ、イキイソグコトはナイ」
「そうですね、ライザの言う通り今日は休んでおきます・・・。ライザ、僕の話し相手になってくれませんか?話しながら魔力を練る練習だと思って」
「ム?カマワンぞ」
「ライザは僕を利用して魔法と人間の性格について学ぼうとしたんですよね。それは自分のためですよね」
「ソウダナ、ワレはジブンのタメにリューをコロサナカッタ。ソコはコウテイしよう」
「僕が今まで見てきた生き物は全て生存本能が高かったです。ピィーもティビも、魔物も人間も。それぞれが自分にできることをしてきて生き延びようとしてきました。でも他者の心までは理解できなかった。なんで僕を庇って死んでいったのか分からなかったんです」
「ソレがニンゲンとイウヤツジャナイカ。フシギでワカラナイ。ジブンのタメデはナク、トキにはタニンのタメにイノチをハレル。ワレはソウイウことをリューにオソワッタハズダガ?ナニをナヤンデイル」
「時々思うんですよ。こんな感情、捨て去りたいって。他者を大切に思うのも大事だけど、それだと残された側はどうすればいいんだって。残された僕は、相手がどんなことを考えて僕を庇ったのか延々と考え続ける羽目に・・・。あっ、すいません」
見るとライザが上手く魔力を練れていなかった。そうだ、失念しかけていたがライザも同胞を失ったのだ。それも目の前の男に。取り残されたのはライザも同じ、この話題を振るのは不味かった。暫くの間沈黙が続く。なにかライザとの距離が縮まって勘違いしていたのかもしれない。ライザにとって僕は生かすことの方が利益を生むだけ。自分が魔法を覚るための、人間の性格をより知るための糧なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。イスファ=リアもライザも知能はあるのだろう。しかし情があるかどうかは分からない。それに情があっても僕が対象になっているかどうかも分からない。結局のところは他人でしかないのだ。
「・・・すいません、忘れてください」
「イヤ、ワスレナイぞ。チョウドワレもワレのブゾクのコトをカンガエテイタのだ。ワレはブゾクのタメにツクシテキタつもりだが、アイツラからミタワレはドウナッテイルのか、とな。エイユウか、ハタマタアワレナグシャか」
「ライザの同胞を殺したことについては本当に申し訳ないです・・・。そうだ、丁度ここら辺でしたね」
「ナンダ?」
「折角なのでお墓を建てようと思いまして。遅くなってしまいましたが」
「フム、ハカか。ハカをタテテもミカエリはナイとオモウが」
「見返りがあるかどうかなんて関係ありません。彼らが生きていたという証をこの世界に刻むんです。決して風化させないように、忘れないように」
恐らく前までの僕なら絶対に言わなかったことだ。ライザの同胞の話を蒸し返すなんて、自分の首を絞めるようなものだ。でも今はライザにこの感情を知って貰いたい。残されたものの責務である、散っていった者を忘れないという事を。心境が変わったのだろうか、ライザと親しくなれたからだろうか、それとも余裕が生まれたのだろうか。理由は分からないが、ライザには知っていてもらいたい。
「人間っていうのは複雑なんです。ライザもいつか、自分の部族を家族という日が来ますよ。魔物も魔族も、はたまた人間さえ、そんなに変わらないですから」
自分の命を優先してライザに何も言えなければ、それは僕として終わりだ。面食らったような顔をしているライザに僕は満面の笑みを浮かべる。僕の大切な人たちで構成された小さな世界。この大厄災の直前、人間がピリピリしているときに、僕はライザを招き入れる。そうだ、守れなくて後悔するより自分の知らない所で死んだと聞く方が、何より自分を許せなくなる。これから僕はライザに、今まで渋っていた人間の感情を本格的に教えていく。これは僕の覚悟だ。ライザが楽しいときは一緒に笑い、哀しいときは話を聞く。怒っているときは叱りを沈め、喜んでいるときはちょびっとからかってみる。どんな事があろうとも受け入れ寄り添っていくという決意なのだ。




