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fallen  作者: 流転
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「むっ、冒険者!こんなところで何をしているです!」


剣の練習をしていると聞き覚えのある声が飛んでくる。


「何って、剣の練習だよ。僕も冒険者だからね。それにここは僕が住んでいる宿屋だよ。そういうミーシャちゃんこそここで何をしているんだい?」

「ここの宿屋の主人にシスター様が作った薬を売りに来たのです!余ったら売ってくれと言われていたのです!」


前に僕がヒエラ草を採集して作った薬を売りに来たようだ。それにしても気のせいだろうか、ミーシャが心なしか嬉しそうに感じる。


「なるほどねぇ・・・。ところでさ、僕の名前言ったはずだけど、いい加減その冒険者っていうのやめてくれない?」

「ミーシャは忘れたです!」

「え、えぇ・・・。もう一回言うよ、リューって言うんだ。よろしくね」

「リューですか!今度こそ覚えたであります!」

「おう、ミーシャちゃんじゃねぇか!薬持ってきてくれたのか偉いぞぉ。ガッハッハ!」


そんな会話をしているとパテンさんがやってくる。パテンさんは大きな手でミーシャの頭を乱暴に撫でる。がさつだと思うけど、なでられているミーシャは満更でもなさそうだ。嬉しそうな顔をのぞかせている。


「はい!薬です!」

「おう、確かに受け取った。あとここまで持ってきてくれたミーシャちゃんに褒美をあげよう!」

「待っていたです!」


そういうとパテンさんは出来立てのバステル焼きと硬そうなパンをミーシャの前に並べる。その献立は僕が初めておじいちゃんの家で食べたものだ。そんなことを知ってか知らずかミーシャも当時の僕と同じように、美味しそうに食べる。そして・・・涙を流すのだ。


「美味しいです!美味しいです!」

「ガッハッハ!急ぎすぎて喉に詰まらせるなよ。お代わりもあるから、遠慮するなよ」


あぁ、一緒だ。今ご飯を食べているミーシャはあの時の僕と一緒だ。しかし圧倒的な違いも存在する。それはミーシャにとってはこの食事がご馳走であることだ。僕にとっては毎日おじいちゃんが作ってくれるいつもの料理だった。初日こそ涙を流したが、今は普通にバステル焼きを食べている。しかしミーシャにとってはそうではない。僕の脳裏にあの寂れた協会がチラつく。僕にとっての日常は、他人にとっても日常であるとは限らない。


「ご主人!リューという冒険者が先ほどまで庭で剣の練習をしていたというのです!どれくらい練習をしているのですか?」

「リューは依頼のない日は毎日剣の練習をしているぞ。まぁ夕方は忙しいようだが、それ以外はずーっと剣を振るっているなぁ。少しは休憩という言葉を知って欲しいもんだ。ガッハッハ!」

「・・・僕は強くならないといけないので」

「どうして強くなりたいのですか?リューは英雄じゃなくて冒険者なのです!強さを求め、大事なものを守るために命を賭すのは英雄の仕事です!」

「同じだよ」

「へっ?」

「僕は冒険者だ。勇猛でなくてもいいし、自分と自分の知り合いさえ生きていれば他はどうなってもいい、そんな人間だ。でもね、その自分にとっての大切なモノを守るためには強くならないといけないって分かったんだよ」

「どういうことですか?」

「大切なモノにどんな理不尽が降りかかろうと、世間からのけ者にされようと守り通せるだけの力がいるってことさ。そういう意味では英雄と同じだろ?」

「なるほで、分かったような分からなかったような気がするです!つまりリューは何か大きなことを抱えている、そんな気がするです!」

「うん、大体間違ってないよ」

「ミーシャも負けてられないです!ご飯を食べたら元気が出てきたです!ご主人、ありがとうございましたです!ミーシャも特訓するです!」


そう言ってミーシャは宿屋を出ていった。本当に台風の様な子だ。突然やってきたと思ったら、急いで帰っていった。僕はそのミーシャが出ていった扉をただ眺めるしか出来なかった。ミーシャはお世辞にも健康的な食生活を送れていない。特訓した所で騎士の様な屈強な体は得られない。ミーシャを取り巻く環境がミーシャの成長を抑えつけているのだ。だからこそ自分が恥ずかしい!協会の様子も知っていた。ミーシャのやせ細った腕も実際に触った。だが僕は何もしてやれなかった!見て見ぬふりをして、関わらないようにしようと目を逸らしてきた。ライザと仲良くなって、おじいちゃんの所に帰り、リフィーアさんと話をすることで自分の大切なモノの中にミーシャが入ってこないようにしていたのだ。


「リュー、何を考えているかは知らんがな、このガダードの星に存在する全ての人間を救う事なんて不可能だ」

「・・・分かってます」

「俺だってミーシャちゃんに施しはやれるが、じゃあ協会に大量に寄付をして協会の孤児全員を救えるのかと言われれば無理だ。そもそもこの社会から孤児という概念を取り払う事なんて出来ねぇ。根本的な解決なんて俺には無理だ。俺のやっていることは世間から見れば焼け石に水だ。」

「・・・それも分かっています」

「そもそも人間が助けられる命なんてたかが知れているんだよ。自分の両手が届く範囲、それだけだ。リュー、抱え込み過ぎるなよ。全ての人間を救うなんてことは神にだってできやしない」

「・・・!それでも!自分の両手が伸びるように努力しているんです!今は届かなくても、いつかはこの両手が届くと信じて!」


・・・

・・

リューは声を荒げた後小声で一言、練習の続きをしてくると言って外に出ていった。カカがリューを気に入ったのも納得がいく。俺はそのリューの後姿を見送りながら軽く愚痴を零す。


「ったく、あいつらは揃いも揃って・・・。頼むから俺より先に死ぬなんてことはしないでくれよ」


あいつらにとって大事なものがあったように、俺にとってもあいつらが大事なのだ。もう一人取り残されるなんてことはごめんだ。やれやれと、ミーシャが残していった皿を洗うことにする。丁度いい、練習中のリューが食べた後の皿もついでに洗っとくか。


「洗う皿が増えるってのは嬉しいねぇ・・・」

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