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洞窟の奥に歩を進めていくと、人気もまばらになる。洞窟の奥深く、数多の墓石の前にリフィーアと呼ばれる次期魔王がいた。年は僕より若いと思う。まだ少女と言っても差し支えない年齢の子が魔族の未来を、神の呪いを、人間からの敵対心を全て受け止める。そして次の大厄災が来る前に自殺するのだ。いや、預言者が死んだらしいから、今の世論の風潮通りならこのまま神の呪いを止めるために魔族を皆殺しにして、物理的に魔王任命を阻止するかも・・・。
墓石に祈っている少女を見下ろす。僕はこの少女を支え切れるのだろうか。おじいちゃんとの約束を反故にしたら、おじいちゃん怒るかな。最近そんな考えばかり浮かんでくる。暗い気分になるのも仕方がない。僕は無力だと最近痛感させられることが多いから。でも落ち込んでばかりもいられない。残念ながら僕に立ち止まるという選択肢はもとよりないのだ。
「えっと、リフィーアさん、ですよね?」
「・・・!誰!?に、人間・・・?」
「あー、えっと。リューって言うんですけど、ラティムさんから聞いてませんか?」
「リューって、父さんが言っていた人間なのに人間っぽくないって人?」
あれ、なんかデジャブ。
「・・・魔族の中で僕はどんな風に思われているんですか。珍生物か何かですか?」
「いや、実際珍生物じゃない?私たちの角を見て怯えないなんて。人間がしてきた復讐をされるとか思わないの?」
「思わないですね」
結構言われているけど、元々僕は別の世界から来た存在だ。魔族の見た目なんて分からなかったからラティムさんに出会ったときも自然体だったし。それに話してみたらちゃんと自分の考えを持っていて、危険そうという感情は持たなかったしなぁ。まぁ僕とこの星の人間との違いは先入観があるかないかだけだ。それに・・・
「僕以外にも魔族を嫌っていない人間はいると思いますよ」
「あぁ、魔法使いのカカって人だっけ?あの人も変わり者よね」
「いえ、王都の中にも魔族排斥を訴えている人に抗議してた人もいますし。まぁあの人は単純に魔族がいなくなると冒険者としてに稼ぎが減るとか打算的な考えでしょうけど」
「何よそれ、利己的すぎるじゃない。自分たちの都合に合わせて必要だ、不必要だと話を変えて。第一欲望丸出しで魔族保護を訴えられても迷惑なのよ」
「・・・そうでしょうか?」
「え?」
「最近思うんですよ。僕がいくら魔族排斥をやめろと声高に叫んだとして、人間の心はそう簡単に変わらないでしょう。なにせ彼らの原動力は恐怖という、強く人間を突き動かせる感情です。それなら同じくらい人間を突き動かせる感情である欲望、これを利用しない手はないでしょう。欲を言えば人間全体の考えを変えたいですが、現状では厳しいですから」
「うっ・・・。何よ突然堅実な思考になって。言っとくけど父さんは比較的人間と仲を良くしたいと思っているし、こんな状況になっても人間と戦争をしようなんて言い出していない。でも私も同じとは限らないのよ」
「同じですよ。魔族というのは優しい。それは人間である僕がこの洞窟の中で生きているということが証明しています。リフィーアさんから見たら僕は一方的にやってきて自分たちのことを励ましてくれる、頭のおかしい人という感じでしょう」
「自覚あるんだ」
「今はそれでいいです。でも一人で辛いときは僕を頼って欲しいです。人間の中での魔族の印象を良くするためならなんだってします。貴方がラティムさんと一日でも長く暮らせるのなら、汚れ役でも買って出ます」
「ちょ、ちょっといきなり何なのよ。怖いんだけど」
「僕は珍生物らしいのでこれくらいいいでしょう?」
それに魔族を支える、次期魔王の心の支えとなるのは今の僕にとって生きる目標だ。おじいちゃんとイスファ=リアが死んだ世界で僕をこの世にとどまらせるのは、おじいちゃんとの約束だけだ。何も迷うことはない。イスファ=リアが空から進むべき道を照らしてくれているのだから。
冷静になるとさっきの僕は傍から見たら確かに頭のおかしい人だったな。でも珍生物、か。どれくらいの関係になれば頼りにされるのかな?人の考えなんて早々変わらないというのは本当だな。先は長そうだ。




