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fallen  作者: 流転
55/178

55

五十嵐刑事は嫁が待っていると言って帰っていった。俺は一人墓地に佇みアイビーの花を平田佐恵子と掘られた墓石に供える。祈りの言葉が浮かぶよりも前に、今までの自分の姿が思い起こされて、ただひたすらに祈ることしか出来なかった。


「おや、貴方は・・・」


そんなことをしてどれほど時が過ぎたのだろう。俺は依頼人、平田俊己さんの近づいてくる足音にさえ気付かなかった。慌てて挨拶をする。


「えっと、幸田探偵事務所の・・・新入りの八代勝と言います。少しでも早く犯人が見つかるように全力を挙げて捜査いたします」

「そう、ですか。よろしくお願いしますね。ところで家内の墓参りに来てくれたようでしたが・・・」

「えぇ。妻の佐恵子さんに花を供えに」

「アイビーですか。ありがとうございます。佐恵子はアイビーが大好きだったんですよ。それにしても、どうしてここが分かったんですか?あとアイビーも」

「実は昨日の夜遅くに俺もここにいまして」

「あぁ、聞かれてたんですか。恥ずかしいところを見られましたね」


素直に本当のことを伝えると平田さんは照れ臭そうに笑った。昨日は死にそうな顔をしていたのだが、今は表情豊かに見える。それに昼間に墓参りとは。仕事が手についているのだろうか?一瞬疑問を口に出すか迷う。言葉は時に他者を傷つける。たとえ俺に悪気はなくても、触れられたくない部分に触れてしまった場合、また平田さんの悲壮な顔を見ることになるのかと考えてしまうと躊躇いが生まれてしまう。そんな葛藤に悩んでいると平田さんがポツリポツリと話し始める。


「実は、佐恵子を失ってから仕事が手につかなくなってたんですが、警察の方々も探偵の人たちも事件解決に向けて尽力していただいていると知りまして。何というか生きる力、活力というのですかね。そういうものが湧いてきたんですよ」

「・・・」

「今はまだ事件解決には至っていませんが、いつか必ず佐恵子が報われる日が来る気がするんですよ」

「平田さん・・・。すいませんでした」

「え?あ、いやいや今のは別に犯人を見つけてくれないことの愚痴とかではなく・・・。本当に違うんですよ。むしろ皆さんが犯人を見つけようと努力されている姿も見ていますし、この様に墓参りまでしてくれている。感謝してもしきれないんですよ、本当ですって」

「いえ、違うんです。これは俺の我が儘なんですけど、謝らせてください」


頭を下げ続ける俺に平田さんは困惑していて、どうすればいいのか分からないという顔をしていた。しかしこれで良かったのだ。元々は俺が一方的に抱いていた他者を見下すという感情。謝るときも一方的に、だ。だがこんなことをしても所詮自分の気持ちが少し晴れるだけ。分かってはいるが行動に移すことに意義がある。源さんも言っていた、謝る相手とは、俺が本当に謝るべき相手とはほかならぬこの人なのだから。たっぷりと頭を下げた後、顔をあげる


「平田さん。任せてください。絶対に犯人を見つけて見せます。」


さて、今までは自分の気持ちを晴らすためにしていた行為だが、ここからは依頼人の笑顔を取り戻すための行為だ。今でも笑顔が見れるとか、妻がいないのに笑顔なんて取り戻せるわけがないとかそういうのはいらない。大事なのは依頼が失敗するかもしれないなんていう不安をおくびにも出さず、依頼人に夢を見せること。月並みな言葉?それもいい。言葉の責任?望むなら汚れ役にでもなってやる。お前にできるのか?誰に言っているんだ。


「俺は・・・探偵なので」


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