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次の日ガンガンする頭に顔をしかめながら昨日パテンさんに教えてもらった酒屋に向かう。薬草採集やガル退治以外にも日々細々と依頼をこなしていたので、酒を買う余裕くらいはある。教えられた酒屋は大通りに面していて、見たところ繁盛しているみたいだ。
「へい!らっしゃい!」
「すいません、酒を買いたいんですけど。木の入れ物に入っている、確か名前はヌーラの火酒、だったはずです」
「あいよ!ヌーラの火酒ね!おーい!ヌーラの火酒、一丁!」
店主が奥に向かって声を張ると元気のいい返事が返ってくる。どうやら奥で店員がヌーラの火酒を探しているようだ。その間に僕は店主と他愛のない世間話を繰り広げる。
「それにしてもお兄さん、その恰好は冒険者かい?」
「えぇそうですけど・・・。冒険者がよく来るんですか?」
「あぁそうだね。特に冒険者の方々は辛い酒をよく買っていってさ。ヌーラの火酒も昼前には売り切れちまうんだ。お兄さん、間に合ってよかったね!」
「それは運が良かったです」
その後ヌーラの火酒を持って久しぶりにおじいちゃんの家への帰路につく。季節が違うからピィーの鳴き声はしないけど、草原に入るとティビの鳴き声を乗せた爽やかな風が吹いてくる。そして草原には場違いな岩と草の生えていない土地。もうイスファ=リアの遺灰は風に吹かれたか雨に流されたか、遺っていなかったけど僕は何もない空間に祈りを捧げる。この世界で僕だけが知っている、イスファ=リアが最後に生きていたその場所に向けて。
その後僕はおじいちゃんの墓に向かう。するとそこにはおじいちゃんが好きだった酒が一本供えられていた。ラティムさんだろうか。以前おじいちゃんと酒を飲んでいたし、おじいちゃんが死んだことも伝えたから。そこでふとラティムさんから受け取った魔族が住んでいるメモを見る。
「ここから結構近い、歩き続ければ一日で行けそうな距離だな。ラティムさんが酒を供えたってことはひと段落着いた、ってことかな?会いに行くなら早いほうがいいよね」
命はいつ潰えるのか分からないのだから。昨日まで生きていた生き物が今日には死んでいる、それを僕は知っている。そうだ、失ってからでは遅いのだ。でもその前にやるべきことがある。
「おじいちゃん、ただいま。ちょっと遅くなっちゃったけど、王都でのお土産話を持ってきたからそれで勘弁してね?最初は僕一人で生きていけるかどうか不安だったけど、パテンさんの助言で冒険者になってさ、生きるために命を奪ったんだ。そんなことをしてたら生き残った魔物に目をつけられたんだけど、結構反りがあってさ。王都に来たあとに心から笑ったのは久しぶりだったなぁ・・・。そういえば聞いてよ、リクさんってばおじいちゃんの死を悲しまなくってさ、パテンさんも全然泣かないんだ!皆マイペース過ぎるよね、おじいちゃんもそう思うよね」
その後僕は王都での体験を交えつつ、周りへのちょっとした愚痴を冗談めかして墓石になげかける。当然返事は帰ってこないし僕も返事はいらない。おじいちゃんは基本的に後ろから僕のことを優しく見守ってくれていた、それだけだったから。これからもその関係は変わることはないんだ。
「それじゃあおじいちゃん、長くなっちゃったけど付き合ってくれてありがとう。もう行くね、今度はラティムさんと次期魔王に会いに。大丈夫、またすぐに帰ってくるからさ」
そう言ってヌーラの火酒を墓に供えて草原を出る。先ほどまでの草原から吹いていた風は、今度は僕にとっては追い風に変わっていた。




