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fallen  作者: 流転
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「・・・ん?」


夜風にあたっていると依頼人が街を一人で歩いている姿を見かける。こんな夜中に何をしているのだろうか。家内が殺された直後だというのに無防備なものである。


「あの依頼人、本当に頭が回っていないな」


回りに聞こえないように小声で陰口をたたく。今日は気分がいいのだ。折角だからあの依頼人のあとでもつけて見るか。もうおっさんに事件から外すと言わているのだ。少しくらいあの依頼人をからかったところでおっさんから怒られることもないだろう。そう思い俺は後をつけていく。


(何処に向かってるんだ?どんどん町から離れていっているぞ)


依頼人の足運びは緩やかながらしっかりとしたもので、止まることなく町のはずれの方に歩いていく。そうして暫く歩いただろうか、人気も少なくなった丘の上で依頼人の足が止まる。目の前に広がるのは墓石の群れ。依頼人が何か小声で言っているようで、その内容を聞くために少し依頼人に近づく。


「・・・遅くなったな、佐恵子。お前が消えてから仕事が手につかなくなってな、来るのが遅れてしまった。今日もミスっちゃってさ、お前の好きなアイビーを買う暇もなかったよ。悪いな、手ぶらで。お前に早く知らせたいことがあって来たんだよ。今、刑事さんと探偵さんが事件の調査をしてくれているんだ。待っていろよ、お前の仇は絶対に取ってやる。・・・絶対だ」


おいおいあの依頼人独り言が長すぎるだろ。死んだ人間はもう帰ってこないんだよ、諦めがつかないのかね。だがリューはまだ死んだとは限らねぇ。俺はあの依頼人とは違う。喪失感に飲まれたりしていないし、自分でできることはやっているのだから。まぁいいものが見れたなとその場から離れようとしたとき、墓地に先客がいたのか依頼人に話しかける声が聞こえてきた。


「おや、貴方は平田俊己さんじゃないですか。奇遇ですね、こんなところで出会うなんて」

「そういう貴方は確か刑事さんの・・・えっと」

「五十嵐幾蔵です。捜査には全力を挙げて取り組んでいますので、ご迷惑をおかけしますが今しばらくお待ちください」

「これはどうもご丁寧に。よろしくお願いします」


五十嵐幾蔵、だと?その名前は忘れるべくもない、俺にとっては忌々しい名前だ。帰ろうとした足を戻して墓地の方に視線を戻すと、そこには刑事に詰め寄る依頼人の姿。


「刑事さん、佐恵子を・・・家内を殺した犯人は見つかりますよね?」

「・・・もちろんですよ、お任せください」


そういう刑事の顔は、最初に俺の心配を取り払おうとしたときの顔をしていた。そういえばあのような会話をあの刑事としたっけ。リューが失踪して荒れていた俺の心は、月並みではあるがあの刑事の言葉でいくらか穏やかになったのだ。結局リューは見つからず、俺の心はさらに荒れるわけになったのだが・・・。どうせ今回も犯人は見つからないんだろうな、と思っていると依頼人は号泣しながら先ほどより大きい声で再度刑事に縋りつく。


「本当に、本当にお願いします!」


・・・何故だ、何故それほどまでに他者を信頼できる。他人に縋りつくことが出来る。最後には裏切られるというのに。しかし俺の心の声は依頼人には届かず、結局依頼人の顔は来る時よりも少しばかり明るい状態で帰っていった。その後刑事も帰っていき、俺は一人墓地に取り残される。


「なんでだよ、くそっ!」


行き場のない苛立ちを大声に乗せることでいくらか発散させる。そして幾らか冷静になったところで大事なことに思い当たる。


(・・・待てよ、俺依頼人の名前知らなかったぞ)


いやもしかしたらおっさんと依頼人が最初に出会ったときに挨拶をしていたのかもしれないが、あの時俺は心の中で依頼人をバカにするのに夢中だった。そもそも俺の職業はなんだ?依頼人の名前さえ聞かないのに探偵だと?他人の不幸を嘲笑って自分と比べている俺が、探偵として知名度を上げるだと?


なんであの刑事は何の躊躇いもなく依頼人に幻想を見せることが出来るのだ。待てそもそもなぜ刑事はこの墓地にいたのだ?一つ疑問が浮かぶと、次々と疑問が浮かんでくる。その疑問が一つも解決できない自分い苛立ち、さらに頭の中が痛くなる。


「い、今からでも遅くはないはずだ。あの依頼人、平田と言ったか?せめて墓参りをしよう・・・」


結局考えても疑問は解けないので、俺はせめてもの罪滅ぼしとして依頼人の墓石を探す。我ながら情けないが、これでいくらかは混乱が収まることを祈って・・・。


「ええっと、このあたりだったか?暗いな、明かりをつけないと。・・・っ!」


スマホのライトで依頼人の妻の名前を探していると平田佐恵子という墓石を見つけた。しかし俺の目は墓石よりもその手前に向けられていた。そこには2つの靴跡。1つは依頼人の平田俊己のものだろう。そしてもう1つも俺には心当たりがある。いや答えなどとうに出ているだろう。刑事の五十嵐幾蔵がこの墓地に来ていたのはおそらくこのためだ。


刑事も、おっさんもずっと下に見ていた。だが現実はどうだ?俺はその2つの足跡を見てただただ自分の未熟さを痛感した。

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