48
「確かにヒエラ草50本預かりました。ありがとうございます」
「はい。それにしてもヒエラ草を50本も何に使うんですか?」
興味本位に聞いてしまう。いや違う。おそらく興味本位ではなく、これは相手のことを理解するための僕の無意識な行動なのだろう。そんな僕の自問自答を知ってか知らずかシスターは質問に答えてくれる。
「このゴザ教会で預かっている子供たちのために薬を作ろうと思いまして」
「薬を自作で、ですか・・・」
協会の内部を見渡す。質素と言えば聞こえはいいが単に金がないと一目見てわかる。まぁ冒険者になったばかりの僕が受けれて他の人がとらなかった依頼だ。でも困っている周りを見かけても僕にはどうしようもできない。この状況を改善するような力もない。
(見なければよかったな・・・)
そんなことを考えてしまうほどには今の僕には余裕がない。こんな僕で本当に次期魔王を支えられるのだろうか・・・。いやおじいちゃんからのお願いだ。僕がやるしかないんだ、と別のことを考えていたら聞き覚えのある声がした。
「むっ、お前はいつぞやの冒険者!よくおめおめとミーシャの前に姿を現せたなです!」
「あー、久しぶり。どう魔物退治に向けて特訓や鍛錬はしている?少しは成長した?」
「ミーシャの実力も知らないでまるで最初は弱かったみたいに言うなです!」
確かに言われてみればそうかも。理想を笑顔で語るこの子供にたいして僕は勝手に背伸びしている子供という印象を抱いていた。ダメだな先入観や思い込みは。
「もうミーシャ。他人を困らせてはいけないといつも言っているでしょう」
と思ったら思わぬところから助け船が来た。どうやらこのミーシャという子供はいつもこんな感じの様だ。でも他人を困らせるのは若い物の特権だと思う。僕も昔はおじいちゃんを困らせていた。僕の中で描いたヒーロー像をおじいちゃんに当てはめて、イスファ=リアにも優しく接してほしいとか今思えば恥ずかしくなる。そう思えばこのミーシャという子供のわがままなど苦でもない。
「ごめんね悪かったよ勝手に君を評価してしまっていた。僕はリューって言うんだ。それで君は英雄志望のミーシャちゃんでよかったよね?」
「あってるです。ミーシャは将来英雄になるのですよ!」
「こらミーシャ、あまりはしゃがないでください。すいません冒険者さん、今日はこれくらいで」
「あっ・・・」
シスターさんが困った顔で僕たちの会話に割り込んでくる。そしてそのままミーシャはシスターに連れられて行った。その手はひどくやせ細っていた。
「・・・っ!」
そのやせ細った腕が前に討伐したガルの腕と重なる。世界は残酷だ。おじいちゃんを失ってから視野が広くなった。いや前までは幸せで気付かなかったのだろう、この世界の負の部分に。どうしようもない気持ちが込み上げてくる。宿に帰る足はいつもより早い気がした。
「おうリューお帰り・・・。なんだえらくひでぇ顔してるじゃねぇか。どうしたんだ」
「ちょっと色々とありまして・・・」
「おいおい、せめて俺の前では笑ってくれよ」
「おじいちゃんと同じことを言うんですね」
「そりゃあいつとは腐れ縁だからな。あいつの言う事なんざわかるんだよ。ガハハハッ」
そうしていつものようにパテンさんは大笑いすると急に真面目な顔になって僕に料理を運んでくる。いつものバステル焼きじゃない。本で見たことはあるけどこれは・・・
「イリ魚の蒸し焼き、ですか?」
「あぁ、作るのは初めてだからリューに試食をしてほしいんだ。頼めるか?」
「構いませんけど・・・」
イリ魚は川に棲んでいる魚でこのラスティ王国では至る所で見かけることが出来るメジャーな魚だ。その代わり食べるとなると下ごしらえが必要で少し面倒なのが傷だ、と本に書いてあったのを覚えている。
「・・・おいしいです。蒸し焼きでうまみが凝縮されていますね」
「本当か?良かった、うまく作れたか」
「はい。パテンさんの作る料理はすべて優しい味がします。食べていて自然と笑顔がこぼれる料理です」
「そう、か。食べてて笑顔になるか。それなら俺はあいつに近づけたのかな・・・」
最後の方は小声で聞き取れなかったけど、パテンさんが僕につられて笑顔になる。




