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「源さん、何を言っているんですか。これが私の本性だって言っているじゃないですか。何か源さんは勘違いをされているようですが・・・。あとここで私たちが言い争っても意味はありません。一刻も早く犯人を特定して依頼人の無念を晴らす、そうでしょう?源さんが言っていたことじゃないですか」
「あぁ、そうだ。依頼人の無念を晴らしてやるのは当然だ。だがなひよっこ。物事には順序ってもんがあるんだよ。このままならテメェに仕事を任すことは出来ねぇ」
「物事の順序、ですか。探偵として依頼をこなす、これ以上に必要なものがあると言うんですか?まさかさっきおっしゃられていた依頼人に言葉をかける、とかですか?そんなことしている暇があれば捜査をした方がいい。時間は有限なんですから」
「・・・もういい」
「無為に時間を過ごしたら大事な証拠を見逃してしまうかもしれない。そうなったら依頼人に合わせる顔が無いと思いますけどね。一刻も早い事件解決こそが、依頼人の精神を安定させる唯一の方法ではないですかね」
「おい・・・」
あぁ、これだよこれ。相手に有無も言わせず正論を吐いて一方的に負かすこの感覚。自分が上に立って相手を非難するやつに逆に非難を浴びせるこの爽快感。そうだ、俺が爪を研いでいたのは無駄じゃなかった。これでリューのことを忘れやがった社会を見返すことが出来る。最高な気分だ、さっきまではあんなに高圧的だったおっさんが何も言えずに黙り込んでいる。警察も、野次馬も、住所特定者も、社会全体が!自分こそが正しいと思っている連中に、この俺が裁きの鉄槌を下してやるのだ!それにしてもこのおっさんの鬼のような形相を見ているともっとやりたくなってきたな。
「そもそも思うんですよ。家内が殺されたくらいで大袈裟だなって。大切だった人がある日突然いなくなる。そんな理不尽誰にだって降りかかるものですし、私にも降りかかりました。でも私はその理不尽を自分で解決しようとして、あの依頼人はその解決を他者に委ねている。あの依頼人の心、弱すぎませんか?そんな心の弱い人の精神の安定を図ったところで無意味ですよ。私だったら、殺されたのが家内だけで良かったですね、と言いますよ。」
「・・・もういいと言っているだろ。お前は今回の事件から外す。これはお前のことをあまり知らないで、直ぐに探偵の仕事を覚えさせようとした俺の責任でもある。お前は少し夜風にあたって頭を冷やしていろ」
「あれ?逃げるんですか?まぁいいですけどね。それじゃあ私は夜風にあたってきますね」
くくっ、あのおっさん最初は威勢がよかったのに、最後は神妙になっていたな。とりあえずあのおっさんから探偵の仕事を学ぶことはなさそうだな、腕悪そうだし。辞表を書いて一か月後にはおさらばがいいかな。他の探偵事務所を探してみるか。そんなことを考えながら外に出る。
「あぁ、いい月だなぁ。日の入りもいいけど夜もいい」
・・・
・・
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一人になった探偵事務所の中で幸田は一人ため息をつく。そして独りごちる。
「若いってのは不安定だなぁ。俺はどう接すればいいのかね」
最初は感情を込めて説教をしようとしたが八代の言い分はひどく機械的で、およそ感情論だけでは微塵も考えは変わらないだろう。今の段階ではどうしたら八代が社会に馴染めるのか、そのとっかかりさえ浮かび上がらない。幸田はふとポケットに手を突っ込む。
「そうだこれも消しておかねぇとな。他人に見せれるもんじゃない」
その手にあったのはボイスレコーダー。慣れた手つきで先ほどの会話を消去する。その顔は先ほどまでの鬼のような形相ではなく、いくらか穏やかであった。




