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王都から出てガル達と戦った森の方に足を運ぶ。ヒエラ草は森の深くに入ると自生している。見渡すといたるところにヒエラ草が生えているが、取りすぎたらいけないと冒険者組合に釘を刺されている。周りに警戒しながらヒエラ草を採集していく。この森には魔物も普通に出現するから気をつけないといけない。すると茂みが揺れる。思わず県の柄に手をかける。現れたのはガル、しかし前に戦ったガルとはまとう空気が違うのが分かる。
「ム、ニンゲンか。ナをナノレ・・・」
「・・・!」
耳を疑う。目の前のガルが言葉をしゃべったのだ。たどたどしくはあるが明確な喋るという意識を持っていることに、ガルは知能を持つと言っていた文官の言葉を思い出す。僕の頬を汗が流れる。
「ムシをスルナ。ナニカイエ、ニンゲンよ」
「・・・あ、えっとどうも。冒険者をやっているリューと言います」
「フム、リューか。ワレはライザだ。ガルのエイユウだ。ソレでリューよ」
そこでライザと名乗るガルの纏う空気がさらに変わる。暗く、重く、僕にプレッシャーとしてのしかかってくる。続くライザの言葉に息が詰まりそうになる。
「ナゼキサマから、ワレのドウホウのニオイがスルノダ?」
(不味い、僕が昨日殺したガル達の血の匂いが残っているんだ・・・どういって切り抜けるべきか。戦おうにもこのガルは明らかに僕より強い。佇まいからして違うのがわかる)
僕がそんなことを考えていると、ガルが口を開く。
「キサマ、ワレのドウホウをコロシタナ?」
「・・・はい」
嘘をついてもバレる、僕にそう思わすほどガルの気迫は凄まじかった。
「ナゼコロシタ?リユウをイエ」
「それは・・・僕が生きるためです。冒険者という職業上、魔物の命を奪い生きているのが僕です。魔物殺しを美化したり取り繕う気はありません。僕が生きるために貴方の同胞を殺しました・・・」
「ソウカ、ヤツラはワレのブゾクからオイダシタモノタチだ。ヤツラはマンゾクソウナカオをシテイタか?」
「いえ、やせ細っていて、僕に縋るような目を向けてきました。彼らはおそらく絶望の中で死んでいったと思います・・・」
「ソウカ・・・」
そこまで話したところでまた会話が続かなくなる。重い沈黙、だが心なしか先ほど感じていた殺意は感じなくなった。今場を支配しているのは殺意より追悼・・・。目の前のガルが穏やかな顔を僕に向ける。
「ワレのドウホウをスクッテクレタノダな。ワレはドウホウをテニカケルコトがデキズ、ケッキョクはクチヘラシとしてオイダスシカナカッタノだ」
「救うなんて、そんな・・・。僕は何もできませんでした。むしろ僕のために殺しました。彼らの目には僕が死神か最高神に見えたでしょう・・・。僕は貴方の同胞の仇です。今ここで殺した方がいいと思いますよ」
自分でも何でこんなことを言っているのかわからなくなる。前まではおじいちゃんとイスファ=リアが残してくれた命だからと、死んでたまるかと思っていたのに今では死んでいいとさえ言っている。何で僕はこんなことを・・・。でも続くガルの言葉にさらに驚くことになる。
「キサマをコロスツモリはナイ。キサマはジブンにスナオダカラな。ソウイウニンゲンはスキだ」
「人間が・・・好き?驚きました。魔物は魔力持ちを我先に殺すものと思っていました。ましてや同胞の仇ともなれば殺さない理由の方が無いと思うのですが」
「ワレをソコラのマモノとイッショにシテモラッテはコマル。ワレはガルのエイユウだ。ソシテワレにはヒトツのネガイがアルノだ。ダカラキサマはコロサナイ」
「一つの願い、ですか・・・」
「ソウだ、そのネガイとは、ワレがニンゲンになることだ。ニンゲンにナルタメにゲンゴをオボエタ。ケンもナライチカラもツケタ。イマはニンゲンのココロをマナンデイルノだ」
そして、とガルは続ける。
「ニンゲントイウのはオゴリタカブルイキモノだろう?」
「・・・違いないですね」
ライザと名乗ったガルは悪い人間みたいににたりと笑う。




