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「大厄災がいつ来るか分からないのは怖いわねぇ」
「本当よ。騎士団と冒険者達が周りの魔物を駆除してくれたらとりあえずは一安心だけど」
冒険者組合に向かう途中で聞こえてくる井戸端会議。そんなに不安なら帝国なりに逃げ込めばいいのにと思う。帝国は昔は王国と戦争をしていた軍事国家だ。でも大厄災が発生してから王国とは和平条約を結んでいる。つまるところ不安がっている国民たちはいざ目の前に危険が迫ってくるまでは、本当の意味では脅威を感じていないという事だろう。
「皆さん、安心するがいいですよ!英雄ルークの血を受け継いだこのミーシャが魔物たちを追い払ってやります!」
「あらあら、またミーシャが来たわ」
「頼もしいわー、大きくなったら頼むわねお嬢ちゃん」
井戸端会議に参戦する小さい人影。見たところ中学生くらいの年齢で、みすぼらしい服を身にまとい、顔も汚れている。お世辞にも綺麗とは言えない。孤児であろうか、そんな身なりだから武器も防具も身にまとっていない、冒険者でも何でもないのだ。そんな少女が英雄志望と謳ったところで軽くあしらわれて終わりだ。しかしミーシャと名乗ったその少女は自分がバカにされているのが分かっていないらしい。
「ふんふん、ミーシャの前では魔物など無力なのですよ!」
明らかに驕っている。そして困り果てたおばちゃんたちの目が僕と会う。はぁー、とため息をつく。面倒だけど目が合ったからには無視するのも忍びない。この事態を収拾させるために輪の中に入っていく。
「あー、朝から元気ですね。どうしたんですか?」
「ちょっとお兄さん、この子が絡んできてねぇ。助けてくれないかい?」
「ミーシャは将来英雄になるからむしろ会話出来て光栄に思うがいいですよ!むっ、お前剣を持っているとはもしかして冒険者か!?」
「うん、まぁ一応は冒険者登録はしているかなぁ。最近登録をしたばっかりの駆け出しだけどね。それでミーシャちゃんは英雄になりたいのかな?」
「英雄になりたい、ではなく英雄になるです!冒険者なんかより立派なのですよ英雄は!」
「へぇー、それでミーシャちゃんは魔物を倒した経験はあるの?武器や防具を揃える金は?魔物を前にして怖気づいたりしない?」
「うっ、どれも答えられないのです・・・。でもミーシャは本当に英雄になるのですよ!」
「はいはい、口だけなら何とでも言えるからねー。とりあえず体を鍛えることから始めて見たらどうかな?」
「う、うぅ・・・」
後ろでおばちゃんたちが「こいつ容赦ないな」という目で見ていたけど、僕は心を鬼にしてでもこの目の前の少女の自信を打ち砕いてあげないといけない。魔物というのはそれほどに恐ろしいもので、人の命などすぐに奪えてしまうのだから。そしてそれは人間も同じ。思い込みは命を奪うという行為を平然としてしまうのだ。
「体を鍛えてやるから見ているのだー!」
そんなことを考えていたら少女は捨て台詞を残して走り去っていった。大丈夫だろうか、僕は逆に少女を奮い立たせてしまっただけじゃないだろうか。思わず後ろのおばちゃんたちを見ると目を逸らされた。




