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「初めまして八代勝と言います。不束者ですがこれからよろしくお願いします」
「あー、俺は幸田源之助だ。源さんでいいぞ。よろしくなひよっこ。あとその臭い演技もいらねぇ。俺はお前を甘やかすつもりはない。すぐにその演技をする余裕も消えるだろうよ」
「何のことですかね。そんなことより事務所の案内をお願いしたいです」
俺は今探偵事務所に来ていた。名前は幸田探偵事務所、このおっさんが所長の小さな事務所だ。ここならすぐに手柄を立ててこの所長を追い抜くことが出来るかもな。やはり俺はついている。
「はあぁー、近頃の若造は礼儀も知らねぇのかよ。お前を拾ったのも俺なんだぞ。ったく、案内してやるからついてこい」
「はい、お願いします」
事務所の中は乱雑としていておよそ整理などしていないように見える。おっさんに色々と説明を受けたが特に重要そうなことはなく聞き流す。
「あーそうだ。早速午後に依頼人が来る。俺の後ろで探偵の仕事ってやつを学んどけ」
「はい分かりました。源さんの仕事を見させてもらいます」
「かー、本当に素直じゃねぇなぁ」
午後に現れた依頼人は殺人事件が起きたと喚いていた。家内が殺されたのだ、あいつは恨みを買うような奴じゃなかった、誰かに殺されたのだとしきりに訴えていたが身内を殺されて錯乱しているだけだと考える。まともに取り合うだけ無駄だなと思うが、おっさんは依頼人の話をバカにすることなく真剣に聞いていた。
「まずはお悔やみ申し上げます。それで依頼の話に移りますが、警察は動いてますか?」
「動いてますけど、俺は一刻も早く家内を殺したやつを見つけてやりたいんだ!金なら出す、だから頼む!」
「わかりました。依頼を引き受けます。まずは家に案内してもらって構いませんか?おいひよっこ行くぞ」
「私の名前は八代勝なんですけど」
「知らねーよ、本心を曝け出していないならそりゃお前じゃない。半人前だ」
その後錯乱している依頼人に引き連れられて、依頼人の家まで足を運んだ。ある程度警察はこの依頼人に事情徴収をしたのだろう。家の中には数人の警官と鑑識がいただけだ。その中に見覚えのある顔を見つける。リューの捜索を諦め、女性が刺された事件を割のいい事件と言っていた警官だ。一番憎むべきやつが何食わぬ顔で依頼人に挨拶をしている。どうやらやつは俺のことを覚えていないようだ。そのことに一番腹が立ち、同時にやつが俺のことを思い出した時にどんな顔をするのかが気になって俺の顔が醜く歪む。
「おいひよっこ、依頼人の前だ。ひでぇ顔を見せるんじゃねぇ」
ちっ、五月蝿いおっさんだ。こいつ面倒だな・・・。




