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「よっこらしょ、っと」
片手で井戸水をくみ上げる。やっぱり片手だから軽々とはいかない。魔法の練習以外にも体を鍛えた方がいいかもしれない。
「おはよう今日もいい天気だね」
それが終わったらティビとピィー、そしてイスファ=リアに今日も挨拶する。ピィーは渡り鳥だ。もう少ししたら春が終わる。そうしたらピィーは海の向こうの帝国に渡っていく。この日常ももう少ししたら変わるのだ。あ、そうだ。もう一つ挨拶する人がいた。
「今日も見守っていてください。名も知らぬおばあちゃん」
その後はおじいちゃんと魔法の練習。おじいちゃんの魔法はいつ見ても綺麗だ。赤い魔力が体から溢れ出て、温かい空気が僕を包み込む。でも今日は魔法の練習はそこそこで切り上げる。おじいちゃんとの約束があるから。
「じゃあ王都に行こうか」
「うん」
ラスティ王国の王都。いつもはおじいちゃんが一人で食材の買い出しに行っていたけど、今日は僕も一緒についていく。
「王都かぁ、楽しみだなぁ」
「まぁいろんな人がいるし新しい発見もあるだろう」
だが、とおじいちゃんが続ける。
「いろんな人がいるという事は当然リューに合わない人もいるだろう」
王都には魔族を皆殺しにしたいと考えている者もいれば、生物実験を肯定している者もいる。それはおじいちゃんの話を聞いて嫌というほど理解していた。勝っちゃんがよく言っていた。リューは考える力はあるし自分の信念も持っているが、一度決意を固めると周りが見えなくなり、一人で突っ走る癖があると。おそらくおじいちゃんも僕の癖を知っているだろう。
「だからリューを王都に連れていく。買い物を一人でするという以外にも、学ぶことも多いだろう」
だっておじいちゃんとは長い付き合いだから。そして僕もおじいちゃんのことは知っているつもりだ。
「うん、おじいちゃんも王都の知り合いに挨拶しないといけないもんね」
「ははっ、そうだな」
挨拶回り。ラティムさんもしていたけど、おじいちゃんにもお世話になった人たちがいるんだ。
「時代は変わるのだからな」
おじいちゃんがポツリと独り言を呟く。
僕はそれが聞こえていたけど何も言わない。二人で王都まで歩いていく。馬車は使わず、少しでも二人だけの空間を長く保つために。おじいちゃんと会話していれば王都まであっという間だ。時間の流れははやいのだから。




