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「いやぁいやぁ、おいしい酒だったよ。ありがとうね、カカさん」
「あぁ、こちらこそ楽しい時間だった」
「お世話になったよ、本当にね」
結局二人は飲みすぎたようで、昼頃に起きてきた。二人とも旧友、積もる話もあったのだろう。昨日よりラティムさんの顔に笑顔が見える。二人の時間がかけがえのないものになったのだろう、いやそう信じたい。ふとラティムさんが僕を見る。
「リュー君だったね?次の魔王にもよろしくしてあげてね」
「あ、はい。僕で良ければ」
どうやらおじいちゃんは僕のことをすべて話したようだ。僕自身も魔王を支えたいと思っていたから問題はない。おじいちゃんの様に立派な人間になるために・・・。
「そういえば次の魔王は決めているのか?」
「うんうん、決めてるよ」
「ほぅ、誰だ?」
「私の娘だよ」
そこで僕とおじいちゃんは驚愕する。魔王に任命するという事は即ち、大厄災が起きる前に世界のために死ぬ生贄にするということである。
「ちょっと待て、ラティムよ。考え直せ、家族というものは大事にするべきだ。他にも魔族はいるだろう」
「カカさん、これは貴方にも話してないんだけど、実は私も娘も自分から魔王になりたいと申し出たんだ」
「え、なんで?」
僕は疑問に思う。死ぬのが怖くないのか、と。その疑問に魔王は答える。
「私は魔族が好きなんだ。角が生えているから、自分たちと違うからという理由で人間に追い出され、それでも皆で慎ましく生きてきた。実の娘も家族だけど、私にとっては魔族皆が家族なんだよ。慈しみ、守るべきもの。私も娘も、命を散らしてでも守りたいと考えたのさ。魔族という輪をね」
「人間が憎くはないんですか?」
「まぁ、憎くないと言えば嘘になる。でも魔族を追い出した人間たちはとっくに死んでいる。勝ち逃げされた感じだよね。今の君たちを憎んだところで、どうする?人間に宣戦布告をしたところで私の家族を危険に晒すだけだし、復讐した所で新たな復讐がうまれるだけ。それに結局のところ、魔王は神のオモチャなんだよ。私の怒りは神に向いているんだ」
そう答えるラティムさんは昨日までと同一人物とは思えなかった。芯が強い、どこまでもまっすぐな人。何でこんな人が報われないのかとこの世界に怒りさえ生まれる。
「立派になったなラティムよ。大厄災を神の試練と、魔王の力を神の加護と宣う神官どもに言い聞かせたくなるぞ。実際に王国の連中は、被害の少ない大厄災ならむしろ魔物をいつもより沢山かれて嬉しがっていたな。欲に忠実なのだ人間というのは。だからこそそんな欲塗れの人間を憎まないというのは、嬉しくもあるがいささか優しすぎる気がするぞ」
「カカさんに優しすぎるって言われたら終わりだなぁ」
「こら、茶化すんじゃない」
「いやいや、本当に私は嬉しいんだよ。魔族のみんなは優しくて、カカさんも私たちを理解してくれている。そしてリュー君という新しい理解者も現れてくれた。ほらほら、こんなに素晴らしいことはないだろう?」
「ははっ、そうだな」
「うんうん、そうでしょ?」
そう言って二人はわかれる。生まれる種族が違えば、もっと長い間一緒に居られたかもしれない。もっと楽しい会話で盛り上がって、もっと悲しく分かれたかもしれない。ラティムさんはそのままピィーやティビ、イスファ=リアがいる草原の方に振り返ることなく歩いて行った。僕にはその背中を見送る事しか出来ない。今はまだ、それだけ。でも、いつの日か・・・
(魔王は神から呪いを受けた。そして僕も神にこの世界に呼ばれた。僕と魔王は同じだ。神の実験道具。暇潰し。そんな僕だからこそ)
魔王を、いやこの世の理不尽を受けた者たちを支える存在になる。




