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僕がおじいちゃんに自分の本音をぶつけた後、重くなった空気を取り払うためにハラウルの前まで来た。初めて見た時は恐怖の対象だった。でも今では何とも言えない感情を抱く。ハラウルには紋様が刻まれていた。
「国の研究機関ではハラウルは重宝されたらしい。頑丈で過酷な実験に耐えうる素材。そして何より魔物だから実験が失敗しても心は痛まない、という理由だ」
おじいちゃんが独り言のように呟く。そうだ、どんな理不尽にも元凶が存在するのだ。僕の本音はおじいちゃんに知って貰いたかったけど、怒りをぶつける先は研究機関だ。それはさておき、再度ハラウルに意識を向ける。
「おじいちゃん、この紋様は何?」
「前に言った魔法強化の紋様と、そしてこっちは魔力切れで効果を失っているが、隠密の紋様だ」
「隠密の、紋様?」
「あぁ、そうだ。気配が薄くなり、背景に溶け込めるようになる魔法だ」
なるほど、この魔法の影響で僕は最初ハラウルに気付かずに左手を食べられたのか。
「リューが呼び寄せられたときはまだ効果が残っていたのか。だが、その後込められてた魔力が切れたようだな」
おじいちゃんは言葉を続ける。
「といっても実は私は魔法の阻害をうけないんだ」
「あ、真実の魔法だっけ?」
「そうだよ、リュー。大事なのは物事の本質。それだけなんだ」
おじいちゃんが優しい目をハラウルに向けた。それは僕に向けていたようないつもの眼差しだった。
「そうだ、折角だから名前決めようよ」
「名前、か・・・」
「そっちのほうが、大切にしてるって感じるでしょ?気持ちを行動に移そうよ」
僕のその一言でお互いに考えあう。けど僕はこっちの世界の名前があまり分からないからおじいちゃん任せだけど。
「パステル!」
「バステルと響きが似ている。却下」
「モンスター」
「愛情込めて名前決めているか?」
「カカリュー」
「・・・」
「リューよ、イスファ=リアという名前はどうだろうか」
「イスファ=リア?」
「あぁ、この世界の伝説なんだが、昔英雄ルークがくびきのドラゴンを討伐した後、旅に出たそうだ。そこで世界の果てにそびえたつ大樹を見つけたらしい」
「へぇ」
「その木の下ではすべての命が笑っていた。草木は茂り、川は流れ、その中で魚が緩やかに揺蕩う。命照らす大樹という伝説さ」
「いいね、それ」
「あぁ、とても素敵な名前だろう?」
「うん。イスファ=リア、遅くなったけどよろしくね」
相変わらず言葉は通じないけど、今日、僕とおじいちゃんの中で仲間が増えた。
隠密の魔法
「この隠密の魔法を唱えると、術者がその場にいるという痕跡を減らすことが出来る。透明になるわけではないが気配は消せる。完全に消えるわけではないので、覗きを考えている読者諸君はきっぱりと諦めるよーに」
カカの魔法辞典改訂版




