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「そういえば国王が革命のさなかに急死したらしい。死因はどうやら持病の病気のようだが、王子も王女もいなかったから、異例ではあるが次期国王は宰相の息子になるそうだ」
「ラスティの血は途絶えるのか・・・。もう俺らの知ってるラスティ王国じゃないんだな」
革命が終わった王都で僕はふとそんな噂話を耳にする。あの後革命軍は鎮圧され、今は何事もなかったかのように王都の日常が戻っている。次期国王は宰相の息子のようだが、玉座の間には宰相の姿などなかった。危険な時には逃げ出して、都合がよくなれば舞い戻ってきたようだ。だがそれは僕には関係ない。この先王都がどう変わろうが、知ったことではない。僕はまっすぐ集団墓地を目指す。
「皆さん聞いてください。ラスティの血をひかない宰相の息子であるこのアーノレの事を忌み嫌う人もいるでしょう。ですが安心してください。私は皆さんの味方です!前国王はこの国の未来などどうでもいいと思っていたのでしょう。ですが私はこの国の未来を第一に考えています。まず最初にやるべきことは裏切り者たちの断罪です。白ローブの集団は魔力持ちの血を集めたり、魔物を集めたりして、怪しげな実験を行っていました。またこの占い師は偽の大厄災の事を真の大厄災かのように言いふらしました。この者たちは王都に巣くう膿、取り除くべきです!」
「そうだそうだ!」
宰相の息子・・・アーノレがのたまう。人間というのは何者かを悪者にさえ仕立て上げてしまえば、あとはどうとでもなる生き物だ。前国王が偽の大厄災が起きた後に犯罪者たちに烙印を押したのも、明確な敵を作り上げて王都の住民に蔓延る不平や不満の捌け口にしようという目論見があったのだ。アーノレはどうやら白ローブの集団とインチキ占い師を悪者に仕立て上げることにしたようだ。
「我々を殺せば人間が魔物に抵抗する手段はなくなるぞ!それは困るだろう!」
「その点なら安心しろマッドサイエンティスト。偽の大厄災で流れた多くの血を無駄にはしない。皆さん、私は今ここで呼び寄せの魔法を使い、異世界から王都に勇者を呼び寄せることを誓います。人体実験などではなく、正真正銘神の加護を受けた勇者がいると、大厄災が来ても問題はありません。私たちが戦う必要などないのです。勇者を戦わせれば王都は救われます。それに偽の大厄災で流れた血を有効活用すれば、死んでいった彼らも報われるでしょう」
「おぉ!」
アーノレの言葉に民衆は歓声の声をあげ、一部からは何と聡明なお方なのだという声すら聞こえる。だが僕は怒り狂ってしまいそうだ。死者の血を有効活用?それで死者が報われるはずがない。パグさんに怒られたが、魔力という甘い蜜だけ吸う行為は死者への冒涜以外の何物でもない。何よりミーシャもライザも、そんなことのために死んでいったのではない。だが、民衆の歓声を一身に浴びるアーノレに対して、僕は一人ぼっちで非力である。腸は煮えくり返っているが、アーノレの愚行を止めるだけの力が僕にはない。僕が怒りを堪えていると、後ろから声をかけられる。
「あのアーノレってやつ、随分な屑野郎だな」
「パグさん・・・」
「あの偽の大厄災で嬢ちゃんが死んだのを俺は見た。そしてお前が一度は心が揺れ動いても、復活の魔法に手を染めていない姿勢を評価している。あのアーノレとかいうやつとは大違いだ。それを知っている奴は少ないが、もっと胸を張って生きろよ。お前は立派だ」
「・・・僕はあの偽の大厄災で無力でした。誰も救うことが出来ずに、茫然としていました」
「お前の辛さは分かる。リュー、俺はあの時街中でガルと出くわした。ガダーディスから精神干渉の魔法をかけられてると思ったから、前にリューがやったように打消しの魔法を使ってみたが、効果はなかったぞ。つまりだ、あの時ガル達は自分たちの意思でこの王都を自らの死地に決めたんだ」
「なんでそんなことを・・・」
「戦場で出会ったガル、ライザといったか?ライザはお前の怪我の匂いを嗅ぎ取ってあの帝国との戦場に参戦したと言っていたよな?ここからは俺の憶測なんだが、ライザにとって大切な者を王国兵に殺されたのだろう。ほら、偽の大厄災の前に遠征隊が出ていっただろ。あの時に国王直属の暗躍部隊がライザの村を襲い、ライザの仲間を殺した。ライザはその憎き敵の匂いを覚えており、王都に進軍した」
「・・・そっか、だからあの時ライザは僕と普通に会話することが出来ていたんだ。僕がライザに人間の心を教えてしまったから、ライザは敵討ちという人間らしい行動に出たんだね。ライザもミーシャも、僕が焚き付けたから・・・」
「リュー」
「分かってますパグさん。もう僕は自分の選択を後悔しません。ミーシャに英雄は何たるかを問うたり、ライザに人間の心を教えたことは、僕は誇りに思っています。そのおかげで僕は彼らと楽しいひと時を過ごせたんですから、後悔なんてあるはずがありません。それに過去なんて変えることは出来ないですから」
「強くなったな」
「僕だって成長してるんですよ。目に見える変化じゃなくても、着実に」
ふと、ポケットの中から一輪の花を取り出す。それはあの玉座の間から持ってきたテラ花だ。集団墓地を見れば、数多のろくでなし達が墓を掘り起こし、魔法使いたちが死者の魔力を根こそぎ奪い取っている。これでは国のトップが変わっただけで王国民の意識は何も変化してなどいない。だが王国民の中では優先意識が死者への冒涜への反抗よりも大厄災への備えが上回ったようだ。僕は集団墓地の一角の荒らされていない場所を見つけて、そこにテラ花を植える。
「なんだそれは」
「かつて生まれを呪い、妻と娘を持って小さいながらも幸せな家庭を心の底から願った人が残していったものです。例え王国民が彼の事を忘れ去ろうとも、僕だけは忘れません」
そしてまた別のスペースに穴を掘り、聖剣と緑のブレスレットを埋める。彼らは死後も冒涜され、その血は勇者召喚という大義名分のために余すことなく使われるのだろう。僕にはそれを止める術がない、だからこそ別の場所に彼らの遺品を埋めるのだ。次から墓参りに来るときは、ここに来ればよい。王都に新しい時代の風が吹くが、忘れ去られる者たちの生きた証を誰かが持っていることを忘れてはならない。いつの時代も未来は子供たちのものではあるが、その未来を形作った者たちを忘れ去ってしまうことは、僕には出来ないのだ。パグさんが横に座ってくれたので、二人で墓に向けて祈る。過去を忘れないこと、それは当たり前のことなのだ。




