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fallen  作者: 流転
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「よく来たな」


玉座の間に重苦しい声が響き渡る。その声は威厳はあれど、どこか疲れが窺えるような響きがある。声の主はこの国の国王ではあるが、今や玉座の間には彼一人が疲れた顔で座っており、豪華さや健敏さは併せ持っていない。


「外では革命が起きているというのに、態々こんなところにやってきてよかったのか?それとも、ここまで来たということは全てを分かっているということか?」

「はい、全て分かりました。大厄災がまだ終わっていないこと、魔物の襲撃を起こしたのは貴方だという事、そして今起きてる革命もあなたの計画通りだということも」

「続けろ」

「・・・僕は愚かでした。身近に答えが転がっていたのにそれに今の今まで気付かなかったなんて。貴方の一人娘はその昔魔物に殺されました。貴方は表面上では気丈に振舞って、それこそ王国民のために身を粉にして働く良き国王を演じた。ですが、貴方は諦めてはいなかったんです。そう、かつて帝国の五代皇帝が禁術である復活の魔法を使ってその身の復活を望んだという記録があります。そこで貴方は考えたんです、どうにかして自分の娘を生き返らせることはできないか、と」


国王は最初に僕に声をかけてからは無言である。どうやら僕が話している間は口を挟まないようだ。今国王がどういう気持ちで僕の話を聞いてるかはわからないが、とにかく僕は話し続ける。


「とはいっても時の皇帝が帝国中の魔力持ちを集めて初めて使えるような魔法です。いくら国王とはいえ、まともに魔力持ちを集めようとするとどれほど時間がかかるかは想像に難くありません。さらに倫理的にも問題があります。国のトップが禁術を大々的に使うのは世間体も不味いです。そこで貴方はまずは白ローブの集団を集めて、研究を秘密裏に勧めました。研究内容は生物に紋様を刻む技術と、人間の体の中に魔物から取れた魔法器官を入れること」


イスファ=リアの体には魔法強化の紋様と隠密の紋様が刻まれていた。また、ライザは国の実験にされたと言っていたし、戦場で出会った隊長直々の魔法使いたちは体の中に魔法器官を取り入れて魔力を蓄えていた。白ローブの集団が魔物を実験台にしてまで欲しかった技術は、全ては王国の未来や研究者たちの探求心よりも、国王個人の願いがまずはじめにあったのだ。


「紋様を刻む技術は言うまでもありません。大事な一人娘に保存の紋様を刻んで腐らないようにしたのです。魔法器官の移植ですが、国中から魔力持ちを集めるよりも、国王の命令に忠実に従う魔力を多く蓄えた人間が沢山いた方がより良いと考えたのでしょう。それらを白ローブの集団に頼むことで、あくまで自分の手は汚さずに自分自身は単なる国王を演じていたわけです。僕なんかはうまく騙されて、一時期は白ローブの集団に憎悪を抱いていました。ですが元凶は貴方だったんです」


目先の怒りに取りつかれて白ローブの集団を憎んでいたのは本当だ。でも僕にはおじいちゃんがいたから、立ち止まって考えることができたのだ。真実の魔法では見えぬ陰謀の意図も、冷静に考えてみれば答えは自ずと見えてくるのだ。


「そして貴方の計画を後押しする出来事が起こりました。大厄災を予言する預言者がなくなったのです。貴方は悍ましい計画を考え付きました。まず貴方は白ローブの集団に命令して、実験のためにとらえていた魔物を放出しました。全ては来るべき大厄災の前に、偽の大厄災を作り上げるために。偽の大厄災を作り上げるのは簡単です。放出された魔物たちは国の実験台にされたので、元から王都を恨んでいます。あとは精神干渉の魔法をかければ、魔物たちは王都を襲撃するという仕組みです。そしてその混乱の中で貴方は魔力持ちを効率よく集めようとしたのです」


預言者が亡くなったのは偶然でも、それが今回の計画を実行に移したきっかけには変わらないだろう。人々は大厄災がいつ来るかわからないという不安から、集団パニックを起こす。また魔物たちも本能の赴くままに行動する事が基本的である。精神干渉の魔法をかけて意のままに操ることは容易であっただろう。


「ですがここで問題が起きました。なんと帝国が戦争を起こしたのです。とある理由から王国兵の数を減らしたくなかった貴方は、冒険者を盾にすることを決めます。しかしここでさらなるアクシデントが発生します。王国の隊長が持っていた魔力瓶が奪われてしまったのです。貴方は悩みましたが、とりあえず偽の大厄災を起こすことに決めました。魔物・・・ガル達を操り予定通り王都を襲撃させ、その混乱のスキに魔力持ちを「回収」したのです。回収方法は鎧を脱いだ王国兵が真実の魔法を使って魔力持ちを見つけて殺すこと。それが一番効率がよく、人間一人から限界まで魔力を持つ血を取り出す方法だったのです」


惨い話ではあるが、王国の倫理観を考えるとある種当然の帰結とも捉えられる。王国兵は国王の命令を忠実に聞いてくれる、駒だ。あの隊長も言っていたことではないか。駒こそが重要なのだと。だがあそこで王国が魔力を集める方法を知ったことと、精神干渉の魔法を躊躇なく使う事を知ったから、推理することが出来たのだ。


「僕がそのことに気付いたのは大厄災の中で暗躍していたゴロツキどもがやたら身体能力がよかったからと、手には剣以外に何も持っていなかったからです」

「火事場泥棒なら身軽なのは普通だ」

「違います、身軽すぎたんですよ。火事場泥棒のはずなのに貴重品や金目の物を入れる袋の一つも持っていなかったんです。これは明らかに不自然です。僕が唯一分からなかったのは犯罪者たちの体に烙印が押されるときに、犯罪者の体には肉体強化の紋様が刻まれていなかったことです。ですが、僕は思い出しました。一つの体に二つの紋様を刻むことが可能であるということを」


僕がそれを思い出したのはおじいちゃんの墓参りをした時のことだった。イスファ=リアには魔法強化の紋様と隠密の紋様が刻まれていた。つまり複数の紋様を刻むことは可能なのだ。あとは隠密の紋様を刻み王国兵に刻まれた肉体強化の紋様をカモフラージュすれば、はたから見ればただのゴロツキの完成である。そしてそのゴロツキどもは真実の魔法を使って魔力持ちを探し出し、騒ぎに乗じて魔力持ちを処理するのが役目だが、ミーシャを襲った時に僕に見つかってしまった。あの時、ゴロツキどもの異常な身体能力に僕が気付けたのは、僕が戦争に参加して王国兵の力を目の当たりにした点が大きいだろう。


「ですが復活の魔法を使うだけの魔力は集まらなかったのです。貴方は焦ったはずです。貴方の中での優先順位は一人娘、その次は貴方の駒である王国兵たちで王都の住民はどうなってもいいとさえ思っていたはずです。ですがこのままでは災いが起こりすぎて王都の住民に不信感が生まれ、娘を復活させる前にこの王都が崩壊してしまうかもしれない。そこで貴方は閃いたのです、いっそのこと革命を起こしてしまって、その混乱に乗じて自分は復活した娘と雲隠れしよう、と。タイミングよく帝都で革命が起きたのも大きかったです」


戦争と偽の大厄災で死んだ者たちは全て集団墓地に埋葬される。この広い王都で墓地はあそこだけなのだ。国王にとってはおあつらえ向きだっただろう。死んだ者たちは集団墓地に埋葬されるので、王都の住民に不審がられることなく自然と魔力を集めることが出来るのだ。もし今集団墓地の下を真実の魔法で覗き見れば、集団墓地の下に巨大な魔力だまりを見つけることが出来るだろう。


「ですが、王都の革命軍は妙に統率が取れていたのを僕は疑問に思いました。あの時革命軍の裏で糸を引いていた人がいたはずですが、果たしてそれは誰が可能なのか。王都で混乱を起こして得をするのは近くにある帝国ですが、帝国は今賠償金問題でそれどころではありません。ならば地底都市の誰かかと思いましたが、地底都市と王都は離れすぎて、態々喧嘩を売る必要はないはずです。王都を混乱に陥れて本当に得をする人は、王都で暗躍する人だったのです」


そう、僕がこの推理にたどり着いたのは王都の広場で国王の演説を聞いたときに奇妙な感覚に襲われたからだ。国王は口では王都の住民を心配しているそぶりを見せてはいたが、その実薄っぺらい言葉の羅列で演説していたのだ。僕はあの時の熱狂的な場の空気が嫌いだったのだが、あそこで王都の民衆心理を支配しているのは国王だという確信を得たのだ。国王はここまで計画通りに事を運んできた。だが、国王の野望はここでついえることになるのだ。僕はポツリポツリと恨み節を口から漏らしながら、玉座に向けて歩く。


「たくさんの人が死にました、貴方の野望のせいで。王都の住民は混乱し、今もなお無辜なる人が死んでいってます。貴方はこの国の国王のはずだ、なのに何故貴方は何も感じないのか。幾千幾万の命より、娘一人の命が重要だと言うんですか」


歩く。怨嗟の声は玉座の間に響き渡る。国王は何も言わない、ただ己の結末をそのまま受け入れているようだ。それが達観しているようで、腹立たしい。


「僕の友達も二人死にました。二人とも僕にとっては英雄でした。ただ町の人や仲間を守りたいと願った命を、貴方は握り潰したんです。英雄はその身を犠牲にして格好よく散る運命なんかじゃない、僕は彼らと共にこの世界を生きたかったんだ!二人とも芯が通っている、僕なんかよりよほど頼れる人たちだった。彼らの輝きは周りに伝播するというのに」


歩き続ける。思い起こされるのは懐かしい記憶。ライザもミーシャも独特な性格をしていたが、それでも時間をかけて打ち解けていったのだ。いつしか大事な者になっていった彼らは、あっけなく僕の元から離れていった。後悔が憎たらしほどに僕の事を見下ろしている。


「貴方はたとえパフォーマンスだとしても王国民の前で演説をしていたはずだ。何故その時に何も感じ取れなかったのか、王国民が真に望んでいるのは他でもない安寧だということを。自分勝手な王国民でも今を必死に生きているということを。鍛冶師は武具を作り、アクセサリー売りの老婆は買い手の笑顔を望み、酒屋の主人はリピーターになってくれることを嬉しんで、家畜売り場の店員は命の大事さを知っている。皆それぞれ、不格好ながらも自分に出来ることを精いっぱいやりながら、生きてきたんです!」


さらに歩き続ける。声はますます大きくなり、怒号となる。怒りや焦りを一身に受けているはずの国王は、僕の言葉を浴びながらもその顔は無表情・・・いやもはや一人娘を失った時から彼の世界は止まっているのだろう。それがいら立ちを募らせる、僕が目の前まで迫っているというのに、何のリアクションも起こさずに諦めているその振る舞いが。どう生きればそうまでして心を殺すことが出来るというのだろうか。


「・・・僕は貴方を殺します。この聖剣とブレスレットは友の形見です。何か言い残すことはありますか?」


終着点だ。とうとう僕は玉座の前までたどり着く。王都に来て僕は様々な経験をした。今となれば懐かしい記憶も、僕にとっては掛け替えのない記憶の断片なのだ。王都での暮らしは人々との出会いの記憶。多くの人と出会って、そしてそれぞれの心が変化しながら別れていった。僕の王都での旅の終着点はここなのかもしれない。もはや何のために生きているかという目的は僕本人でさえわからないが、僕は今この時のためにここに立っているのかもしれない。聖剣を強く握りしめた時、国王がその重い口を開く。


「旅人よ、どうか私の身の上話を聞いてくれないか・・・」

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