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fallen  作者: 流転
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「大厄災が神の試練なんて幻想、可笑しいじゃないか」


誰かがそう言った。きっかけは誰かは分からないが、とにかく誰かがそう王都でそう呟いたのだ。それは最初は漣であったが、次第に波紋は広がり王都を飲み込む津波へと変貌していった。最高神ガダーディスがいるというのなら何故我々を救ってくださらないのか、いつになればこの神の試練は終わるのか、最高神ガダーディスを崇拝している協会は何もしないのか。それらの不満が蔓延していき、いつしか王都の中で民衆と国の中枢が二分化された。それを後押ししたのは帝都の革命成功かもしれないが、とにかく人々は大厄災の悲劇を繰り返さないように一つの考えに至ったのだ。

_____

「帝都で革命が成功したんだ。この王都でも革命を起こすぞ。協会の連中は何もしない、国王も大厄災には抵抗できるといいながら、被害者が出ているこの現状に何も言わない。我々にも抵抗する権利があるということを示そうではないか」


王都のとある酒場で奇妙な集団が話し合っている。雄弁に語る男は仮面をつけていて顔は分からない。だがその男の言葉を聞いているのは仮面をつけておらず、紛れもなく王都の住民だとわかる。話を聞く者たちの顔は疲れ切っている。全員大厄災の被害者、王国のパフォーマンスに利用された者たちだ。彼らはその心の痛みを変貌させて王都に牙を向けようとしている。だがそれを非難するものはここにはいない。エコーチェンバー現象が王都をまた血で染めようとしている。

_____

「おじいちゃん、大厄災が起きたよ。おじいちゃんとの約束は守れて、魔族の皆は無事に生き延びたし、王都の住民の中でも考え方は変わってきてるんだ。でも、大勢の人が死んで僕の友達も死んじゃったんだ。今王都は最悪なんだ、犯罪者に烙印を押してガス抜きをしてるんだけど、それでも王都の住民の怒りは収まらない。魔族との全面戦争の危険性は王都の住民も理解したんだけど、代わりに王国の上層部への不信感が強まってるんだ。また血が流れるかもしれない、いやむしろ僕が魔族の安寧を願ったせいで行き場所を失った王都の住民の怒りが、この国に向かおうとしているんだ。僕はただ黙って革命の風を見守るだけしかないのかな」

「うじうじ思い悩む必要はないだろ」

「・・・あれ?パグさん、いつからいたんですか」

「はじめっからだ。隠密の魔法を使って隠れていたがな。だが大厄災の時に取り乱したお前を見てから、いつか声をかけようとしていたんだ」

「その節はすみません、もう大丈夫ですから・・・」

「どこが大丈夫なんだよ、あの時の事を引きずってるじゃないか。だがな、俺もあの時の判断は間違いだとは思ってない。嬢ちゃんは手遅れだったが、あの時お前を置いて俺は3人の命を救った。気にするなとは言わないが、思い悩みすぎるのもどうかと思うぞ」

「・・・」


おじいちゃんの家に帰ってきて墓に祈りをささげていると、後ろからパグさんに話しかけられた。パグさんは魔法を扱うことが上手くなっている。パグさんが今使った隠密の魔法も綺麗だったが、どうやらパグさんは癒し手として相当な鍛錬を積んできたようだ。対して僕はミーシャも救えずライザも救えなかった。ゴロツキどもにも逃げられそうになったし、あの時は茫然としていて町の人を助けるなんて選択肢は頭の片隅にすらなかった。それが分かっているから僕は返す言葉がない。


「まぁ俺からいえることはこれだけだ。俺が助けた人は大厄災が終わった後俺に感謝の言葉を言ってくれたが、なんであの時助けてくれなかったんだと俺に言うやつはいなかった。そりゃそうだ、助けられなかった命はとっくにウルルカンクだからな」


パグさんが軽く笑う。僕は気乗りしないまま、一応突っ込むことにする。


「笑えない冗談ですね」

「何言ってんだ、笑える冗談だ。過去を変えることはできない、それは不変だ。救えたはずの命よりも過去に救った命の事が重要だ。仮定の話なんてする暇があれば、明日をどう生きるか考えた方がよほど建設的だろ?」

「・・・心の中ではパグさんが一番悔しがっているはずなのに」

「それは言わない約束だ」


パグさんの声のトーンが一段階下がり、僕にくぎを刺す。そして黙って王都の方を眺めるのだ。そうだ、今は王都の行く末の方が先決だ。だが民衆を止める力など僕らにはあるはずもない。


「なるようになるだろ。どう転んでも、お前が思い悩む必要はない」

「それは戦場を共に戦った戦友としての言葉ですか?それとも癒し手の職業柄の言葉ですか?」

「どっちもだ」


王都の上空に暗雲が立ち込める。今まさに人々の不安や不満が爆発しようとしている。病気にかかったら協会に任せて、大厄災が起きたら戦闘派兵士に任せて、そして今不信感だけが爆発している人々の傲慢さ。それを垣間見て、僕の後悔はいくらか晴れる。どこまで行っても人は醜い生き物で、臆病なのだ。だがそれでもライザやミーシャには、その中に別の感情を芽生えさせることはできたのだ言う慰めを言い聞かせながら、緑のブレスレットと聖剣を眺める。

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