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fallen  作者: 流転
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大厄災から時は過ぎたというのに、僕の心は未だに死んだままである。あの後王都を回って生存者たちと会話したが、僕の気分が晴れる事はない。ゴザ協会ではシスティアとシスターが呆然としている。二人ともこうなるとは思いもしなかったのだ。まだ暗い雰囲気は抜けていない。


「ミーシャ・・・。せめてウルルカンクに行っていることを願います。最早この王都は最高神ガダーディスへの信仰のみでは回らなくなっています。何が大事で、何に頼るべきか・・・。いやそもそも任せきりでこの世界は正常に動くのでしょうか」

「・・・」


シスターは己の今までの行いを悔やんでいる様だ。神頼みそれも一つの生き方ではあるが、大厄災は人間が乗り越えられるように神から送られた試練などという教会の教えを、今のシスターは享受するわけにはいかないのだ。神の試練だと宣って人々の死を愚弄することなど出来る筈がないのだ。システィアは何も言わずにミーシャの死を悼んでいる。ゴザ協会の皆を置いて僕は町を歩く。


「・・・兄さん、アンタが来る場所はここじゃないはずだ。祝い酒って気分でもないだろう。町はすぐに復活する、だが人の痛みは消えることはない。それは兄さんが一番分かっているだろう」

「大厄災が終わっだがバステルは死んでいなかった。何のために大厄災なんてあるんだろうな、こんな人間だけじゃなく魔物と魔族にも苦痛を与える、こんなものさ」

「若い命が消えていくのはいつ見ても辛い物さね・・・もう帰りな、今の坊やをなぐさべる術は持ち合わせていないんだ。それがアタシャやるせなくてね」


僕は町の人たちに声をかけようとするが、なんと全員にあしらわれてしまう。大厄災で被害がないかの確認も兼ねており、どうやら被害がないようなのは安心したがどうにも納得できない部分があり、鍛冶師の元を訪ねる。


「皆そんな風に言ってすぐに僕を追い出すんですよ、まだ僕は一言も喋っていなかったというのに。まるで僕がつらい目にあったかのように接してきて、昇進の僕に気遣いをしているようなんです。鍛冶師さんもひどいと思いますよね?」

「・・・坊主、喋りすぎだ。目が赤いぞ」

「・・・!」


鍛冶師のその言葉にドキッとする。鍛冶師の言葉は今まで以上に短く、それでいて感情豊かであったのだから。まるで目の前の人間に声をかけるべきかそれともそっとしておくべきか決めあぐねて、絞り出すように僕への返事を言った、そのように感じられる。そこには素っ気なさも面倒くささも存在せず、ただ鍛冶師は心底悔しそうに唇をかみしめるのだ。それが僕の心を抉る。


「その剣、それは良いものだ。大事にしろ」


最後に鍛冶師が聖剣を指さしそう告げる。僕は鍛冶師の人となりを知っているから、それについて話が深まることはない。そのまま帰路につく。


「おうリューお帰り。がはっ、ポーションが欲しいんだが、いつまでたってもミーシャが来ない。リュー、悪いがゴザ協会まで取りに行ってくれないか?」

「パテンさん、おそらくゴザ協会に行ってもポーションはないと思います。シスターもシスティアもそれどころじゃないので」

「・・・?何の話だ?」

「実は今までポーションを届けてくれていたミーシャはあの大厄災で・・・死にました」

「なんだと!?」


僕の言葉を聞きパテンさんが信じられないといった様子で僕を見る。僕だって信じたくはない、現実を直視したくはないのだ。だがそれでも、たとえ残酷であろうとも身近にいる人には、そしてミーシャのことを大事にしてくれていた人には真実を伝えねばならない。それだけが僕に出来ることだ。


「リュー、ミーシャは大厄災のせいで死んだのか?それなら死体は集団墓地か?」

「死体は集団墓地ですが、死因は大厄災じゃないです。ミーシャを殺したのは人間、それも大厄災であるにも関わらず、避難よりも物色を優先した下衆達です」

「・・・悪い、リュー。一人にさせてくれ」


大厄災が終わった直後とちょうど真逆、今度は僕の方がパテンさんを気遣って部屋にこもる。扉の向こうでは一人の男が、この世界を呪っている。怨嗟の声をあげて、何故老い先短い自分が大厄災という一大事に何もできなかったのだと悔やんでいる。魔物におびえて冒険者ギルドに逃げたせいでこんな思いをするのなら、いっそのこと勇猛果敢に飛び出せばよかったと嘆いている。ミーシャは英雄に青焦がれていた、そして僕は冒険者だ。どちらも命を危険にさらす職業、自分はそれでもいいと思っている。ほかに生き方などないのだから。だが残された方はどうだろうか、本当に納得がいくのだろうか。パテンさんの泣き叫ぶ声を聴きながら、次第に僕の頭の中に漂っている靄は消えていく。


(ミーシャもライザも消えて、こんな世界どうなっていいと思っていた。でもそれは思い違いだ、彼らが消えてもまだ僕にはやるべきことが残されていて、守るべきものもまだまだあるんだ。いつまでも意気消沈していちゃだめだ。たとえつらくても明日はやってくるんだから、心の底で泣いていてもせめて表面上は気丈に振舞わなくちゃ)


丁度吟遊詩人がまた詩をうたっている。帝国では革命が成功して帝都は落ちたようだ。王国との戦争には負けて帝国には搾取されて、それでも彼らは革命を成功させた。その折れぬ信念を吟遊詩人は歌う。その詩に僕は心惹かれるのだ。

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