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「おぉ、まさかこの目で見る時が来るとは。これが誇り高き砂漠の王・・・!」
「分かっているだろうが、ダハウィは強力な魔物だ。だがその強力さの上に胡坐をかくなよ。帝国の未来を切り開くための革命だ、これはオメェ達のための革命だ。ダハウィは敬意をもって接すれば俺らを無碍にすることはないが、ダハウィの事を蔑ろにした瞬間オメェらの革命は失敗に終わる。その事を念頭に置け、オメェら覚悟は良いか!」
俺のその言葉にやせ細った農民たちはありったけの声をあげて応える。空気が震えた気がする、そう錯覚させるほどには彼らが必死なのだ。だがまだ足りない、革命を成功させるにはそれこそ世界を揺らす程の力が必要なのだ。振り返りダハウィとリグウェルを見ると、どちらも任せておけという様な顔をしている。その顔を見ると、何故か安心する。
「ほらリグウェル。最後はオメェだ。帝国の農民たちの心境を一番よく理解しているのはオメェだろ。俺様がとやかく言うより、オメェがまとめ上げた方がよほど良い。それに農民たちもオメェの言葉を待ち望んでいる」
「分かりました」
リグウェルはそう言い、農民たちの前に立つ。そして身の上を語り始める。
「皆さん、私は皆さんと同じ帝国の農民です。戦争が始まる前は死ぬ気で農作物を育てて、それでも慎ましく生きていました。ですが戦争が始まると私の生活は一変しました。農兵として徴収されましたが私は戦争から生き延びました。私を待っていたのは腰抜けと言う蔑称と故郷の村の農民たちからの軽蔑の眼差しでした。この世は結局いくら死ぬ気で生きていても光が差すことはなく、狡猾に生きるものこそが最後にはほくそ笑むのです。そんなのはこりごりです!私は家を失い、妻を失い、周囲からの信頼さえも失いました!私に残っているのは何もなかったのです。ですが私にも確かに残っていたものはありました、この熱い心と明日への希望、そして心強い味方です!」
リグウェルはヒートアップしていくが、その言葉を聞いていくうちに農民たちの目に活力が戻っていく。そうだ、皆どんな形であれ生きているのだ。我儘な領主から死ねといわれたら死ぬのが美徳であろうか。暴虐な帝国兵から罵詈雑言を浴びせられればそれを受け止めるのが謙虚であろうか。そんなもの、答えはとうの昔に出ている。彼らは生きているのだ、抗う権利があればこそそれに手を伸ばすのだ。
「生きたいと願うものは、私についてこい!生きたいという願いを燃やして、死に物狂いで帝国兵に抗うのだ!目標は帝都、私たちは最後の1人まで戦い抜く!」
「うおおぉ!」
リグウェルのその言葉に農民たちは今日一番の大声で応える。そして全員の目が据わる。彼らはこれから死に近付くのだ。その先に待っているものが希望か絶望か定かではないにもかかわらず、ろくに名前も知らない者の言葉に突き動かされているのだ。それが彼らの心の余裕のなさを表している様で、やるせない。彼らの革命が無事に成功して帝国が変わればいいと願うのは、これも傲慢であろうか。
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「初撃はダハウィが決める!皆ダハウィに続け!突撃ー!」
「なんだ、いきなり魔物が。ぎゃあぁぁ!」
ダハウィが帝都の外で見張りをしている帝国兵に襲い掛かる。帝国兵は訳も分からぬ間に制圧されるが、本体は帝国を囲む壁の内部にいる。その帝都に私の指揮の元農民たちが流れ込む。途端に帝国は大混乱に陥るが、こうなると奇襲を仕掛けた私たちが有利になる。
「さて、後はダハウィが内部に入れば一気に有利になるのですが・・・」
「おいおいリグウェル、考えなしかよ。いいか、人間と魔物が手を取り合うとこんなことも出来るんだぜ。ジジイから教えてもらったとっておきだ」
リクさんが私をからかいながらダハウィに対して肉体強化の魔法を唱える。元より肉体的に優れているダハウィに肉体強化の魔法をかけるとどうなるかは火を見るより明らかだ。
「グルアァ!」
ダハウィが一際大きく吠えると、全力で壁に体当たりをする。それはただの体当たりではない、帝都を取り囲む壁を崩壊させるほどの威力を持つものだ。凄い振動が来たと思うと、次の瞬間には帝都の壁が粉々に砕け散っている。衝撃波で私たちまで飛ばされそうになるが、それでも思わずダハウィの方を見てしまうほどには衝撃的であった。気付くと、私だけではなく帝都の住民全てがダハウィの事をみている。そこに畏怖の目はない、ただただ帝都を取り囲んでいた壁が崩壊する瞬間を見ている。もしかしたら、帝都の住民を取り囲んでいた柵から解放してくれたダハウィに尊敬の念を抱いているのかもしれない。対照的に帝国兵達は絶望している様で、顔は真っ青である。無理もない、今まで壁に囲まれた帝都で逃げ場もない住民に対して横暴を働いてきた、そのツケが来たのだから。
「ダハウィは世界を揺らす、確かにそうだな」
「えぇ、この革命・・・私たちの勝ちです」
直に革命軍は帝国兵を倒していき、遂には帝王を捕らえることに成功する。帝国兵に搾取され死んだ目をしていた帝都の住民がダハウィを神と崇めるようになったのは当然の帰結であろう。そしてダハウィのみならず私も感謝された。私自身は革命の成功は私だけでは無しえず、ダハウィと農民の皆とそしてリクさんがいたからだと思っていた。なのでリクさんにも感謝の言葉を伝えて欲しいと言おうとしたが、ふと周りを見渡すとリクさんの姿がない事に気付く。
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「俺様の役目は終わり、帝国の復興は帝国民が担うべきだ。ましてや帝国との戦争で勝っちまった王国の人間がいると、何かと気まずいだろ。別に寂しくはねぇが、また一人旅に逆戻りか。さて次はどこに行くかね、どうせなら地底都市のさらに先まで目指してみるか」
リグウェルには何も言わず帝都を後にする。一人旅は孤独ではあるが、いつまでもあそこに居続けるわけにはいかない。帝国の未来を勝ち得たのはリグウェル率いる革命軍だ。それなら俺がいるのは野暮というものだ。俺は次の目的地を決めて、ひたすら歩き続ける。




