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fallen  作者: 流転
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何故こうなってしまったのかと答えの出ない疑問が堂々巡りで頭の中を駆け回る。深いな闇とも海ともとれぬ泥が体に纏わりつき、僕の意識を朦朧とさせる。立ち止まっていても何も意味はないと頭のどこかで分かっておきながら、その癖思考が定まらない。目の前には力尽きたミーシャ。そして少し離れたところにはミーシャの命を奪ったゴロツキどもの死体が転がっている。大厄災という非常事態であるにもかかわらず、ゴロツキどもは剣一本を持って住民が避難した王都を物色していたようだ。だが幸いにもまだ何も取っておらず、それが不幸中の幸いと言えばそうだろうか。


「ミーシャ。これが君の救いたかった王都の住民の姿か?君が本当に大事にしていたゴザ協会の皆は、おばちゃん達は、どうなるんだ。取り残された彼女たちの悲しみがどれ程のものなのか、君にはわからなかったのか・・・?」


そんな答えのない疑問をもう冷たくなっているミーシャに投げ掛ける。当然答えなど出ずに、僕はさらに悲しくなる。ふとミーシャの横に転がっている剣を見やる。ミーシャが聖剣と言っていたそれは、どう見ても鈍らで命を奪う事などできやしないとさえ思える。おそらく鍛冶師に政権と言いながら見せても無視されるだろう。だがミーシャは聖剣だと思っていた。自分には英湯ルークの血が受け継がれていると信じて疑わなかったのだ。


「僕がミーシャを焚きつけてしまったせいなのかな・・・後悔しても、しきれないな」


僕のか細い声が王都の中に静かに漏れる。だが、そんな思考の連続の中に、僕はもう行かなければならないという想いが強くなる。パグさんは癒し手として少しでも多くの人を救うと言っていた。おそらくミーシャも英雄として大厄災に対抗しようとしたのだろう。それならば僕もやるべきことをやるべきだ。


「立ち止まっていてもこの世界は回り続けるんだ・・・」


僕は地面に転がっている聖剣を握りしめ、一人歩き始める。今は懺悔をする時間も祈りを捧げる時間もない。ましてやミーシャの遺体を墓に持っていく時間などあるわけがない。そんなことを考えながら立ち上がると、僕が探し求めていた友が、数多のガルを引き連れて歩いてくる。


「ライザ・・・!無事だったんだね!」

「アァ、リューよ。ワレはブジだ、ワレはナ・・・。ソレでリュー、イヤ、トモよ。ワレのネガイをキイてクレナイカ?」

「願い?見た感じライザは精神干渉の魔法で操られてみないようだし・・・いいよ。それで願いって何?」

「リューよ、トモからのネガイだ。ワタシとホンキでキリアイをシテクレナイか?」

「・・・え?」

「オウコクヘイがクルマエに、リューがワレにトドメをサスのだ」

「え?え?何言ってるのライザ。ライザは僕の友なのに、友を手にかける事なんて出来るわけないじゃないか!それになんでいきなり死のうなんて考えるんだ。ライザは精神干渉の魔法をかけられていないんだろう!?操られてなんていないんだろう!?王国の民を殺したりしていないんだろう?」

「リュー、コレをミロ」


ライザが自分の剣を見せる。そこにはべったりと血がついている。ふとライザの後ろのガルを見ると、ガル達が持つ武器にも血がついている。ふと思い起こされるのは逃げようとしたゴロツキたちをふらっと現れたガル達が殺したこと。そうだ、ガル達は犯罪者とはいえゴロツキたちを殺したのだ。だが、今は人間である僕を前にしておきながら、死に場所を求めることに執着している。一体何が起きたの理解できないが、気付けば周りで沸き起こる人間の悲鳴は消え失せ、ガル達の叫び声が聞こえてくる。そしてそれに伴う王国兵たちの声。その声は次第に近付いており、このままではライザたちは王国兵に見つかり殺される未来しかない。僕はすぐに最適解を見つける。


「ライザ、ガルを集めて!僕が隠密の魔法を使って王国兵をやり過ごすから!」

「リューよ、ワレラはモハヤ、イキルキボウをウシナッタのだ」

「ライザ、僕はライザを殺すことなんて出来ない。何で生きる希望を見失ってるのさ!僕が前に渡した緑色のブレスレットを今もはめているだろう。ライザの後ろには沢山のガルがいるだろう。ライザを信じてついてきた後ろのガル達はどうするんだよ」

「リューよ、トモからのネガイだ・・・」


そしてライザは押し黙って僕に剣を向ける。近くからは王国兵の声。もうすぐそばまで迫っているのだと弥が上にも理解する。剣を抜いて友を切らなければいけないというのだろうか。僕は拒むが、ライザが唐突に切りかかってくる。それは緩い剣筋であり、僕は簡単にかわすことが出来る。だが驚いて、僕がライザに何かを言おうとしたときに、ライザと目が合う。ふと周りを見渡すとガル達が僕とライザを取り囲んでいる。その目は据わっている。ライザの目は僕に懇願するような目をしている。それで僕は覚悟を決める。


「タノム、リュー。オウコクヘイにコロサレルより、トモにコロサレタイのだ」

「・・・こんなの酷いよライザ。僕とライザは友だろ?せめて僕にだけは詳しく説明してほしかったよ。いきなり別れを告げて、取り残される僕の事をライザは何もわかっちゃいない」

「・・・ワカッテイル」

「分かっていないよ!もう誰も失いたくなかったのに、僕の大切な人たちをこの手から離さないように必死に生きてきたのに。でも、思えばライザには振り回されっぱなしだったね。僕を助けるために戦場にやってきて来たときは驚いたんだよ?どうせ今回も友である僕には知られたくない何かがあって、そのまま死を選ぶんだろ?ライザは自分勝手だ、それについていくガル達も同罪だよ?」

「・・・チガイナイ」


感情を吐き出した僕に対してライザは自嘲気味に笑う。それでもう僕とライザは口を交わすことはない。もう本当に時間が迫っているのが分かるから。だから僕はライザに剣を向ける。聖剣は使わない、これはミーシャの意志だから。その僕の行動にライザは笑った気がする。一瞬静寂が訪れる。そして次の瞬間には本気で斬りあいを始める。ライザは自らの死を望んだが一切手を抜いていない。その昔何かの本で読んだ気がする。斬りあいを始める前に相手に剣を向ける事は、相手に最大限の敬意を払いながら別れを告げる挨拶なのである。剣を交えるという事は、どちらかが死ぬという運命を受け入れるという事なのだ。


ライザは強い、殊命を奪う事に関してはライザは僕以上に強い。だがそれでも僕も修練を積んできたのだ。いつかはライザの背後に立ち、共に戦う事を夢見て死ぬ気で修練を積んできたのだ。夢叶わぬとも、僕のすべてを今ライザに伝えるのだ。剣戟はどれほど続いただろうか、僕はライザの一瞬のスキをついてライザに向けて剣を突き刺す。躊躇いは一瞬、生き地獄こそがライザにとって真に厳しいと感じたから。


「グ、ウ・・・。トモよ、ツヨクナッタ、な・・・」

「ライザ、君は卑怯な奴だ。僕は大切な人を失っていくというのに、君は大切な仲間に囲まれて死んでいくのだから。仲間に囲まれて笑いながら死んでいくんだ・・・!僕は、涙が止まらないというのに」

「スマナイ、ソシテアリガトウ・・・」


そしてライザは永遠の眠りにつく。その顔はミーシャと一緒で、笑っていた。ふと周りのガル達が遠吠えをする。それは今はなき僕の友に届いているのだろうか。暫くして王国兵がやってきて、周りのガル達は次々と倒されていく。僕は友の亡骸から緑のブレスレットを取り外す。そして静かに泣くのだ。仲良くなるのは大変なのに、別れる時は一瞬だ。その世界の理不尽に、それでも僕の心は負けるわけにはいかないと決心する。残された者は挫けるわけにはいかないのだ。大厄災は人間の勝利で幕を閉じた、僕から大切な人を2人奪って。

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