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fallen  作者: 流転
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それは突然やってきた。まるで自信家の様な地響き、世界が揺れるとも思えるほどのそれは、日常の崩壊を簡潔に僕らに告げる。だがそれでもまだ浮足立っている王都の住民を現実に引き戻す声が何処からともなく聞こえてくる。


「大厄災だ!」


人々はそれで理解する。途端に罵声と悲鳴。王都いっぱいに警鐘が鳴り響き、王国兵たちは王都の入り口を目指して、対して王都の住民たちは入り口からできる限り遠くに行こうと逃げ惑う。


「皆落ち着け!大きな建物に逃げ込むんだ。バラバラになると守り切れない!冒険者ギルドかゴザ協会か城の中へ!」


どこかで兵士が叫んでいる。人々はその言葉を聞き、目的地を決めたようだ。だが僕はそのどれにも向かわない。目指すべきは王都の入り口、王国兵よりも先に押し寄せる魔物を把握するためだ。だが逃げ惑う人々に押し戻され、思うように前に進めない。それは王国兵も同じようで、先に住民の避難誘導をしている様だった。あらかた住民の避難が済みようやく通り道が出来ると、僕はすぐさま逃げ惑う住民たちの流れに逆らい王都の入り口を目指す。


(急がないと、急がないと!)


そして暫く走ったところで誰もいない広場に辿り着く。ここは大厄災の前は多くの住民が集まっていた場所だが、今では見る影もない。そこで息を整えながら己の無謀さに苦笑する。本来なら魔王が生きていると大厄災は必ず起きる。大厄災を起こさないためには魔王を殺すしかなく、この先の魔物の平穏を望むのなら魔族を根絶やしにした方が良いに決まっている。だが僕は魔族の皆とライザ、両方を助けたいと願ってしまったのだ。今この世界で一番欲深いのは最高神ガダーディスなどではなく僕なのかもしれない。だが僕はこの道が正しいと信じてやまない。僕は魔物の事も魔族の事も詳しく知っているつもりだ。


(例えば今この状況での最善手は・・・これだ!)


僕は迷いなく剣で己の腕を斬りつける。ガルは鼻が利く、それもとてつもなく。人間に気付かれることなくガル達を呼び寄せるにはこの方法が手っ取り早い。特にライザは僕の血の匂いを知っている。ライザにはこれだけで通じる筈だ。だが、少し待ってもガル達は現れず、王都のそこかしこでは悲鳴があがっている。


(どういうことだ・・・?大厄災は魔物に精神干渉の魔法をかけて、人間を襲わせているはずだ。それでも血の匂いには敏感な筈。それは魔物の本能だ。ダハウィも精神干渉の魔法をかけられながらも、無自覚に僕を攻撃し続けていた)


だが考えても答えは出ず、ここにとどまっていては意味がないという焦りが出始める。動いたほうが良い、その方がより多くの命を救えるから。だが一体どこへ?僕にガルの力があれば真っ先にライザに駆け寄るというのに、無力な自分がもどかしい。何故ライザは僕の元へ来てくれないのだろう。何かもっと大事なことがあるのだろうか。そんなコトを考えながらそれでも王都を走り続けると、見慣れた姿を見かける。


「あ、お兄さん!良かった、助けておくれ!」

「ミーシャが、ミーシャが・・・!あの子、ゴザ協会に居ればいいのに、剣を取り出して出ていってしまったんだ!」

「・・・え?どっちへ行ったんですか!?」

「あっちだよ!」


僕の思考は麻痺する。何故ミーシャが飛び出すんだ、今君が飛び出したらどれほどの人間が悲しむと思っているのだ。シスターは涙を流すだろう、システィアは静かに泣くだろう、おばちゃん達は号泣ではすまぬだろう!それが分かっていながら何故飛び出したのだ!僕は必死に走り続ける。考えることが多すぎて、脳が焼け付きそうだ。体の方はとっくに限界が来ているが、無理矢理再生の魔法を使い続けて、再生しては疲労の蓄積を繰り返す。そうしてどれほど走り続けただろうか。道の端に見慣れた小さい影を見つける。ようやく追いついた!


「ミーシャ!勝手に出ていくのは、止、め・・・?」


それはミーシャではない。僕が求めていたのは元気に笑うミーシャの姿だったが、それは最早命の輝きを失っている。道端にくたりと横たわっており、もう起き上がることはないと本能が悟る。横には不釣り合いな長い剣。英雄ルークから受け継いだ聖剣だとミーシャが豪語していたものだ。心臓には小さな刺し傷があり、それが致命傷になったのだと悟る。なんだ、これは。何なのだこれは。脳が理解を拒む。行き場のない悲しみが僕の口から流れ出す。


「ウワアァァァ!うっ、なんで、こんな・・・」


その時視界の端で何かが動く気配がして顔をあげると、ゴロツキが今まさにその場から逃げ去ろうとしていたところだ。ゴロツキの手には剣が握られている、血で赤く染まった剣が。その時急に殺意が湧きだす。そのゴロツキどもの凶刃にミーシャはやられたのだと無意識に悟る。不思議とはずれている感じはしなかい。最早冷静ではいられず、叫び声と共に暴風の魔法を全力で自分の背後に放ち、加速を得てゴロツキどもに切りかかる。


「死ねぇ!」

「うおっ、なんだ!」


全力で斬りつけた剣はゴロツキどもに止められる。加速もあったがそれでも受け止められたという事に驚きはない、今はこのゴロツキどもをどうすれば殺せるかしか頭にないのだ!


「死ね、死ね、死ねぇ!」


ライザに教わった剣術、一切の情けを捨て、ただ相手を殺すためだけに特化した剣捌き。僕は人間性を失う代わりに獣の力を携える。ミーシャの仇を取るために。だがゴロツキどもは自分たちが不利になると悟ると、すぐさま僕を倒すよりも逃げることを優先する。剣で斬らずに足で僕を蹴り飛ばし、その隙に走り去っていく。


「逃げるぞ!角を利用しろ!直線は追い付かれる!」

「逃げてんじゃねぇ!ぶっ殺す!」


だが逃げに徹したゴロツキどもは足が速く、かつジグザグに角を利用して逃げ続けるので暴風の魔法による加速は得られず、徐々に差が開いてゆく。


「ははっ、逃げ切った!」


ゴロツキどもが笑う。そのことが僕の神経を逆なでするが、だが僕では追いつけないのは確かだ。諦めかけたその時、丁度ゴロツキどもが曲がろうとした角から手作りの先がとがった木の棒が現れ、ゴロツキどもの喉を突き刺す。僕に気を取られていたゴロツキどもは避けることもかなわず直ぐに絶命する。


「ガル・・・!そうか、大厄災が・・・あれ?」


ゴロツキどもを殺したのはガル達だ。だがそのガル達はまるで僕の事が見えていないかのような素振りで、何事もなく去っていく。後に取り残された僕は一瞬呆けるが、すぐに絶命したゴロツキどもに一瞥もくれてやることなく、ミーシャの元に戻る。そして再生の魔法を使う。


「生き返れ、生き返れよ!何で生き返らないんだよ!僕にパグさんの様な才能があれば、くそっ!くそ!何で生き返らないんだよ!」


ミーシャはもう冷たくなっている。それは僕もとうに理解している。英雄に憧れたミーシャが大厄災が起きているにもかかわらず、聖剣を持ち出して守りたかった奴らはあのゴロツキどもの様な奴らなのか?違うだろう、何でミーシャが死ななければならないのだ。


「リュー、そんなとこで何してんだ!」

「パグ、さん・・・?」

「おい、そこにいる嬢ちゃんってまさか・・・!」

「いいところに来てくれました!パグさんならミーシャを生き返らせてくれますよね?魔法の才能があるパグさんなら!もし再生の魔法で無理なら復活の魔法を使えば良いんですよ。あぁ!リクさんに持たせた魔力瓶、持ってませんか?」

「・・・ふっ、ふざけんな!もう嬢ちゃんは助からねぇよ。真実の魔法で見ればわかるだろ!何現実から目を背けてやがるんだ!」

「何言ってるんですかパグさん?ミーシャは死にませんよ?」

「いい加減にしやがれ!」


パグさんが僕に声をかけてくる。僕は必死でパグさんに縋る。そうだ、魔法の才能があるパグさんならミーシャも生き返られてくれるだろう。それにもしこの場に魔力瓶があれば、ソレを使ってミーシャは確実に復活できるのに。あぁ、ミスったな。そんなコトを考えていると、パグさんが怒鳴った、次の瞬間には僕はパグさんに思いっきりぶん殴られていた。


「ぐはっ、いた、痛いですよパグさん。何するんですか?」

「正気に戻りやがれ!俺を離せ、まだ助けを求めている命は沢山あるんだ!俺がここで助けたやらないと、そのままウルルカンクに行くような命がな!それに魔力瓶は禁術を発動するために使うんじゃねぇ!お前もあの時、魔力瓶を持ちたくないって言ってリクに預けただろ!死んでいった人たちは無念ですが、一人を復活させるために有効活用してあげますよ、ってか!?ふざけんな、死んだ人に利用価値をつけようとするな!お前は死を冒涜するつもりか!」


パグさんは何を言ってるんだ?そんな見ず知らずの他人の命が例え一万集まっても、そんなものよりミーシャの方が大事だろう。何でパグさんは言葉も交わしたことのある人を切り捨てることが出来るんだ?そこで僕の思考は停止し、深い深い闇に落ちてゆく。現実に戻れずに溺れていく僕を尻目に、パグさんが何かを宣う。


「おい、俺はもう行くぞ!救うんだ一人でも多くな」


パグさんのその言葉の意味が分からない。分からない事だらけだ、何でミーシャが見ず知らずの人を助けようと聖剣を持ち出して大厄災に立ち向かったのかも分からないし、何でパグさんが目の前の命を簡単に切り捨てられるかも分からない。ミーシャはまだ死んでいないのに。生きれる可能性があるというのに。分からない事だらけで、脳がパンクする。

_____

「大厄災だ!」


その言葉はどこからともなく聞こえてきたであります。町の住民は慌てふためくでありますが、英雄ルークの血を受け継いでいるミーシャにはこのくらいの恐怖、大したことはないであります。ミーシャは英雄ルークの血を受け継いでおり、聖剣もあります。ミーシャがこの王都を守るであります!ですがシスターとシスティアは最近警戒心が強くなったであります。ミーシャが無茶をしようとすると、二人そろってそれを止めようとするのであります。曰くミーシャがやらなくても良いというのでありますが、ミーシャが守らねば誰がこの王都を守るでありますか?ミーシャは王都の住民を守る必要があるのであります!


「ミーシャ!」

「ミーシャ待ちなさい!」


ゴザ協会に逃げてくる住民に紛れて、聖剣を片手にゴザ協会を抜けだします。システィアとシスターが後ろから声をかけますが、振り返ることなく走り続けるであります。町の中はまだ逃げ惑う人が多くいましたが、王国兵達が避難誘導をして、王都の住民はそれぞれ一番近い避難場所に逃げていくであります。視界が開けたので魔物が何処から来るか見渡しますが、住民の悲鳴は聞こえても魔物の姿はどこにも見られないです。


「ミーシャが助けるです!いやミーシャには無理でも、せめてリューが来るまでの時間稼ぎをするのです!」


前にリューと言う冒険者に勇者とは何たるかを問われたです。ミーシャにはまだその答えは見つかっていないです。でもミーシャにとって大事な人を見つけました。そしてミーシャにとって大事な人は、同じくミーシャの事を大事にしてくれていたであります。だからこそ、ミーシャは大厄災から一人でも多くの人を救うのです。英雄ルークの血が立ち止まるなと心の中で叫んでいるのです。ですが走れど走れど魔物の姿は見えずに、ようやく見つけたと思えばそれは人間でした。


「あれ?まだ人間がいるでありますか?早く非難するです・・・え?」


人間たちに後ろから声をかけると、その人間たちはすぐさま振り返ったであります。手に刃物を持ちながら。そしてミーシャが何かを考える間もなく、心臓には剣が吸い込まれるであります。気付けば冷たい地面に横たわっていて、手から聖剣は零れ落ちていたであります。心臓部分から血が流れ始めて、思考に靄がかかっていきます。体は急激に冷たくなり、もう指一本も動かせなくなります。体も動かせないでありますが、何処からか足音が聞こえてきて、人間たちが何か叫びながら逃げていく声が聞こえるであります。


(あぁ・・・ミーシャはここで死ぬでありますか。もっと町の皆と喋れば良かったであります。こんな事なら、リューと、はなし、を・・・)


冷たい町が一人の少女を飲み込む。その少女の横で一人の男が泣き叫ぶ。男は何かを後悔しているようだが、男の腕の中で眠る少女は満足そうに笑っていた。

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