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fallen  作者: 流転
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俺が彼らに生きたいか否かを聞いても、はじめ彼らは俺が何を言っているか分からないという様な表情をしていた。無理もない、終わりの見えない生き地獄を渡り歩いて、最早生きる希望すら見えなくなっているのだろう。全力で明日を掴んだところで、明後日にはすべてが無に帰すかもしれない、そしてそれは自分の手が及ばぬところで決定するのだ。戦争にしろ、干ばつにしろ、農民にはどうにもすることは出来ない。故に、彼らは実感が湧かないのだ、行動次第では現状を変えることが出来るという事に。


「ちっ、何呆けてやがるんだ。いいかオメェら、一度しか言わねぇからよく聞いとけ。この世界は無情だ。オメェらが命がけで戦争から逃げ延びても、必死になって兵士のために農作物を育てても、帝国のお偉いさんたちはそれが当たり前だと信じて疑わねぇ。だからオメェらが自分たちの行動の対価を求めたり、救済を願っても誰も手を差し伸べちゃくれない」

「・・・」


呆然と立ち尽くす農民たちにたいして俺は捲し立てる。横ではリグウェルが何を言うでもなく、俺の事を見守っている。俺の言葉はリグウェルにも刺さっているはずだ、だから何も言わないのだ。それが酷くもどかしく感じる。何故見ず知らずの人間にここまで言われて、黙っていられるんだ。現実をまざまざと突き付けられて、燻っていられるのだ。帝国民は未来への活力を根こそぎ削ぎ落とされているのか?だがそれでも、俺は演説を止めることはない。心にもない事は言えない、むしろ相手の心を真実の刃でえぐる程の切れ味が、時には必要になる時もある。俺はラスティ王国の国王の様な仮面を被って甘い言葉ならべたてるのは死んでも御免なのだ。夢を見させることはなく、それでも現実に憧れを抱かせるのだ。


「立ち止まって、明日には恵みの雨が降ることを最高神ガダーディスにでも祈ってみるか!?未来は不確定だと自分を騙し騙し生きてみて、臨んだ未来が来なければ死を悟るか!?ちげぇだろ!何で何もせずに始まる前から死んだ目をしてやがんだ!」

「うっ、なんだ、何なんだアンタは・・・!ほうっといてくれ、私たちが生きようが死のうが私たちの勝手だろう。それに必死に生きてきたんだ、今まで死に物狂いで!だがこの現実はなんだ、何の冗談なんだ!もううんざりなんだ!放っておいてくれ・・・」

「それだ、その目が嫌いなんだ。自分たちこそが今この広い世界で一番不幸だという事に酔いしれている目がな。それに俺様はオメェらと言葉を交わしちまった、もう他人でも何でもないだろ?」


俺の言葉に農民たちは訳が分からないと言った体だ。無理もない、俺も昔は農民側だった、だが強引にも未来を切り開く奴らと出会ってしまって変わってしまったのだ。


「仕方ねぇ、俺様の力を見せてやる。刮目しろ、呼び寄せの魔法」


だから俺は多少強引でも彼らに希望を見せてやる。どす黒い魔力瓶を取り出して、中からあふれ出したむせ返る程の魔力を操り、禁術を発動させる。するとすぐに頭上に雨雲が集まり、干からびた村に雨を降らせる。農民たちはポカンとしていた、そしてすぐさま恐怖の目を俺に向けた。だが、そんなことは想定内だ。


「おい、何だその目は。俺様が【影なる者】で何が悪い?俺様はオメェらに危害は一切加えない、それどころかオメェらを助けてやれるんだ。魔力持ちは忌み嫌われる存在だから、条件反射で距離を置くのか?ちげぇだろ!善悪の判断を他人に委ねるな!オメェらが目で見てるのが現実だ、テメェの頭で考えるのが思考だ!」


この帝国に巣食う固定観念と言うのは目で見えないくせにやけに強固だ。それは革命を起こさせないための無意識の一体感。無自覚の住み分け。革命を起こすというのに、他人の先入観一つ取っ払えなくて何が革命だ。ふざけるな、精神干渉の魔法にしても【影なる者】にしても、他者の思考を圧力で抑えつける奴らにやられっぱなしなど、他でもない俺が黙っていない。


「どうだ、やるか?」

「・・・やらせてください、いや、やるぞ!」


農民たちは少し間をおいて一つの答えを出す。長考はしなかった、心のどこかで自然と答えは出ていたのだろう。だが、口に出すことで改めて自分の気持ちを確かなものにすることも、時には必要なのだ。


「帝国兵にはうんざりしてたんだ・・・!」


そう答えた農民たちの目はもう死んではいなかった。それどころか、それはリグウェルと本質は同じ。腐りきった帝国兵達より、信念を持った農民の方が遥かに強い。魔法は神の奇跡の写し鏡とはよく言ったものだ。神ってやつは大嫌いだが、他人に活を入れるには有用である。だが、俺は魔法を奇跡であるとは思うが、その奇跡を相手に感じさせることなく、自分で甘い汁だけ吸うなんてことはしたくはない。


(ジジイに教わった時間は、かけがえのないものだ。不思議だな、失ってから気付くなんてな)


王国の様に精神干渉の魔法をかけるのではない。奇跡の上に胡坐をかくのではなく、あくまで奇跡は奇跡として。それがどれほど素晴らしい事か。ジジイは俺に魔法の事だけではなく、様々なことを教えてくれたのだ。そのことに感謝はしていたし、お礼の気持ちも当然あった。だが、今目の前で死ぬはずだった命が生きる希望を見つけたのは、間違いなくジジイのおかげだ。それが再確認されて、言いようのない感情が押し寄せる。呼び寄せた雨雲が、雨を降らし続ける。

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