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僕はライザとの待ち合わせ場所に向かう。二人で作った簡易的な墓。それもライザの同胞を埋めた場所だ。僕は自分が金を得るためにライザの同胞を殺した。ライザも当初はそれを気にしていなかった。まだ仲間意識がなかった時のことだ。今ライザがこの墓に現れたら何を感じるか、僕は見当もつかない。だから僕はこの墓に祈るのだ。不格好でもいい、腕が一本なくたって祈りの気持ちを込めることに意義がある。忘れはしないのだ、未来は不確定、過去は不変。だからこそ過去を忘れ去ることは、ライザが同胞と暮らしてきた時間を否定することに繋がるのだ。
「ライザ、今日は来てないのか・・・」
祈りを終えて周りを見渡すがライザの姿は見えない。王国軍が森に入ったばかりだ、まだ警戒をしているのかもしれない。大丈夫だ、遠征隊は大型魔物しか狩っていないし、あの魔物の死体の山にはガルは一匹もいなかった。それにガルは鼻が利く。人間の匂いを察知すれば、事前に逃げることも可能である。ライザは強く、そして賢い。群れから村へ、そして仲間へ変わっていったライザなら、仲間の事を全力で助けるだろう。
「プレゼントの感想を聞くのはまた今度かな」
王都に帰ると、町がざわついており、人だかりができていた。興味を持ってその人だかりを覗くと、中心には水晶玉を持った如何にも占い師と言う風貌の女性が立っていた。人だかりの中に話したことのある人を発見する。
「すいません、何が起きてるんですか?」
「ん・・・?あ、いつもヌーラの火酒を買いに来てくれていた冒険者のお兄さん!戦争を生き延びたんだ、良かったな!」
「お陰様で、ありがとうございます。またヌーラの火酒を買いに行きます」
「何を言ってんだい、若者が酒ばっかり飲んでちゃ、すぐに体を壊すよ。坊やはウチでブレスレットを買わなくちゃいけないんだから」
僕がヌーラの火酒を撃ってる店の店主と話していると、前にブレスレットを買った老婆が割り込んできた。いや、老婆だけではない、気付けばバステルの販売員と、一度しか足を運んでいないはずの鍛冶師も話の輪に入ってきた。
「おっと、そいつは違うな。お客さんは俺のとこでバステルを買うんだよ」
「おい坊主、俺が前に拵えたハラウルの牙付きの籠手をメンテナンスしに来い。そろそろガタが来てるはずだ、冒険者なら装備に金は惜しむなよ」
それがたまらなく嬉しく感じる。皆口では打算的で、冒険者と言う金づるを手放さないように必死のように見える。だが、たった数時話しただけの間柄だとしても、赤の他人ではない。皆それぞれ僕を呼ぶ声は別だが、目的は一つだ。それは僕が冒険者と言う命を危険に晒す職業に就いているから。そして、そのことを彼らに話したから。
(思えば、僕が冒険者という事を伝えると、彼らは僕のことを心配してくれていたな)
直接言葉で伝える人、回りくどく伝える人、不愛想ながらも仕事をこなす人、また来てくれという人、形は違えど、彼らは僕に死んでほしくなかったのだろう。少しだけ話した間柄だとしても、自分より年下の人間が戦争や大厄災で死んでいき、老いた自分だけが取り残される感覚に悩まされていて、本気で僕の事を心配してくれていたのだ。パテンさんの気持ちが、だいぶ分かった気がした。
「全員の店に行きますよ。勿論元気な姿で」
僕のその言葉に彼らは笑顔を見せる。いつ死ぬともしれぬ命が出会うのだ。明日別れるはずの名前も知らぬ命を本気で心配するのも、勇気のいることだ。何故なら心配すればするほど、安否がわからぬうちは神経がすり減ってゆくのだから。だがそれでも、僕はこの王都が好きだ。王国兵はきな臭い、国王の考えは読めない、王国民たちは自分の命をかわいがる。そんな世界でも、皆生きているのだ。そのことを実感し、僕は会話を続ける。今はもっと気になる事が目の前に転がっているからだ。
「あの水晶玉を持っている女性、もしかして占い師ですか?」
「そうさね、遠い国からやってきたみたいだけど。どうやら前に死んだ占い師の代わりに大厄災の事を占うみたいだよ」
「・・・え?」
「黙ってろ坊主、占い師が何か喋るぞ!」
鍛冶師に口を塞がれると同時に、辺りは静寂に包まれる。占い師のために集まった数多の群衆が、固唾をのんで占い師の一挙手一投足を気にかけているのだ。
「えー、王都の皆さん聞いてください。私はこの度国王陛下により雇われました、しがない占い師です。大厄災の事を占って欲しいと頼まれましたので、今ここで未来を占います」
透き通るようなその声に、誰かがおぉと歓声を上げる。しかしまた場は静まり返る。占い師が水晶玉に手をかざして、本格的に占いを始めたからだ。どれほど占っていただろうか、暫くすると占い師は口を開く。
「・・・見えました。近いうちに魔物が攻めてきます。魔物はガル、中には強い個体も混ざっています。無傷とはいきません、ですが王国兵達がガル達を倒しています」
(・・・!そんなバカな。まさかライザたちが操られると言うのか?ガダーディスに精神干渉の魔法をかけられて)
真っ青な僕とは打って変わって、王国民たちは歓喜の声を漏らす。それは人間の勝利を疑わない者の期待の声。だが、話はそう簡単な事ではない。
「生命は光と闇。無傷じゃないという言葉を聞いていなかったのか・・・?」
「まだ祝い酒とはいかないね」
そうだ、助かる人がいれば必ず傷つく人もいる。それに大厄災ではライザたちが襲ってくると言うのだ。確かに遠征隊が討伐した中にガルはいなかった。ライザたちは生きているのだ。だが理不尽はしつこくライザたちを狙おうとしているのだ。
(ガダーディスの好きにはさせない。僕には尋常ではない魔力回復速度と、精神干渉の魔法を打ち消すノウハウがある。助けて見せる・・・!)
王都の住民が浮かれている中で、僕は気を引き締める。本当の闘いはこれからだと自分に言い聞かせるのだ。




