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fallen  作者: 流転
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「ガハハハッ、最近はゴザ協会が作ってくれたポーションのおかげで調子がいいぞ。リューも飲むか?最近は思い悩んでいただろう?」

「ありがとうございます。でも、僕も大仕事を一つこなしてようやくゆっくり休めるようになりました。僕にも出来ることがあったと実感できました」

「そいつは良いことだ。人間一人に出来ることなんてちっぽけな事しか出来ねぇが、小さな波紋も、重なり合わせれば世界を揺らす。リュー、お疲れさん」

「世界を揺らす、ですか。そういえばおじいちゃんも最後の魔法を使う時に大地を揺らすという表現を使っていましたね。何か特別な意味があるんですか?」


おじいちゃんが最後の力を振り絞って放った巨石の魔法は確かに世界を揺らした。ワイバーンをただ倒すだけではなく、あれはまるで文字通り僕の世界、つまり心まで揺れ動かしたのではないだろうか。あの魔法は僕を後押しするには十分だった。パテンさんは、何故か笑って僕の質問に答えた。


「リューはこの世界で一番大きな魔物を知っているか?」

「分からないです」

「リュミのモンスター図鑑を読んだのに分からないのか?ったく、仕方ない。正解を教えてやろう。正解はダハウィだ」

「ダハウィってあの!?地底都市の方にすんでる魔物ですよね?」

「おっ。知ってるじゃねぇか。そうだ、地底都市の方では誇り高い砂漠の王と呼ばれている。その理由はただ体がでかいからと言うだけじゃない。古くから人間と言うのは魔物に恐怖と共に畏敬の念を抱いていたのさ。特にまだ人間が力をつける前の太古なんて、魔物に‘王’という名前さえつけて、敬意を払っていたんだ。だからダハウィは魔物でありながら闇雲に人間を襲う様なことはしない。古くからの関係がその遺伝子に刻み込まれているんだよ」


パテンさんの言葉を聞いて納得する覆いに納得する。戦場で僕はダハウィに打消しの魔法を使った。だが正気に戻ったダハウィは僕たちを襲うことなく、そのまま帰っていった。今思えば、あれは魔物としての本能には従わず、精神干渉の魔法を解いてくれた僕たちに敬意を払って、何もせずに帰ったのではないか。ライザとイスファ=リアという前例があるからこそわかる。魔物は人間と関わることで、その本質までも変わることが可能なのだ。


そして何故帝国が遠くの砂漠からダハウィを精神干渉の魔法をかけて戦場に投入したのかも理解した。ダハウィは強力な魔物だ、それこそ王と崇められるほどに。地底都市の人からしたら神聖な魔物で敬意を払う対象だが、帝国からしてみたらただの戦力だ。見境のない帝国に思わず苛立ちを覚える。だが、今はパテンさんの話の続きが先決だ。


「とにかく、ダハウィの巨体から繰り出される全力の攻撃は世界を揺らすと言われる。これも世界七不思議のひとつだがな。世界を揺らすってのは抽象的な話ではなく、もっと具体的な話。ダハウィはよほどのことがない限り全力を出すことはないと言われているが、もし全力を出して、それを目の前で見たらきっとリューも衝撃を受けるぞ」


違いない。戦場ではダハウィの精神は操られていたから世界を揺らすことはなかった。勿論僕の心に波風一つも立てることはなかった。あの時はただ恐怖のみを感じていた。だがもし、ダハウィが全力を出す時があるとすれば、それは仲間を守る時であろう。


(誰かを守る時、人は強くなれる。そして人と魔物はそんなに変わらない。皆に教えてもらったしね)


僕はまたこの世界について一つ賢くなる。今まで断片的に散りばめられていたパズルのピースが少しづつ集まってきて、この世界の全貌が見えようとしている感覚に近いものを感じる。僕が魔族や魔物の心を理解する中で、僕自身もこのガダードの世界を知り、人々のいざこざを知り、そして人と人との輪が広がっていくのだ。

_____

「ですがリクさん、地底都市までどうやって行くんですか?」

「そりゃ歩いていくんだよ」

「ちょっと待ってください、妻は帝国兵に売られたんですよ!?今は一刻も争うんです!」

「それでオメェはついさっき、帝国兵に単騎突撃を仕掛けようとしていた。だが俺様に諫められて、別の道を模索することにした、だろ?なら今は俺様に従え。時間はかかるが、革命は一夜にしてならず、だ」

「妻を見殺しにしろって言うんですか!」

「おいリグウェル、オメェの妻ってのはそんなにやわなのか?オメェが今助けないと、死んじまうような儚い存在なのか?オメェの愛した存在はその程度なのか?」

「うっ・・・」


俺がすごむとリグウェルは言葉に詰まる。戦場では頼もしいやつだったが本質は変わらない、リグウェルは結局はきっかけがないと変われない生き物なのだ。リグウェルは恐らく故郷を追い出されて、そこから変化した環境に抗うためにこの帝都までやってきた。だが、その先のプランを何も考えていないのだろう。リグウェルは心が決まれば無類の強さを誇るが、どうしても流されやすい傾向がある。


(他人が今から命をなげうとうってのなら止めやしないんだがな。俺様も甘くなったもんだぜ)


それにリグウェルは自分が鉄砲玉になって帝国兵に一矢報いればそれで満足かもしれないが、残された者達はどうなるのだという話だ。最悪のケースは帝国兵が農民の反逆を恐れて、農民の殺戮や人身売買に走るケース。その場限りの欲求を満たしたり、自分は辛いからと周りに目を向けない行為は地獄を招き入れることになる。


(リューもパグも、そこんところがなっちゃいねぇ。王国が生きづらくて旅に出たのに、今度はテメェで厄介ごとに首を突っ込むなんて、俺も他人のことを言えねぇか)


「いいかリグウェル。帝国民はオメェ以外も今を懸命に生きてるんだよ。オメェはここで死ぬ覚悟を決めても、相も変わらず明日はやってくるんだよ!今のためじゃなくて未来のために動け!オメェになら出来るだろ」

「・・・!」


リグウェルの目に活力が戻った。それでいい、人間は全てを失ったと絶望に打ちひしがれても、本人が諦めない限り未来だけはなくならないのだから。逆に言えば変えることが出来るのは未来だけとも言えるが。だがリグウェルは強い、おそらく俺様が少し背中を押してやれば、後はもう立ち止まることはないだろう。地底都市まで歩くのは時間の無駄ではない、人との触れ合う時間を増やすためだ。乗り物にでも乗れば目的地には早く着くが、目を向ける機会が失われる。人生で無駄な時間などたったの一時でもあるものか、過去は変えることは叶わず未来だけしか変えられないのだから、人一倍慎重に生きて悔いのない人生を歩むことこそ、生き甲斐と呼ぶのだ。


「ただ歩き続ける、こういうのも悪くないですね。少し生き急いでいたみたいです」

「リグウェル、オメェは力み過ぎなんだよ。気楽に行け、気楽に」

「リクさんは風来坊が過ぎると思いますけどね」


そんな軽口をたたきながら、地底都市に向けて重い足取りで歩く。口は軽く、決して気負いすぎないように。足取りは重く、決して引き返すことはない様に。

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