最凶の魔術師
その者、凶悪にて残忍。そして、最強の魔術師の名をほしいままにし、悪事の限りを尽くす・・・。
北の塔に住み、気まぐれで町に下りては悪事を働く。
最強にて最凶。
そんな彼に国は懸賞金をつけた。
その金額は過去最高額、100万ゴールド。
無謀なハンターはその金額につられ、魔術師を倒しに行くがいまだに達成したものは居なかった。
そんな折、勇者と呼ばれる存在が現れ北の魔術師を討伐すべく、首都を出発したとの噂が流れた。
北の塔の最上階に、最凶と呼ばれる魔術師はいる。
「勇者ね〜。」
俺は、水鏡を眺めながら笑った。
わざわざ懸賞金をつけた国の有様にも笑えたが、今回は更上回る滑稽さだった。
「これは、丁寧におもてなししないといけないな。
そうは思わないか?ディズ。」
ディズと呼ばれた少年は、掃除する手を止め、肩をすくめる。
「やりすぎないようにしてくださいよ?いつも主様はやりすぎるのです。魔法の制御がきかなくて、町を破壊とかそういうことばかりしているから、悪名がつくのですよ?わかっていますか?」
「うるさいな・・・。」
1個目の町は、ちんぴらにからまれ少し露払いするつもりだった。
2個目の町は、ディズを助けるためだった。
3個目の町は、これは不幸だったな。俺がこけて川におちて、川の水を蒸発させるつもりが、町の水全部を蒸発させちまったんだっけか・・・。
4個目は・・・
俺の魔力は馬鹿でかい。ある程度は制御できるものの、すべてを制御する事はできなかったりする。忌まわしい事に。
その制御の失敗により、悪名は大きくなっていく。
悪意を持って破壊活動をした事は一度もない。自分でも手がつけられない暴走だと自覚はしている。ゆえになるべく人とのかかわりを絶とうと、北に塔を魔術で作り出し住み着いたのだが、上手くいかない。時々は出かけるし、買い物だって必要だ。
その時々がいけないことも分かっているが、それは俺だって人間ってやつでたまには人里おりたり、旅行とかにもいってみたいってものだ。
それ以外はおとなしくしているのだが、その行為むなしく悪名は高まり、懸賞金がついてからは懸賞金目当ての輩がわんさか訪れ、きちんとひとりひとり出迎えていたら、金額があがるわあがるわ・・・。
「たまにしか、町に出かけることはないのだがなー。」
「そのたまにの、10分の1の確立で町に大損害を与えていたら、仕方ない気もしますけどね・・・。」
「お前つめたいな・・・。」
「主様相手なら、これくらいが当然です。」
「ちぇ・・・。」
ディズは下僕ながらも容赦しないものいいで俺に反論する。
だが俺は彼には逆らえない。それはここの家事をしてくれるのは彼ただ一人であり、俺が掃除や洗濯買い物等の生活能力がまったくないため、居てもらわなければならない存在で強く出れないのが現状だったりする。
情けないな。俺。
いずれ嫁が来ても絶対尻に引かれる気がする。
ま。最凶の魔術師の俺にところに来るような物好きは、いねーだろうけど。
「とりあえず、なんの歓迎もしないわけにはいかないし、なんか仕込んでくるわ。相手はなんといっても勇者様だしな。」
俺はにっこりと笑った。
*********
数日後。勇者はやってきた。
勇者は各仕掛けを突破し、彼はやってくる。
直前までやってきたのが水鏡に映る。
俺は最後の仕掛けを用意した。
そして、扉が開いた瞬間、俺は仕掛けを発動する!
『いらっしゃいませ。勇者さま。』
くす玉がぱっかりと割れ、紙ふぶきが舞い、垂れ幕がはためいて歓迎の言葉を揺らす。
勇者は、あんぐりと驚きの顔でこちらを見ている。
「ようこそ。おいでました。勇者殿。喉が渇いてませんか?麦酒を用意してあります。」
「お前は、北の魔術師じゃないのか?」
「あってますよ。ここが北の塔で、俺が北の魔術師。」
「塔に入る前の、生花が舞って出迎える仕掛けはどうでしたか?南国からもってきたんですよ」
「何かの呪術かと思った・・・。」
失礼な。何万という花を持ってくるのは大変だったんだぞ。
数が数だから、ひとつふたつどころじゃない町の花をぱぱっと転送したわけだけどな。
そういや、花の種類を指定するのを忘れたな。
「では、疲れを癒していただけるように用意した、お風呂はどうでしたか?」
「水攻めの仕掛けかと・・・。」
東方の霊泉の水を何トンと持ってくるのは大変だったのに!
水という固形じゃない物体を移動させるのが面倒で、泉を凍らせ氷として持ってきたんだ。結構な労力だったんだぜ。
あ。水に戻すの忘れた。ま、いずれ溶けるだろ・・・。
「残念だな。ま、いっか。では麦酒でも飲みましょう。」
「・・・???」
麦酒は西方の有名どころのものを酒樽ごともってきた。どれだけ飲んでもなくなることはないだろう。
ま、ちと切り離すのに失敗したけど、あれくらい愛嬌だろ。
「失礼ながら、勇者様。主様はただ来客が嬉しいのです。もしよかったら酒の席にお付き合いくださいませ。もし戦いたいというならば、明日にでも場所を整えましょう。主様は決戦が嫌いではないので、快く受けてくれます。」
ディズはいまだ混乱する勇者にむかって一言添えてくれた。それにより彼もこのままつったっていても仕方ないと思ったのだろう。席へと移動してくれた。
麦酒は十分足り、ディズの用意してくれた料理もおいしく、満足だった。
勇者殿も最初は訳分からずだったが、俺が純粋に人と飲みたいのだとわかると、杯を一緒に交わし供に語ってくれた。
人によっては実際決戦ともなるが、勇者はそのまま国へ帰った。
********
新に、北の魔術師の被害が追加された。
南国では、野菜や米など農作物の花が受粉前にすべて消え去り、過去にない不作となった。何人もの人が飢えとんでもないことになったという・・・。
東方では、泉の水がいきなり凍り、その氷はなかなか解けることなく、その周辺では生態系をくずし、その泉の下流では水不足に悩んだという・・・。
西方では、麦酒の樽が魔術によって切り取られるとき、小さな爆発がおき小さなクレーターが出来た。しかしこれは他の地方に比べると小さな被害といえる・・・。
北の魔術師は勘違いしている。町に出て過剰防衛の結果だけが問題ではない。
懸賞金が上がる理由は、彼のもてなしこそが問題なのだ。
勇者は悩んだ。懸賞金をとりさげ、人が行かないようにすることが一番の解決策じゃないかと・・・。
だが今回の事項は彼が原因であり、一緒に酒を飲んだという事もありそれを告げる事はできない。
そして、懸賞金はまた上がる。