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ヒロインと悪役令嬢

ヒロインと悪役令嬢はお友達





「ヒロインのコリーナ!」




 朝から昼に移ろう時刻、まだ真新しいスイーツショップのテラス席を整えながら、ふと顔をあげると好きだったラノベのヒロイン、コリーナ・レセロワが目に入り、つい声を上げてしまったのは絶対にイベントなんかじゃない。 はずだ。


 その証拠に、コリーナもこちらを見て


「悪役令嬢のロートア!」


と驚き、ただでさえ大きな目を更に大きく見開いている。


 あっちがヒロインならこっちは悪役令嬢。


 ただし、タイトル違い。










 「やっぱりヒロインは可愛いのね」



 日が落ちはじめた頃、ロートアは店を閉めて開店前に出会ったコリーナを招き、お茶とこの店自慢のフルーツパルフェを出して彼女の座る席の斜め前に誰に言うでもなく呟きながら腰掛けた。


「わぁ~ パフェじゃないの。 凄い豪華! きゃぁ!!アイスも入ってる~」



 ロートアはスイーツショップと併設されたカフェを開くにあたり探し出したガラスの口広グラスに下から

ベリージャム、クラッシュしたパイ、イチゴのコンポート、カスタードクリーム、イチゴアイス、バニラアイス、生クリーム、フレッシュイチゴにブルーベリーをたっぷりと重ねて層にして、最後にラングドシャとミントを飾り、可愛く、ちょっとゴージャス感を出した仕上がりに作ったフルーツパルフェをカフェの一押し商品に据えた。


 一押しに据えた商品だけあり人気は上々。多くを作れない故に限定数を決めたので、開店して日が浅いがほぼ毎日午後のティータイム前に売り切れてしまう。そして、たいていの女の子が相好を崩す逸品になったと思っている。

 コリーナの声を聞く限り、やはり成功と言えるだろう。


「どうぞ溶けないうちに召し上がって。貴女のお好みだとよろしいのだけど……アイスって、ご存知と言うことは、やはり……」


 ほわほわした笑みを湛えながらパルフェを眺めているコリーナに勧めながら、気にかかる事を訊く。



「ええ、わたしは前世の記憶を持っています」


 コリーナは事も無げにパフェ用のスプーンを唇に当てながらにっこりと笑てロートアに答えた。


「そう、なのね。 わたくしも前世の記憶がありますので、朝のやり取りでもしやとは思いましたの」



 ロートアはもう一度食べるように勧め、自分は紅茶をゆっくりと口に含んだ。






 ロートアは 『王宮サバイバル  ☆ハーレムなんかぶっ潰せ! 真実の愛は国を救う!☆』 と言うR18 の乙女ゲームに出てくる所謂悪役令嬢だった。




 バレと言う近隣では中堅に当たる王国で、お決まりのようにその国の公爵家に生まれ一人娘。 流れる清水のようなプラチナブロンドに深い森のような濃緑の瞳、スレンダーな身体に落ち着いた声色を持ち、学園一の美女で才女と謳われる完璧令嬢。 更に王太子の婚約者と言う鉄板な役割。


 バレ王国は、そんなロートアから見れば貴族や役人の腐敗が進んだオワコンの国で、王太子は見た目こそイケメンだが、思慮深さや謙虚さを王妃のお腹に忘れてきたのかと疑いたくなるような我儘なバカ王子。

 それでも愛国心を以って、次代の国母にになる為精進を重ねた。


 我慢に我慢を重ねて、婚約者として王太子のフォローをしてきたというのに、貴族の通う王宮に付属された学園をあと1年で卒業というタイミングで転入してきたゲームのヒロインに一目惚れし、邪魔になったロートアを排除するために、ヒロインと共謀して断罪イベントを起こし、まんまと国外追放にしたのだ。


 当のロートアは身に覚えのない断罪イベント中に前世の記憶を思い出し、何度かプレイしたゲームだという事に気付いたのだった。

 思い出すと同時にロートアはこれから悪役令嬢の身に降りかかる監禁凌辱からの娼館落ちの流れに身震いした。

 このゲームは18禁。 ヒロインの濡れ場も多く出てくるが、本丸は悪役令嬢のどエロいシーンなのだ。




「え~~! ちょ~ヤバいじゃん!! も、もしかして、此処ってスイーツショップに見えるけど…奥では夜な夜な…?」

「んな訳はございません! 此処はただのスイーツショップですわ! ちょ~~~~危険でしたけど、たまたまバレに留学中だったジル公国の世子様が保護して下さってどうにか此処まで来られましたのよ」


 ロートアの身の上話にコリーナは興奮気味に声を上げ、苦笑しながら現状を伝えた。


「へぇ、この国の世子様は良い人なのね~! じゃ、今もその人が助けてくれてるの?」

「ええ、殿下はバレに居りました頃より助言や提言を頂いていたのですが、今でも親身にして下さってますわ」


 ロートアはほんのりと頬を染め、コリーナに笑いかけ


「わたくしの事はこんなものですが、コリーナ様、貴女は如何なの?」


と、興味津々の目を向けた。


「わたし? わたしも結構テンプレなんだけどね~」





 コリーナはロートアとは違いゲームではなくライトノベルのヒロインだった。


 『セーレンの人魚 ~愛しき王子と再び逢うため~』



 ロートアは乙女ゲーム、コリーナはラノベだが原作者が一緒で、舞台となる大陸と時代がいっしょなのだ。



 大陸の西端に位置するセーレンは西に海を、東に連峰を擁している、それなりに豊かな国だ。

 産業も農業も程々で、抜きんでるものも無いが、民の満足度は高く、教養も深い。

 ロートアの故国バレとは南方に国境を接し、過去には幾度か戦火も交えており、近隣諸国の中では大国と言えなくもないが、大陸全体では東方の大国に勢いがあり、やや押され気味。

 そんなセーレンは人魚の伝説が多く、海沿いの民は人魚の血を引いているとも言われている。


 そして、コリーナは人魚の生まれ変わり。

 前世では愛した王子と結ばれず、海の泡になてしまった彼女は今世、人として生まれ変わりセーレンの第2王子へと生まれ変わっていた愛しの王子と結ばれる。

 そんな話だった。


「ロートア様と違って、わたしは早目の2~3歳で前世を思い出したのは良いけど、更に前世の人魚時代まで思い出したものだから大パニックで……だって、あの有名な泡になっちゃった人魚がわたしで、実は王子、人魚のわたしのことを知りつつ、隣国の姫の持参金に釣られて知らんぷりして結婚しちゃってたのよ!

 幼いわたし、ズタボロよ! そんなわたしを支えてくれたのが幼馴染のお兄様なんだけど……今世では王子に出会わないように気を付けてたのにお兄様経由で出会っちゃって、我がレセロワ家の没落もわたしを手に入れようと画策した王子の差し金で!!」


 興奮気味に話すコリーナの言葉にロートアは眉を寄せ

「最悪な王子ね!」

と切り捨てた。


「そう言ってくれてありがとう。 わたしもそう思ってるわ。

でも、そのお陰でお兄様と出奔出来たし、まぁ、今は良かったと思ってる。

それに、前世を思い出したお陰で事業を興したり、領地の再生が出来て我が家の財政も持ち直してきたし」


 コリーナは大きな目を煌めかせてにっこりと笑った。

 ロートアもつられたように微笑み、残っていた手元のお茶を啜った。


「これって所謂チートに当たるのかしらね?

カフェを開くのに色々なお菓子を調べたけれど、クッキーやパウンドケーキはあったけど、ショートケーキとかのスポンジを使ったケーキは無くて、生クリームはあったけど、カスタードクリームは無かったのよ。」


 ロートアが口の横に人差し指を置き小首を傾げながら言う。

 コリーナも同じように首を傾げ


「あぁ、そう言えばそうね。 この世界に馴染んでるせいか気が付かなかったわ。

プリンやゼリーのプルプル系も無いわよね?」


と、続けた。



「ゼリーは作ったこと無いけれど、プリンは作ってみたわよ! 今度作るからまた食べにいらして。」


「本当に? プリン大好きだから嬉しいわ! 

私、お料理は壊滅的に苦手で、以前クッキーを作ってみたら完全なる炭になってしまったし、ただ温めるだけのスープが、何故かドロドロのゲル状になってしまって……」


「まぁ! スープをゲル状!?」

「ロートア様! そんなに驚かなくっても!」


 ロートアがコリーナの話に瞠目すると、頬を膨らまし抗議する。

 その様子が可愛らしくてロートアは声を立てて笑った。


「ふふっ。 ごめんなさいね。 確かにこの世界の調理器具は使いにくいし、貴族のご令嬢はそもそも料理なんてしないのだから仕方ないわよ。

ね、それより! ロートア様なんて堅苦しいわ。 是非ロートアと呼んで。」


「えっ! 良いんですか? それならわたしの事もコリーナと呼んでくださいね。」







 ゲームと小説。

 カテゴリーが違うが同郷の二人はすぐに仲良くなった。


 どうもこの制作会社は細かなところまで作り込んでいて同じ大陸を舞台にした物語がまだまだありそうだとか。

 転生者でなく移転の人もいるんじゃないかとか、語れば語るほどにあり得る話し。



 当然作られていない部分も現実として生きている人々はいるし、ストーリと異なる行動をしても人生は続いている。

 このカフェが、同郷のものであふれ返る日もありそうだ。






 

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