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記憶-kioku-

作者: aya

青い青い海の底。


海の中に隠れているものは見えない。


それは遠い記憶と似ている。


思い出したくても思い出せない感覚にも似てる。


深く深く私の体は海に沈んでゆく。


沈んでゆく私の体に追いついて抱きしめてくれた人がいた。


「ずっと、そばにいるから」


そう言ってくれたように感じた。


怖くなかった。


自分の命が海の中で果てても。


ハッとして目を開けた。


ベッドの上に私はいる。


夢?


私は誰かから聞いた話を思い出す。


魂には記憶があること。


人の体の中の細胞や神経にも記憶があること。


潜在意識の記憶をもし夢で見たとしたら過去世かな?


バカバカしい。


そんなことあるわけがない。


思いっきり心の中で否定したはずなのに気づいたら海に来てた。


今日の海は穏やかだ。


なぜか忘れ物を探しに来たような気持ちになるのは、なぜだろう?


黙って海を見つめていると、このまま自分は海にのみこまれていくんじゃないだろうか・・と思えてくる。


バカバカしい・・。


もう一度、心の中で否定して帰ろうとした、その時だった。


「落としましたよ」


声をかけられ、振り返る。


イヤリング!


片方だけはずれて落ちたのを拾ってくれたらしい。


イヤリングを受け取りながら


「ありがとうございます」


お礼の言葉を言って見上げると心臓がドクンと鳴った。


どこかで会った気がする。


不思議な懐かしさを感じる人。


どこだっけ?


思い出せない。


私の気持ちを見透かしたように


「どこかで、お会いしたかな?」


落としたイヤリングを拾ってくれた人は私に言う。


この声も


イヤリングを受け取った時に触れた手の温もりも


私は知ってる。


私の返事を待たずに言葉を続ける。


「海の夢を見たんだ。海に大事な忘れ物をしている気がして。気づいたら海に来てた」


「私も同じです」


思わず大きい声が出てしまった。


恥ずかしい。


顔が自然に紅潮していくのを感じた。


「で、忘れ物は見つかった?」


恥ずかしくて下を向いていた私はもう一度、顔を見上げる。


言葉にしたいのに言葉が出てこない。


彼の顔に見覚えはないのに心臓の鼓動がドクンドクンと私に何かを訴えかけるように体中に響くのだ。


細胞に。


神経に。


この感覚は。


思い出した。


海の夢の感覚だ。


抱きしめてくれたあの人だ。


私は声を絞り出す。


「私、私は、私の忘れ物は」


一呼吸置いて、


落ち着いてと鼓動に言い聞かせ、言葉を続けた。


「見つかりました。また海に来ます」


「俺も見つかったよ」


からみあっているように思えた視線が溶けて、からみあっているように思えた心が解けた。


「今日、海に来て良かった」


私も彼も同じ言葉を同じタイミングで発したので笑い合った。


海の底にあったような隠れていた潜在意識が表に出て顕在意識になる。


意識が現実になるとは、そういう意味なのだろう。


新しい記憶を創るための物語が現在から未来に向かって始まっていく。


過去の物語にありがとう。



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