表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆめつながり  作者: 秋和翔
現実
1/14

1.同窓会

 第一部ですが、プロローグといってもいいようなものです。まだまだ物語は続く予定です。


 今日は中学の同窓会だ。中学生の頃の僕は、というより昔から僕は大人しく、机に向かって一人で本を読むような子で、仲が良いと自信を持って言える友人は少なかった。

 今日の同窓会でもあの頃のように一人で、お酒を飲んで会場を見渡していた。懐かしい人や誰だか分からないぐらい変わってしまった人もいた。でも僕の数少ない仲の良かった友人は見当たらなかった。そうか、こなかったのかと寂しい気持ちになる。周りはそんな僕とは対照的に久しぶりに友と再会した喜びにひたり、昔を懐かしみ、楽しそうに談笑している。

 自分から話しかけらない僕は一人ぼっちであった。来るんじゃなかったと後悔し、こっそり帰ろうかと考え始めていたころであった。どこからか興味をひく話が聞こえてきた。

「お前知ってるか。あの…中2のころに転校してきて、中3になる前に引っ越した子。名前なんだっけ…。とりあえず、あの子、今話題の病気に罹っているみたいだぞ」

 僕の心に一人の子が浮かぶ。彼の話のあの子とは、きっと僕が思い浮かべていた子と一致しているだろう。僕の初恋の人だ。懐かしい気持ちとあの頃の初々しい気持ちを思い出しで、お酒で染まった頬を一段と紅くする。

 だが、今話題の病気に罹っているとはどういうことなのか。僕は耳をそばだてて彼らの話を聞いた。

「あーー、あの子ね。今話題の病気ってやっぱりあれ?ずっと寝たままで起きないっていう病気?」

「そうそう。なんか1年ぐらい前かな、その病気に罹って以来起きてないんだって。いいよな。俺も仕事なんか行かずにずっと寝てたいよ」

 彼はそう言いながら笑った。僕はそんな彼に不快感を抱いたが、酔っているから仕方ないことだと自分に言い聞かせた。そんなことより彼の話は本当だろうか。もっと何か話さないだろうかとさらに耳をそばだてたが、彼らの話の話題は会社や上司のグチになっていた。

 もし彼の言ったことが本当なら、僕は…なんて考えながら、僕はまたお酒を口にした。


 同窓会は終わり、それぞれに仲の良いグループで二次会をするようであった。僕はそんな友人もいないので、そのまま帰ろうとしていた。だが、先ほどの彼の話が頭をちらつく。きっとこのまま帰ってしまえば、また無味乾燥な日々に戻るだけだ。ほんとうにそれでいいのか。少しの間自問自答した後、僕は先ほどの彼の姿を探した。

古河(ふるかわ)君。あの、その…。さっき話してた転校した子が病気になった話を詳しく知りたいんだけど…教えてくれないかな」

「あーー……。ひ、ひさしぶり…。元気にしてたか。悪いけど、詳しくって言われても俺も良く知らないんだよな。幹事の子に聞いただけだから。詳しく知りたかったら幹事の中尾(なかお)さんに聞くといいよ。じゃ二次会あるから」

 彼はそう言うと僕に背中を向けて行ってしまった。中尾さんって誰だ?下の名前はもちろん、顔すら浮かばない。はじめに前で挨拶していた女性だろうか。だとしたらまだ近くにいるかもしれない。そう思って周りを見渡すがそれらしき女性は見当たらなかった。

 もういいや、帰ろうと思い駅に向かった。途中に中尾さんを見つけることが出来るかなと思っていたが、気が付けば駅に着き、電車に揺られ、家に帰宅していた。

 ドラマのように心が躍るような再会や、懐かしい友との抱擁をどこかで期待していたが、そんなことは何も起こらなかった。ただ彼女への心配が(もや)のように広がっていた。けどそんな靄なんて日が経てば薄れ消えていくものだ。僕はそう思いながら眠りについた。


 同窓会から数日経ったが、あの日の靄は消えもせず、薄れもしなかった。それどころかますます濃くなり僕の心の広範囲に広がっていた。

 あの日から僕は今話題の病気について調べていた。病気は眠り病。その名前のとおり、この病気の患者はずっと眠ったまま起きることはない。誰一人としてその眠りから覚めていないのだ。この病気が見つかったのは3年前のイギリス。当時のイギリスでも話題になったようだった。それからは散発的に世界各地でこの病気の患者が出た。もちろん日本でも。

 日本の最初の患者は約2年前だ。当時のネットでは騒がれたようであったが、僕の記憶には残っていなかった。なぜ、また最近になって話題になっているのか。それは今年の新規患者が19人に上っているからだ。その増加、変わった症状、そして病気の原因が解明されていないことなどから話題になっているのだ。

 今わかっていることをあげるとすれば、まるで冬眠のような状態であること。患者たちの脳は、夢を見ている脳の状態と一致することである。そしてまた脳は死んだわけではなく、必要最小限の生命維持活動を行っていて、植物状態とは違うことである。

 ネットでは人も冬眠できるように突然変異したとか、夢世界に閉じ込められているとか、様々な意見が飛び交っていた。僕は面白おかしく書いている人を見つける度に、苦虫を嚙み潰したような気持ちになった。

 こんな風に眠り病について調べているなかで、彼の話の真偽を僕は知った。それは僕が図書館で眠り病についての新聞記事を探しているときだった。ある全国紙の特集に彼女が取り上げられていたのだ。

『眠り姫。1年間寝たまま起きない女性とその家族』という見出しで始まったその記事は彼女が何の前振りもなく眠ったまま起きなくなったこと、金銭的に厳しいことなどが書かれていた。しかし彼女がどこに入院しているのかなどの情報を手に入れることは出来ず、僕が知れたことは、彼女が眠り病であることそれだけだった。

 それからさらに数日経った。彼女が眠り病であることを知った僕はいてもたってもいられずに彼女のもとに向かった———なんてことはなく、普段通りの生活を送っていた。今すぐにでも彼女のもとへ向かいたい気持ちは確かにあった。しかしそれ以上に、自分はただベッドに眠り続ける彼女を見るだけで何もできないことが分かっていたから、自分の無力さを思い知らされるだけだと分かっていたから、何も行動できなかった。

 状況だけを知り何も行動しないままでは、心の靄が消えることはなかった。それどころか(きり)となりより一層濃くなり纏わりつくように気味の悪いものになっていた。それは僕のなかにまで浸み込んで僕を侵食していった。僕はそれを少しでも紛らわせたくて興信所に行って彼女の入院場所を探してもらった。これは、僕も彼女のために何かをしようとしているんだと思いたかったからかもしれない。

 興信所は一週間ぐらいで彼女の入院場所を突き止めた。彼女の入院場所は名古屋の病院だった。彼女の居場所を知ったことで、霧が薄れ自分の行くべき道がみえてきたような気がした。その道は今までの日常のものと同じようで少し違ったものだった。

 しかし僕はまた迷っていた。もう霧がどうこうではなく、これは僕自身の問題だった。

 僕は優柔不断な男だ。それは24年生きてきて自分が一番よく知っているし、直したいと願っているものの一つだったりする。僕は人生の分かれ道で何度も立ち止まり悩んだ。どっちにいくのが正解か、どちらがより良いものなのか。

 僕の周りの友人たちは僕が悩む分かれ道を、迷った素振りを見せずに進んでいった。その友人たちはどの道が正解だとかどちらがより良いだとか考えていなかったように思う。ただ自分が歩みたい道、したいことを選んでいた。それが傷つく結果をもたらすかもしれなくても傷つく勇気をもって進みたい道に進むべきなのだ。

 霧が薄れ現れた分かれ道の一つは、僕にとっての歩みたい道であったと思う。でも24年生きてきて身についた道の選び方をすれば、その道を歩む必要など何一つとしてなかった。僕は今までのように立ち止まり悩んだ。そうして悩んだ挙句、僕は歩みたい道を歩むことにした。

それは歩みたい道を歩んでいる友人たちのほうが、今の僕より何倍も良い顔して過ごしていることを痛くなるほど知っているからだ。


 こうして僕は2月の中旬に彼女のいる名古屋の病院にいった。新幹線に乗っている間、僕は彼女を取り上げていた新聞記事にもう一度目を通していた。新聞に載っている彼女はあの頃と同じようにきれいだった。写真では安眠しているようにしか見えない彼女が1年半も目を覚ましていないなんて信じられなかった。僕は疑心と不安と緊張が幼虫となって、胸と腹をもぞもぞうごめいている気がして気分が悪くなった。

 そんな気持ちが大半を占めるなかで、これは最初から最後まで僕の夢でいつか目が覚めるのではないか、童話のように僕が王子様で彼女にキスをしたら彼女は目が覚めるのではないかと、僕は淡く甘いわずかな期待ともいえないバカげた妄想をしていた。

 そうして気分を紛らわすための期待ないしは妄想に胸を膨らませているうちに、新幹線は名古屋に到着した。僕は新幹線を降りて改札に出た。当たり前だが初めて来る土地は初めて見る景色で新鮮だ。僕はタクシーを捕まえ彼女の病院に向かったのだった。


 読んでいただきありがとうございました。

 睡眠障害には居眠り病とも呼ばれるナルコレプシーなるものが存在します。これは寝てはいけない状況でもとてつもない眠気が襲ってくることによって寝てしまうという病気です。他の睡眠障害には夢遊病や程度の差こそあれ、不眠症があります。

 寝たくないのに寝てはいけないのに寝てしまうのと、寝たいのに寝れないのと、どちらがより…なんて比べる必要なんてありませんよね。自分はどちらにも罹りたくないです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ