プロローグ
拝啓お父様。
そちらの世界では今は夏でしょうか。湿度の高い日本特有の不愉快な暑さが、お父様の体を襲っていることでしょう。
私がこの世界に来たばかりのころは、そちらと変わらない気候だったと記憶しています。しかし、私の能力によって、とても過ごしやすい世界に変わりました。
初めのうちは不思議がっていた住人も、「まあ、そんな年もあるだろ」という風に納得していきました。
しかしこれは気候の気まぐれなどでは決してなく、私がそう願ったからそうなったのだと、確信しております。横でぐうたらしている、外見だけは最高のダメ女も言ってました。「それがあんたの能力なのよ。あんたはこの世界の主人公なのよ」と。
あの時点では、頭イカレポンチで頓珍漢な関わったら最高にまずい女だということを確信しただけでした。
だって、私が「主人公」などと。齢29になっても職に就かず、働けというお父様からの言葉のサンドバックにされるだけのどうしようもない屑男なこの私が主人公などと! どうしてそのような言葉を信じられましょうか。
しかし、横にいるスタイルも抜群にいいアホ女は仮にも神です。
そして、この世界に一緒に飛ばされてしまった、いわば一蓮托生の身。私が死ねばこの女も死ぬというよく分からない呪いがかけられているこの状況で、嘘をつく理由はないのだと思います。
ならば真実なのでしょう。そう信じることにして、私は願いました。
不摂生な生活をしてきたせいで、禿げかかってきたこの頭。どうかフサフサにしてくれと。
すると次の瞬間には頭皮がムズムズしてきたのです。頭頂部に触れてみるとあら不思議。なんと指と地肌の間に太ましい毛根が横たわっていたのです。
このことから私はすごく良い匂いのするバカ女の言葉を信じました。
お父様、私は元気です。時節柄くれぐれもご自愛くださいませ。