おっちゃんのわがまま
世間は七夕ですが、私は雨が降れ、雨が降れ、と家の中で祈っております。
俺はベーゼフに事の次第を話す。
「精霊を召喚できるのは高位の召喚術士だけじゃ。
しかし、精霊は術士の魔力によって姿かたちを変える。」
「つまり、俺は魔力が低い駆け出しにもかかわらず、精霊召喚ができてしまった。
だから爺の精霊が生まれたってことか。」
「わしクラスになるとな、ほれ、あいさつしなさい」
ベーゼフの後ろに黙って仕えていたメイドが、スカートの裾をつまんでお辞儀する。
「こんにちは、ジョー様、ワタシは精霊のルミナスと申します。」
精霊の召喚中は、魔力の消耗が少ないため、基本的に召喚しっぱなしだそうだ。
その後、ベーゼフには召喚術の基礎を教えてもらった。
召喚の対象とするもは、大きく分けて3つに区分されているらしい。
①魔物召喚
②精霊召喚
③勇者召喚
①を使用可能にするためには、魔物を倒し、魔物の精霊に力を認めさせることが必要だ。
駆け出し召喚術士は普通、ここからスタートするらしい。
②はある程度熟練した魔導士が、上級の魔物を相手にするために覚える。
精霊は魔物よりも格段に強いのだとか。あとでおじいさんを魔物と戦わせてみよう。
③について、
「ちょうど4日後に、王宮で召喚の儀が行われる。ギルドカードを持っているお主なら参加できると思うが、いってみるといい」
ベーゼフがさした依頼表を見る。
「報酬がいいな。ベーゼフさんは行かないんですか。」
「わしは隠居の身じゃ。こうやってギルドで若い衆と話すのが楽しみなゆえ。
国のことは若いもんに任せておるよ。」
これで用事は済んだ。一日許可を取ってきたので、夕方まで時間がある。
俺は依頼票を眺めて、スケルトン討伐の依頼を受けることにした。
「ランクGだし、何とかなるだろ。」
町から離れた墓地にスケルトンが現れ、一般人が近寄れなくなるので討伐してほしい。
依頼書にはそんなことが書いてあった。
こっちに来てからもう3日が立つ。慣れればゲームのように思えてくる。
「お前さん、ちょっと待て。」
「え、俺、ですか。」
「ここで同じ職業にあったのも何かの縁。これをやろう。」
「ブレスレット?」
ベーゼフが俺に渡してくれたのは、何やら魔法加護のついたアイテムというものだった。
「召喚術士は、その特性故に、周囲の霊気に様々な影響をもたらす。それをつけといた方がきっと役に立つぞい。」
「ありがとう、親切な先輩。」
ベーゼフは微笑んで俺を見送ってくれた。
墓地についたころには、太陽が真上まで上がっていた。
「まんじゅう、まんじゅうはいらんかね」
「ぐーーーー」
「そこのお兄さん、おなかへってるんじゃない?火の玉まんじゅう1こ10ルーブルだよ」
墓地より手前で、少女がまんじゅうを売っている。
たべたい!と、思い、ポケットの手を伸ばしたその時、財布を持っていないことにきづく。
「あいにく、持ち合わせがないんだ。」
「そうかい、腹減りすぎて、倒れんなよ。」
しかし、おなかが鳴る。
おいしそうなまんじゅうのにおい。
―――やばい、がまんできない。
「肉まんじゅう10個、ジャムまん10個!」
さて、早く依頼を達成して、家に帰ろう。
ユーナは魔術の天才だ。うまくいけば最強の召喚術士、バラ色の異世界生活が待っている。
その為には、今の環境を維持したい。ここで稼げるところを見せて、あの家族に、あの宿に養ってもらおう。
墓地の奥には、昼間だというのに瘴気が立ち込めていて暗い。
魔物が出るので、あまり人気もない。
3分もたたないうちに、骸骨の群れを見つけた。
「さて、魔術を試すか。いでよ、精霊!」
魔法陣からおじいさんが現れる。
いきなり群れには突っ込まずに、はぐれている手ごろなスケルトンに標的を合わせた。
「手始めに、あいつに攻撃だ。」
「・・・」
おじいさんは沈黙してうごかない。
「わしは命令されるのが嫌いじゃあ。」
「え、しゃべれたの?」
「それと、わしの名前は『精霊』ではない。口の利き方に気を付けろ小僧が。」
上から口調で馴れ馴れしい。
俺の精霊はくそおやじの外見をして、中身も見たまんまのくそおやじだった。
「え、えーと、名前を教えてくれないかなあ。」
「フン、お前のようなしょんべん小僧ごときに名乗る名前などないわ。」
じゃあどうすりゃいいんだよ!
めげずに頼み続ける。
「お名前を教えていただけないでしょうか。」
そんなやり取りをつづけていると、なにやら骸骨が増えている気がしてきた。
「あれ、なんかまずくね?いったん離れるか」
いえ、完全に囲まれてます。
多勢に不勢では、いくら下級のモンスターでも、身が危ない。
「おい、どうでもいいが、おまえ囲まれとるぞ。」
「知ってるわ、ボケ爺。どうするんだよこの状況。」
落ち着け、落ち着け、
ここで爺のせいにしても状況は変わらない。俺は冷静になって考えてみた。
しかし、力技で戦ったことのないモンスターを相手に突っ込むのは、いささか無謀ではないだろうか。やはり、この爺の力を借りた方が多少なりともよさそうだ。
「頼む、精霊さんの力が必要なんだ。お願いします。」
俺は精霊に向かって頭を下げた。とにかく頭を下げ続けて、どうしてもだめなら敵を引き付け、足を絡ませて逃げる。危険だが、密集している方が開いては動きづらいはずだ。
「我が名はスカルロード、我が縄張りを侵すものは、生かしては帰さんぞ・・」
そっちに名乗れとは言ってないけども!
なぜか危なそうなやつらが集まってきたと思っていたら、ボスのお出ましである。
ランクGのクエストじゃなかったか?
いよいよ危なくなってきた。
「おい、精霊とはいえ、ここにいたらまずいんじゃないか。」
「まー、土下座すれば戦ってやらなくもないぞ。」
偉そうに、こいつは本当に強いのか。後で機会があったら殴っておこう。
「ぐ、お願いします。どうか戦ってください。」
俺にプライドはない。
怒りをこらえ、地面に頭を擦り付けた。
「まあいいじゃろう。わしの名は、魔人ロキ。主人の命により、屑どもを殲滅する。」
精霊じゃなくて、魔人なのか。
バキッバキッ
ロキは近くの墓石の一部を持ち上げ、地面から引っこ抜いた。
そして、武器のように十字架を振り回し、スケルトンの群れとスカルロードを見据える。
「さあ、かかってこいや。」
読んでくれてありがとうございました。