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プロローグ

勇者召喚、はじめました。

俺の名は城丈(きずき じょう)。「召喚術士」だ。

今日はルーブル王国で行われる、勇者召喚の儀式に来ている。

俺たち召喚士と、王国の騎士が王宮の広場に集められた。謁見の間から顎髭を生やした中年のナイスガイが姿を現した。おそらく騎士団長である。

「我らが王国は危機に瀕している。一つは隣国ラグーンの戦力増大。隣国は5年前から急激に軍力を上げ、おそらく大陸で最強の軍事国家となった。もう一つが魔物の繁殖。王国周辺に住みついている魔物が増え始め、東の森には魔物よりも凶悪な魔獣が繁殖している。今回の勇者召喚はわが国の軍事力増強あるいは、生産力の向上を目的として行われる。これまでの勇者召喚で犠牲となったもののためにも、今回の勇者召喚は決して失敗するわけにはいかぬのだ。」


ルーブル王国はこれまで何度か勇者召喚を行ってきた。はじめは隣国で儀式が成功したという情報を得た王宮の諜報部が、王国で高名な魔術師を3名招集して秘密裏に行われていたが、召喚中に術式が崩壊し、3名の魔術師は1名は異次元に吸い込まれ、2名は深手を負った。勇者召喚は非常に多くのエネルギーを消費するうえ、召喚した勇者が暴走する危険性を含んでいることがその後の調査で明らかになり、王国の脅威も相まって、国王はこの事態を国民に公表し、隣国ラグーンが勇者召喚の恩恵を理由に、国中に勇者召喚への協力を呼び掛けた。


おれは儀式までの2時間、王宮をぶらぶらして時間をつぶそうと思っていた。

「王宮なのに、なんもねえな…体育センターかよ。」

「丈―。大事な儀式のひなんだから、あんまうろうろしねえでけろ。」

相室の騎士、タイキが追いかけてきた。召喚術士は儀式の重要な人材であり、宿舎には護衛のため、必ず騎士を同室にする決まりがある。本来であれば王宮内に見回りの兵士を配置するべきなのだが、昼は城門にて魔物討伐があるため、王宮は深刻な人手不足に見舞われている。

「タイキ、王女様にはいつになったら会えるんだ?」

「王女様に遭いたいからと廊下をうろつくのは不審者のやることです。

それよか大事な召喚士様に何かあったら、同室のおらの責任になんだろが」

「召喚士って希少な職業だったな。悪い、きをつけるよ。」

「素直だな。」

隣国で召喚が成功した時には、100名を超える魔術師が儀式を行ったらしい。対して、今回の招集に集まった魔術師の数は、ざっと数えて50人弱。

召喚失敗の度、王宮で魔術の解析が行われているが、まだ明らかになっていない部分が多い。隣国に勇者が召喚されたのは凄腕の魔術師がいるからだろうか、たまたま召喚術士が多く生まれる国だったのだろうか。


「なあ、タイキ、聞いていいか?」

「なんだべ」

「なんでお前は騎士になりたいと思ったんだ。」

「故郷の兄弟と、おかっつあんに楽してもらいてえからだ。あと、おらは力がつええからな、人を魔物から守るのに向いてると思ったんだ。」

「…人間の鏡。」

主人公レベルが高すぎる相棒はどうしたものだろうか。人情系の話には弱いなあ。

補足をしておくと、タイキの力はかなりのものだ。猪の突進をあえて生身で受け、猪が驚いている隙に首を絞めてとらえていたらしい。

「おい、なんで泣くんだ。めんどくせえやつだな。丈、おまえはなんで召喚術士になろうと思ったんだ。」

「美少女を召喚して、異世界でハーレムをつくるためだ。」

「は」

「は」

「いろいろ聞きてえことはあるけど、勇者って女なんだが?」

「確率は1/2だな。あと、異次元を超えられるのは20歳以下の人間に限られる。それに、文献によると、過去に召喚されたもので、「勇者」スキルを持ったものはどれも容姿の整ったものであったそうだ。それと「聖女」もかな…」

「お、おう、もういい、わかった。」

勇者について調べたことを、ついつい話しすぎてしまった。気を付けよう。

その後、特に会話はなかった。タイキにしても、あまりにふざけた理由を堂々と述べられたので、言葉を返すのが面倒になったんだろう。いいやつだったが、また一人、友達を失ってしまった気がする…


やがて俺は召喚に使われる大広間の、直径16mの魔法陣の外側に位置どった。魔法陣を中心に、円形に召喚術士が待機する。タイキたち騎士は、万が一の事態に備えて東西の通路で陣形をつくっていた。

「見たところずいぶんとお若いが、いくつだね」

いきなり隣の中年男に話しかけられ、体が固まった。同年代と話すのは問題ないが、年上と話すのは緊張してしまう。

「ああ、いきなり話しかけてすまない。魔術師ゆえに知的好奇心が先行してしまった。私の名はサンダース、これからよろしくたのむよ。」

「私は丈と申します。勇者召喚は初めてですが、こちらこそよろしくお願いします。(ぺこり)」

「ほう、礼儀正しいね。若いのにお国のために志願するとはいい心がけだ。召喚術士は国が重宝しているだけに、ピンキリでねえ。君のように優秀な若者もいれば、その立場を利用して悪事を働くもゴロツキみたいのもいる。おじさん、期待しているよ。」

「ありがとうございます…」

どうやら礼儀正しい=魔術にたけている と勘違いされたらしい。おじさん、すまない。人として最低限の体面は整えているが、実際、召喚術士として俺はポンコツだ。多分この中で一番役に立たないのは俺だろう。見たところ多くの術士が40-50代のベテランのようだ。左から一人一人を観察するようにしていると、一人と視線が合った。彼はフードを深くかぶっているようだったが、俺の方を青い瞳で凝視していた。魔術師は戦士に比べると体の線が細い。しかし、俺を見つめていた彼は他の術士よりも一回り小さく、更に線が細いようだった。

後で声をかけてみよう。業界的に同い年の知り合いは貴重である。


「ではこれより、召喚の儀を取り行う。皆の者、儀式が成功し、全員が無事であることを祈っている。」

国王の声が魔法で伝達された。国王は何かあったときのために安全な王座にいる。王座と召喚部屋は王宮の南北正反対に位置しているが、勇者が万が一暴走した時に国王を逃がすためだろう。詠唱が始まり、魔法陣が起動したことで床が光りだした。

30分に及ぶ詠唱が終わり、魔法陣が回転する機械のような高い音を上げていっそう強く光りだし、真っ白な光が部屋全体を飲み込んだ。



結果から言うと、失敗です。はい。

唯一の評価点は、ひとりも負傷者を出さなかったことだろう。強力な魔法を失敗した場合、術者への反動が大きい。過去の召還では何人もの魔術師が被害に遭っている。

ところが、今回はひとりの犠牲も出さずに、儀式が終了した。失敗の詳しい原因はわからないが、宮廷魔導士によると、MP不足が原因であり、最低でもあと20人、召喚士の目途がついたらまた儀式を行うとのことだった。儀式の前には王宮に魔導士のための宿舎が解放され、食事を提供されるが、儀式が終わると閉鎖される。王宮に金がないため、長期的に魔術師を養うことが厳しいのである。

「さっきから青い顔をしているが、大丈夫か、丈君。次の儀式までに行く当てがないのなら私の所属するクランを紹介するぞ。」

「お気遣いありがとうございます。大丈夫ですから、心配なさらないでください。」

「そうか、じゃあ、達者でな。」



せっかくの気遣いを断ってしまった。ベテランのパーティに入ったとしても、俺個人の能力の低さが露見して、無能扱いされるのを恐れたためである。サンダースさんやタイキ、この国の人たちは良い人が多い。

「丈―。お疲れ様。」

「タイキもお疲れ様。また俺の野望が一歩遠のいたよ。」

「おらは何にもしてねえがな。まあ出番がなくてなによりだ。

お目当ての女勇者の件は残念だったな。またこいよ。」

「つぎこそは成功して見せるぜ。そしていつかは俺自身の手で女勇者を呼び出し、ハーレムを作る」

「おめえはおもしれえやつだな。他の奴らに足元すくわれんなよ。」

「じゃあまた」

タイキと別れ、報酬を受け取り、おれは拠点である安宿に戻った。


「おかえり兄ちゃん」

「ユリナちゃん、ただいまー。」

若夫婦が経営する、冒険者向けの借り家の看板娘、ユーナ10歳である。親の手伝いは良くするし、将来が期待される整った顔立ちをしている。何より無邪気な笑顔が冒険者の心を鷲づかみにする。

「今日はね、お兄ちゃんに会いたいってお客さんが来てるの」

ユーナに案内され、食堂に向かうと、儀式の前に俺を見つめていたローブの人物がいた。

「ゆりあー、水くんできてほしいんだけど―?」

「はーい、丈さん、ごゆっくり」

食堂にはまだ他の客が来ていない。俺たちは二人きりとなった。

ユーナが視界から姿を消すと、彼はローブを外す。

「女の召喚術士もいるんだな」

「私の名前は呉 黄奈子くれきなこあなたも私と同じ異世界人でしょう」


この世界には苗字という概念がないため、彼女も俺と同じ異世界人、さらに日本人ということになる。

「いくつか質問があるんだけど、ちょっと表に出てくれる?」


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