提案
核攻撃とともにアリスは皆を強制転移させた。
「いやぁぁぁぁ!!アリスぅ!!」
ミュラの絶叫が、崩壊する箱庭中に響く。
ミュラは転移術のせいで透けている腕をアリスに伸ばしたが、届かず。
アリスはいい笑顔のまま口を動かした。
「ア」「リ」「ガ」「ト」「ウ」
「サ」「ヨ」「ナ」「ラ」
アリサが全て話し終えると部屋はシンと静まった。
あまりに壮絶な前世に皆、特に日本側は唖然としていた。
「…………イナバ、私ね」
沈黙を破ったのはアリサ。俯いて言葉を発する。
「私……怖い」
「怖い?」
「だって、ミュラやロストは絶対私をアリスって扱うでしょう?…私はアリスじゃないのに!確かに私の前世はアリスかもしれない。けどッ!!」
嗚咽が混ざる。
「私は……アリサ・フォン・キャンベラーよ!!堅苦しい家が嫌になって方舟に移住したキャンベラー家の次女、アリサよ!アリスじゃないの!いつか皆が私を私と見てくれなくなりそうで怖い……!!」
「アリサ……」
イナバたちは何と声をかけていいか分からず、ただただ彼女を見やることしかできない。
その時。
勢いよく扉が開かれた。
入口には老爺と、黒い戦闘服の男たちがいる。
「「デウゴス!!!?」」
とっさに戸村は9mm拳銃を構え、天皇陛下をかばうように前に出る。拳銃は国連日本海軍で将校に支給されるものだ。
「まあそんな刺々するな。アリサに提案があって来たのだ」
「提案……?」
おうむ返しにアリサが眉をひそめて言うとデウゴスは
「ああ」
と頷いた。
「貴様、今はアリサだが、昔はアリスだったな?」
「だったら何よ」
「それを踏まえてだ、……貴様、私に協力しないか?」
「「「はあッ!!?」」」
敵、しかも前世アリスを殺した張本人に協力を持ちかけられれば、誰だって困惑するだろう。
「ばっかじゃないの!?第一私にメリットは無いわ!」
「……では、私の協力に応じて私の目的を達した暁には、時間を巻き戻してやってもいいぞ。巻き戻すとしたら1000年前、貴様がアリスだった頃」
デウゴスにそう言われて、アリサは呼吸することさえ忘れていた。
アリサが必要ない今、アリスになってもいいのではないか。
「「アリサ!!!!」」
「アリサは先王陛下じゃない!!」
イナバはデウゴスに叫ぶ。
「確かに魂は陛下と同じかもしれないけど、今はアリサで他の誰でもないよ!」
「あらイナバ良いこと言うじゃない」
それはミュラの声だった。
ロストも「ええ」と賛同する。
「私は今を生きるわ」
ミュラは顔を少し俯かせたが、やがて顔を上げてアリサと目を合わせて言う。
「どういうこと?」
アリサはミュラの言ったことの意味が分からず、少し呆然としたように言うと「言葉通りよ」とミュラは笑った。
「私方舟に来てから、何度も何度もアリスが来て欲しいと思ったわ。でも最近になってようやく気付いたの。私は過去にとらわれたままだったってね。だからもう過去なんてどうでもいい。アリスと会えないのは、まあ寂しいけど……
……私は今を生きたいから!!!
……だからアリサ、アリスになりたいなんてそんな悲しいこと言わないでよ」
「ミュラ…!!」
アリサたちはデウゴスに対峙する。
「「デウゴス!!私たちはあなたに協力なんてしない!方舟を崩壊させたりなんかしない!!!」」
「何故、こうも思い通りにならぬ……!!」
デウゴスは怒りに震えながら呟き、そして消えた。




