9 作戦開始
『あの世』とはとてつもない大きな球体をイメージしてもらいたい。
地球と例えると、その半分ずつが天界と魔界に分かれていて、その間に戦闘区画のバルハラがある。
天界には僕がいま住んでいるフィーの神殿から外を見渡すと眼下に幾つもの城が見える。
そして、それは空中に浮かんでいる。
無人島がそのまま浮かんでいるみたいと例えると分かりやすいかもしれない。
上から見下ろすとあまり実感が湧かない。
なぜ空なのか?
というと、神の力で自然に浮くのだそうだ。何故だか神の気持ちとリンクしているとのことで、神の気持ちが落ち込んでいると、自然に海の底まで落ちて行くと聞いた。
……神様って、迷惑過ぎるかも。
フィーの浮き島には中心に神殿という名の居城があり、それを中心に城に仕えている天使達の家が取り囲み、一つの町を形成している。
島の大きさで町の規模はだいたい決まるが、フィーの島はそんなに大きなものではない。
これはフィーの性格を表している。
女神になる時にもっと大きな島にすることも可能だったが、小さな島にあえてしたと本人に聞いた。
他人の面倒を見る時間があれば、もっとすべきことができるという発想のようだ。
女神という地位は、天界でも上位の天使ぐらいしか知られていないが、神の中でもなかなかの上位に位置するらしい。
それも主神の意向が反映されるからであるが、女神になる方は主神の妻か娘という関係から発言力が強い。
フィーは、僕の前の転生時には天使であったはずだが、いつの間にか女神となっている。
これって、主神の妻になったのだろうか?
いま、僕の中の1番の謎として心の中でモヤモヤしていることでもある。
光一の気持ちを考えると、かなり複雑な思いだ。
ただ、一つ引っかかるのは僕の天界での使命にシルフィンの旦那になることも要件だったような……。
単なる聞き間違いだったのだろうか?
そんな訳で天界の空にはそれぞれの神の島が浮いている。
いまフィーの島が一番高い所に位置しているということは想像に任せよう。
空に島なんて情景は一見、奇異ではあるが、それなりに見慣れたらおかしなことは無い。
そして、沈まない太陽が頂点に座して、天空の輝きをそこから放っている。
魔界は反対らしいが、堕天使からの情報しか入らず、真偽の程は分からない。
黒い月が灯り、狭い海が広がっている。
そして広い大陸があるという。
魔王達はその大陸に領土を持ち、絶えず争いを起こしながら覇権争いが盛んらしい。
唯一神の魔神を除いて。
僕が戦う場であるバルハラは天界と魔界の間にある。
長い輪状で幅が所々で違う。
神殿や天使に関わりがある光が強いところは、天界からみれば凹んでいるし、逆に光が少なく魔の力が強くなる所では天界側にはみ出ている。
だから、まずはリハビリを兼ねて僕の初仕事は天界にはみ出しているバルハラを根気良く消滅させることに決めた。
堕天使は神々が作るバリアーの隙間をかいくぐり、領土を広げようとしている。
神もなんとかしなければと思ってはいるらしいが、神の力も敵の防御のみに使うわけにはいかない。
それこそ、天界の仕事である人の転生や地上への加護を与える事も重要な役割である。
このため神々の代役としてバルハラに1級天使の軍団を派遣するが、相手が魔物では無く、堕天使が攻めて来ている所では、その力を防ぐ事が出来ず、領界の侵食が進んでいる。
これも僕を召喚した理由の1つでもある。
僕の考えとしては、もう少し勇者を召喚すれば解決出来るものと思うが、それが不可能という事実を知ることにあまり時間は必要ではなかった。
天界に入れる人間は、1人というバカバカしい決まりがある。
人はいつの日か、必ず転生するため、なるべく天界の様子を知られてはならないという昔からの決まり。
これには主神もどうもすることは出来ないらしい。
フィーの城の中で身体慣らしのために、多少の運動をしてみたが、飽きて来たから実戦を交えることで緊張感を取り戻すことにした。
『それは嬉しい』とのフィーの言葉で簡単に決定となった。
ダイアナと簡単な作戦会議を開いて、まずは小さなはみ出し部分を攻略することにした。
僕の力はまだ未知数な部分があるから、無理は禁物だし、いきなり危険を犯しても意味がない。
天界にバルハラがはみ出し部分についての呼び名を僕らはクレーターと呼んでいる。
その中で小さなものをアウターステップと呼び、これだけは完全につぶしている。
アウターステップの中でも魔物だけで侵略しているところを今回の標的に定めて殲滅することを目標にしたが、危険を感じたらすぐに撤退することにする。
ダイアナだけで殲滅の力はあるらしいが、今回のメインはあくまでも僕の戦闘力の確認だから、危ない時意外は手出しはしない。
そして、目的の小さなアウターステップを粉砕するため、大陸に降りてきた。
天使は自分の背中の羽を使い、僕はオーラを自在に操り、動くことが出来る。
まだまだ、オーラの使用は久々というか、馴れていないため恐る恐るの降下となった。
巷で良く使われる超能力という概念に似ているが、少し違う。
体内の生命力をエネルギーに変換して、それを起用に使うことと思って欲しい。
今日の攻略は、僕とダイアナの2人だけに絞り、護衛はいない。
フィーは神であるため、最前線には来られない。というか、面倒だから置いて来た。
ベルトに紐で固定した『遙』を抜いて、少しだけオーラを流し込む。
普通の10分の1程度。
『遙』は僕が倒れた後、天使達を引き連れて魔物の殲滅を指揮したフィーが見つけてくれたらしい。
その時に、フィーは残るあと半分の折れた刃先の方もずっと見つけて探してくれたらしい。
そして、何年も掛けて元に戻すことが出来たと聞く。
なかなかくっつかない強情な刀だとか……。
このため、今日は自分だけではなく『遙』のお試しも含めているので全力での使用は控えている。
バリアーを抜けると、明るさが急に鈍くなる。
空気に魔の要素である魔素が浮遊していることが容易に分かる。
これにずっと浸るとこっちも魔に取り込まれてしまう。
すぐさまバリアーを作る。
ダイアナも僕と同時に身体の表面にバリアーが張られて、いきなり臨戦態勢を整えた。