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6 記憶

 光の殻の中で感じた気持ちは、懐かしさ。

 まるで、子宮の中に戻ったような安心感がする。

 暖かくて気持ちいい。

 全ての優しさに包まれているかのごとく、不思議に温かな思いに満たされる。


 心の芯から安らぐと、身体のヘソの下辺り、身体の中心から力が漲って来る。湧き出すというのが正しいかもしれない。


 初めて経験する感じ。

 身体をぐるぐると大量のオーラがそこから廻り始めるのが分かる。

 根拠はないが、身体の内側から外側まで、足のつま先から指の先、髪の毛の先端にまで染み渡るのがなんとなく分かった。


 いまなら何でも出来るような気がして来た。

 ガス欠だった身体に力が戻ってきた。



 オーラが身体を全て覆うと僕は次第に眠くなって来た。

 揺りかごのような心地良さの中で、瞼が重くなる。


 …………zzz。



 ☆★☆



「やめてーーっ!」


「いや、これでいいんだ。フィ-。僕のことは忘れてくれ」


 手にした刀の重さは軽い、中程の所で折れて先端は無い。


 僕の持てる全てのオーラを刀に注ぎ込んで本来の姿をイメージして具現化し硬化させる。


 本来なら眩いばかりの七色に輝く筈の刃先はうっすらと光るのみ。


 僕の中にはもう力が残っていないらしい。


 ……最後か。


 あと、少しだけつき合えよ親友。


 ずっと一緒に戦ってきた相棒はこの刀、漢字一文字の印が浮かんで見える業物。


 お祖父ちゃんの形見として貰った僕にとっての神刀『はるか


 無名の刀匠の作と言うけれど、十分に僕の役に立った。


 いままで、ありがとう。



 邪気を纏ったボスらしき敵は幸いにも1人だけみたいだが、そいつの周りには数百を超える堕天使や魔物が壁を作っている。


「フィ-、最後のお願いだ。僕をあの中心に運んでくれ、あとは1人で何とかする」


「それはダメ。

 光一(こういち)は死ぬ気なの?


 私は、この世界なんて……、もうどうなってもいい。

 光一がいないと、……私だけ生きるなんて意味が無い。


 だから、私も一緒に行くからね。

 私の魔法で防がないと堕天使の矢を防げない。その間だけでも一緒にいれる」


(どうせ、こいつは言い出したら聞か無いだろうな。

 これも惚れた弱みなんだろうか? 

 でも最後まで一緒にいられるのは魅力的な言葉だ。

 最後の思い出に甘えてもいいだろう。

 こいつが簡単にやられることも無いだろうし……)


「分かった。フィーは僕を防御しながら中心のボスの近くで僕だけ降ろしてくれ。それから1人で帰るんだ」


「嫌っ、帰らない。私が絶対に連れて帰るから、そんなことは言わないでよ。お願い」


 今にも泣き出しそうなフィーの顔を見ていると僕の方が辛くなる。

 言いたい言葉は沢山あるけど、いま言う言葉は一つだけだ。


「うん。じゃあ、行こう」


 僕の手を取り、見事な艶のある背中の羽をはためかせボスらしき敵に向かう。


 想定はしているものの、堕天使や魔物からの攻撃は熾烈を極めている。


 フィーでなければ、防御出来なかっただろう。


 後方の天使達の応援部隊は半壊状態で散り散りになっている。

 魔法中心の攻撃に対抗するには、物理的な攻撃が効果的でショックが大きく致命傷を与えることが出来る。

 だから、悪魔界と天使界の中間であるバルハラの戦闘には人間が絶対的な存在となっている。


 勇者はそのために召還される。


 その運命は、ここで果てるまで続いていく輪廻となる。

 その輪廻の中での僕の出番はここで終わりみたいだ。


 なんとか、フィーだけは助けたい。

 次の勇者が召還されるまでの平穏は僕が守る。


 さあ、ここら辺からならボスに近づける。

 フィーの力も残り少ないのは身に纏うオーラの薄さが物語っている。

 泣き言も言わずに、この天使は頑張ってくれた。


「フィー。ありがとう。もう帰れ」


 有無を言わせずに、僕の刀でフィーのバリアーを切り裂き、握った手を強引に離して落下する。

 生命力を維持するために残していた体の内側のオーラを下半身に集中させ地面に降り立つ時のショックを防御する。

 これで残りの生命力は持って10分がいいところ。



空中を降下する時に大きめの魔物を見つけて、下半身のオーラも刀身の具現化するエネルギーに加えた。



 ズンっ!

 

  大きな音と共に大きめの魔物の頭に刀を突き刺し、そのままの勢いで一刀両断する。

 真っ二つに切断された魔物から人の鮮血よりも濃い黒い液体が噴出しする。


 相手はすぐ近く、近づく魔物を薙ぎ払いながら近寄ると今までとは違う力を感じる。

 くっ、これはフィーと同じか、それ以上の威力?


 一気に血の気が引く。

 じわりじわりと近づいてくる程に、その力の凄さが判る。


 ああ、これで終わりかぁ。

 ……ごめん。フィー、僕は頑張ったかな?

 気怠さの中で、頭は不思議と冷静でいられた。


 もうオーラで刀身を作り出すことさえ困難になってきている。

 僕は右に回り込みながら、左手で懐の懐剣をまさぐった。

 その柄を確認して、一直線にボスに向かって残る力で突進する。


 右手の刀で、ボスがオーラで創造した剣を防いで鍔迫り合いの形にもつれ込む。

 数回の打ち込みで更に間合いを詰め、ボスの一撃を防いだ瞬間に刀を具現化していたオーラを消して、軽く回し蹴りを入れる仕草でフェイントをかます。


 その間に懐の懐剣を抜き取り、ボスの眉間を狙って放った。

 その懐剣を放す瞬間に、残りの全てのオーラを注入して一気に加速させる。


 加速された懐剣は光の矢のようにボスの眉間に吸い込まれていった。

 次の瞬間、眉間に深々と懐剣が刺さったボスが前のめりに崩れ倒れる。


 堕天使とはいえ、元1級天使であるボスの力は尋常ではない。

 本当に倒したのか判らなかったが、真っ黒に染まった羽から黒色の魔素が抜けて次第に白い羽に変化していくのを見てつかの間の安心をする。


 そして、具現化していたボスの身体は光と闇を放ちながら一瞬で消え去った。


 嫌な気分だが、ボスだけを倒しただけで絶対絶命の状況は変化していない。

 ボスが倒れていた所に落ちている懐剣を握りしめて、周りを見渡す。


 そろそろ、生命力が尽きる感じがする。

 一応、ボス級の堕天使を始末出来たからここでのバランスの崩れは保たれるだろう。

 これで僕の仕事も終わった。


 残る力で魔物に刃向かいながら数匹を抹殺すると動けなくなった。

魔物は数を頼りに僕に襲いかかってくる。

魔物に八つ裂きにされながらも、既に痛みやらの感覚は無く、心は平穏だ。


 そっと心の中で念じる。

 もう、失う物は無いけれど別れは悲しい。

 

 頭の中で残りのオーラで別れを告げる。



『フィー。ごめん、帰れなかった。また、会えるかな?』 


『光一さん。ごめんなさい。きっと会いに行きます。

 あなたが再び勇者になって天界を救ってくれるように神様にお願いします』


『うん。その時は戦いはしたくないな。

 もっと2人で楽しい話をして過ごしたい』


『そうね。私も同じ気持ち』


『じゃあ、お迎えみたい。さよなら、フィー』


『えっ、まだ話したい。待ってよ。まってーーーっ!』


 そんな気持ちがうっすらと伝わってきたが、段々と聞こえなくなった。


 ☆★☆


 僕は目を覚ました。


 グッショリと顔が濡れているのは暗くても判る。

 着ている物が濡れている事と伸びた髪が頬にへばりついているからだ。

 なんで泣いていたのだろう?


 変な気持ちがする。

 特段、自分の変化は無かったが、覚醒ってどういう事なんだろう?


 しかし、身体に充満したオーラはいまだに溢れ出ていて、僕の身体の表面に鎧を纏うように層をなして厚くなっていく。


殻を見ながら何となく『割れろ』と心の中で念じてみる。


「ピシッ」っと大きな音がして明かりが差し込んできた。

 えっ、殻が壊れたのか?

 念じただけだぞ!?


 次に心に浮かんできた言葉を念じてみる。


 『力を解放する』


 念じた途端に、爆音を伴い爆風がおこり僕を包み込んでいた殻が粉々に散って飛散した。


(な、なにが起こったんだ?)


 シルフィンやダイアナは満足そうに僕を見ているが……。

 木っ端微塵になったのは、殻だけではなく家財道具や窓ガラス全てが吹き飛んでいた。


 えええええええっと。

 いくら請求されるんだろう?

 で、でも僕がした訳じゃないし、証拠も無いよね。


「光君。ヤッホー! やったわね」


 微笑みながら、心底嬉しそうな顔のシルフィン。


「いや、やってない。シルフィン僕じゃない」


 膝がガクガクと震える中で僕の心の中では、そう叫ぶより他の選択肢は無かった。


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