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こっち見ろよ

「せっかくわざわざ来てやったのに、どういうつもりだ。」


 この日、マコトは高校の修学旅行で東京に来ていた。そして、自由行動の時間に、上野動物園でパンダを見ようと、はりきって友人を引き連れて来たのだった。だが、今のテンションは、パンダ舎に着いたときのテンションと比べ物にならないほど落ちていた。


 このマコトという人間は、「一度決めたことは諦めずにやり抜く」というポリシーを常に胸に抱いた、所謂「頑固者」なのである。この日もマコトには、心に決めたことがあった。「パンダの写真を撮る。」それが目標であった。しかし肝心のパンダは、ガラスの向こうでこちらに背を向けて寝ている。


「なぁ、全然こっち向いてくんないんだけど。」


マコトの友人ハルがため息交じりに言った。


「そんなこと言わずに、待ってやろうよ。今にこっち見るって。まだ時間あるしさ。せっかくここまで来て、パンダの顔を拝まずに帰れねぇよな、マコト。」


別の友人アキラがマコトをかばった。


「悪ぃな。待たせちまって。」


申し訳なさそうにマコトが班のメンバーに言った。


「あと十分だからな。もう飽きた。しかしさ、上野動物園のアイドルなんだろ?こいつ。なんで客の前でひたすら寝てんだよ。起きろー!愛想振りまけー!」


「パンダに言ったって、しょうがないだろ。ばか。」


「ばかって言うな!ばかって言うほうが、ばかだ!」


「小学生か、ばか。」


ハルとアキラが口喧嘩している間もマコトはカメラを構えて、シャッターチャンスを狙っている。しかしパンダは寝返りひとつしない。マコトは苛立っていた。


 マコトは愛知出身で、マコトにとってパンダはなかなか見られないレアな動物だった。東山動物園にはコアラがいてもパンダはいない。白と黒のツートンカラーのあの動物は、マコトの憧れの存在だった。


「しかし、ほんとに動かねぇな。平日だからか?」


「パンダにオン・オフあってたまるか!動けー!」


「なんかさ、今日オレたち動いた動物見てねぇよな。このパンダといい、でかい鳥といい。これじゃあ、動物園じゃなくて静物園だよ。はは…。」


「マコト、それ、全然おもしろくない。諦めんなよ。絶対こっち向くって。あいつだって、あの体勢は疲れるはずだ。」


 それからしばらくしたが、やはりパンダはガラスの向こうにいるマコトたちを見ようとしなかった。大きな腹が上下に動くだけで、あとは腕すらも止まっている。そこで、マコトはシャッターボタンを押した。


「さぁ、もう出ようか。」


「良いのかよ、マコト。パンダの背中の写真だけで良いのか?」


「そうだって。こんだけ粘って、背中だけって、そりゃ寂しいって。」


「時間がもったいないだろ。良いんだよ。パンダの写真を撮ることが目標だっただけだし。一枚でも撮れたから、良いんだって。行こう。」


 すると、幼稚園児がパンダ舎に入ってきた。わーわーとはしゃいでいる。マコトたちは園児たちの邪魔にならないようにパンダ舎を出た。そのとき。


「パンダさん、こっち見たー!かわいー!」

三人は振り返った。

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