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5の裏‐『極意』

 発見した時、少女ライムは半分以下だった。


 高熱で破壊されつくした焼け焦げた大地。

 その片隅に残っていた肉片としか言い用のないモノ。心臓と頭部を含む左半身を失った焼死体のようなカタマリ…………それでも俺には、ソレが『斉藤ライム』だと一目で解った。


 急いで駆け寄って、震える手でソレを抱きかかえる。

 心音なんて『心臓』が無いから聞こえないし、頭も半分無いから意識もあるわけがない。

「焼肉しばらく食えないな……」

 それが正直な感想。今日からしばらくベジタリアンになれる自信がある。しかし、甘い野菜はノーサンキュー。トマトとカボチャは死んでも食べない。

 そんな事を考えながら、とりあえず『敵』から距離をとる。

 逃げる方向は装置の反対方向――そっちの方が、天使の数が少ない。

 走りながら『ジュース』を飲む――一本飲めば黒雷一発分の魔力補充ができる爺さんが作った怪しいジュース。俺の衣装に二本だけ備え付けてある非常用回復アイテム(ザクロ味)。

 目の前に立ち塞がる数匹の天使。

 不知火達はこの数十、数百倍の数と戦ってると思うと心の底から申し訳なく思う。

「うなれ、ブラック・ライトニング!」

 発動キーとともに走る黒いイナズマ。

 文字通り光の速さで、敵を紙のように切り裂くソレを――コントロールする。

 ジグザグ軌道――左右に、上下に/円軌道――螺旋を描くように/それができる事を確認後、まっすぐ解き放って直線一掃/舞い散る白い翼――切り開かれた道を突っ切る。

 これが、斉藤縁の見せてくれた『極意』――魔法を具現化したまま操るコト。

 あの時、不知火が振るった二本の刃は斉藤が具現化した神威=魔法。高密度の手でさわれる魔法。つまり、極意とは魔法を『放出』するのではなく、空間に『固定』して長時間使用する事。

 言うほど簡単ではなく、精神力がガリガリ削れていく感覚――だけど、確かに使える。極意と呼ぶにふさわしい技術。おかげで『一撃だけ』の魔法が、ここまで使えるようになった。

 ――でも、俺の考えが正しければ斉藤の言ってた『極意』はコレだけじゃない。

 不知火はあの時、突入して天使を斬った。そして、多数の天使を斬り裂いた後、斎藤が『槍の雨』を降らせた。最初から、不知火が突入した直後に発動で良かったハズなのに、アイツは不知火の合図があるまで傍観していた。

 ――アレはたぶん、天使をある程度倒すまで待ってたんだ。


 そんな俺の予想を証明するように――左手に抱える少女の身体が元に戻っていく。


 頭部が、心臓が、胴体が、左腕が、左足が――傷ひとつ無い元の状態へ『復元』されていく。

 祖父が生み出した奇跡の魔法――生体金属『賢者の石』に記憶プログラムされた、『復元』魔法。

 大気中のエーテルを自動で吸収し、装着者の失った身体と欠けた魂を自動復元する能力を付加エンチャントされた最高位の魔法衣装『ライト』。心友との約束を護る為に生涯をかけた男の遺産。

 ここの大気に満ちるエーテル総量から逆算すると、ライムは『三回』肉片から復元できる。 破片一つ残さず魔法衣を完全消滅させられると復元は無理だが……『ライト』の完全破壊は核爆発レベルの破壊力でも無理だと爺さんは言っていた。まあ、冗談だとは思うけど、それでもかなり高い破壊力が必要な事は間違いないハズだ。

 そんな事を考えてる間に頭部と心臓付近の復元が完了。息を吹き返さないので、人工呼吸をして……なんとか蘇生完了。ちなみに痛みは魔法衣に痛覚遮断機能が付いているので感じていないハズ。まだ痛覚あったら、蘇生直後にショック死してもおかしくない状態だと思う。

「……再生速度が聞いてたより速いな。やっぱり、天使を破壊すると『エーテル』に還元されるって予想は大当りだったかな?」

 エーテルから生まれる天使を破壊すれば、天使は再びエーテルに戻る。ライムの復元スピードが爺さんの予想より速い理由は、俺が天使を倒したことで大気中にエーテルが満ちたからだろう。証明終了――結論を言うなら、天使を倒した後、還元されたエーテルは自分の魔法に使える。それが、斉藤縁が示したもうひとつの『極意』。

 あの時は不知火に渡した『魔法の刀』を媒介にして、エーテルを吸収していたのだろう。

 ある程度戦わせて、大技に必要なエーテルを補充する――それが、あの『槍の雨』の仕組。

 そして、魔法の刀を媒介にできるなら、魔法の雷でも同じ事ができてもおかしくはない。

 黒雷まほうで斬り裂いた天使のエーテルを、黒雷まほうに吸収する――そういう戦い方を斎藤は示してくれた。そして、その戦い方だけが、あの巨大すぎる人外に対抗する手段になる。

 そう考えれば、あの巨人の周りに飛んでる大量の羽虫てんしどもは俺のエネルギー源。『敵が多過ぎる』と嘆くのではなく、『いてくれてアリガトウ』って感謝したい気分になってきた。

 二個目の特製ジュースを飲み干す。

 ――机上の空論で終わらせない為には実践あるのみ……だな。

「うなれ――」

 今の俺は、たぶん本物の悪役っぽく笑っている事だろう。


 周囲の天使を始末して、そのまま練習する。

 しばらくするとライムの肉体の復元が完了――黒雷を停止させて練習で解った欠点を整理。

 欠点その一――魔法を放出せずに維持し続ける事は精神的に凄まじい負担になる。

 欠点その二――エーテルを吸収すると、勝手に魔法の威力が上がる。

 欠点その三――威力が上がると、比例して消費エーテルが増加する。

 欠点その四――一度上げた威力を下げる事はできない。

 感想――斉藤縁《巫女》の戦闘方法システムがどれほど完成されたモノか実感しました。

 他者に魔法を振るわせることで自分は魔法の維持に集中。吸収したエーテルは魔法の強化に使わず、魔法で創った『人造神』に蓄える。一定値のエーテルが貯まったら大技で消費。大技で使用するエーテルは使い捨て。

 ――俺にも相棒がいたなら見習いたい戦法だな……まあ、無いものねだりか。

 視界の片隅に眠っている少女の姿が映る――が、それこそ無いものねだり。

 ――『いない』以上、一人でやるしかないか。

「……じゃあ、練習も終わったし、そろそろ始めようか」

 巨大な敵を見据え、黒雷あいぼうを強く握り締める。

 そして、最初の発動分のエーテルを補充するために、特製ジュースを――


 無かった。


 …………それは、よくよく考えなくても解る事だった。

 俺の服、真っ黒な衣装にはポケットが二つ。

 挨拶がわりで一発――右のポケット分消費。

 その後の戦闘で一発――左のポケット消費。 

 そして練習で一発――空っぽのポケット。叩いても増えません。

「練習で燃え尽きたバカ一人か……笑えないな。いや、マヂで笑えない! どうすればいいんだこの状況!?」

 魔法でエーテルを吸収する極意を覚えても、俺自身は『液体を媒介』にしないとエーテルを吸収できない半端者。最初の一歩が踏み出せなければ、走り出すこともできない。

 ――自宅に戻ってジュースを補充するか?

 そんな時間があるハズがない。モチロン、温泉へ行くなんて考えるだけアホだ。

 ――そう言えば、湧き水や井戸の類でもOKだっけ?

 井戸や湧き水の位置なんて把握してないサ。そもそも最近井戸のある家なんて無いだろ?

 ――他にエーテルを含んだ液体……。

 考える。思考は止めない。窮地のときこそ冷静に、自覚して、焦って、全力で急ぐ。

 ――ここら辺が人造と天然の違いか……。

 完全に復元された少女を見る。

 彼女達『魔法少女』は呼吸で大気中からエーテルを吸収できる。俺が飲みたくもない微妙な味のジュースを飲んでする事を、文字通り『呼吸いきをする』ようにやってのける。

 ――また無いものねだりだな。

 その感情を抑え――抑える為にライムの身体を拭いてやる事にした。

 失った肉体は血液も含めて完全に復元されているが、一度外に流れた血液はそのまま――今もライムを赤く濡らしていたので、清潔な布で拭き取ってやる。

 血を拭き取った後には、傷一つ無い綺麗な素肌。

 奇妙な背徳感を覚えて、ライムから目をそらす。

 白い布が紅く染まっていくのを無言で見つめる。

 その『液体』が白をアカに染めるのを見続ける。

 そして――最悪な解決方法に、気付く。

「エーテルを体内に貯め込める魔法少女の〝血〟か……」

 自分で言って自己嫌悪。

 強烈な背徳感に頭がクラっとする……が、それでも背に腹はかえられない。

 恐る恐る『赤く染まった布』を舐める。

「ヤバイな……端から観たら完全に変態だ」

 そして、もう一つヤバイ事に――微量だが、エーテルが回復した。

「言い訳は百個くらい思い浮ぶ……でも言い訳しない。許せとも言わない。責任とって守る」

 両手を合わせて未だ意識の戻らぬ少女に謝る。 

 端から観たら『イタダキマス』のポーズでもあるのが悲しすぎて――



 少女のカラダを俺の涙が濡らした。

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