二話 会合の終わりと広がる雲
プロットは出来てるのになかなか書き終わらない……!
「覚悟しなさい、けっちょんけちょんにしてやるんだから!」
「ォ……ァァ……」
体当たりをして吹き飛ばした煙に対して、圭嘉はやってやるぞとばかりに意気込んでいる。
そんな圭嘉に煙の中にいるものは、吹き飛ばされた衝撃で少し煙が剥れて骨の手や足をみせながら、低く唸り声のようなものを出して怒りを表し、先ほど志保に近づいていた時とは比にならない、成人男性が走るような速さで圭嘉へと突進していった。
多少慌てるも圭嘉は簡単にそれを避けてみせたが、煙はそのまま歩みを止めずに後ろにあった滑り台へとぶつかった。
グシャ、と鉄製の物にぶつかったようには思えない音を鳴らして滑り台は大きく拉げた。
「うわぁ~」
その光景におき楽そうな顔をしていた圭嘉も、たらりと冷や汗を流す。そしてぶつかった衝撃で残っていた煙も剥れ中にいたものの全容が明らかになった。
まず、目に付いたのがぼろぼろになった黒い、戦国時代にありそうな鎧。次にそれを着込んでいる鎧と同じように黒く染まった骨となった体と腰につけられている刀、その姿は立派な鎧武者であった。
夜の闇よりも黒い体、それすらも凌駕するほどに深い何かを宿した伽藍堂の眼は見るものの気を狂わせる狂気に満ちている。
鎧武者は煙が取れるのを待っていたかのように、全て剥がれ落ちるとともに腰の刀を引き抜いた。
錆付いていた刀はギシギシと不快な音を立ててその存在を主張しながら刀身をあらわした。
とても人を切れる見た目をしていなかったがとても禍々しく、幾人もの血を吸っている物だろうと容易に想像できる代物だった。
「ギィ……!」
「そう何度も、好きにさせないよ!」
刀を振り上げ再度突進をする鎧武者だが、今度は行動を読んでいた圭嘉に思い切り引き絞った拳で迎えられた。
ベキン。と音が鳴り、突進した時の倍以上の速さで地面と平行して飛んでいく姿はコミカルであるが、漫画に載っているからこそのものであり、実際に見てみると奇怪極まりない。
うまいことカウンターを返した圭嘉だが、まっすぐ飛ばされた鎧武者は再び滑り台へと突っ込み、今度は柱の根元から折れ曲がってしまった。
「あ、やば」
ひしゃげただけでも十分に問題となるが、不自然かつ完膚なきまでに壊された滑り台がニュースに出る光景を想像して慌てる。
「そ、そうあなたが悪いんだ!女の子めがけて突っ込んできて反撃されるのは当たり前なんだからね!」
「……無理があるんじゃ……?」
「……ァァァァ!」
「ひっ……」
「くぅ……」
あんまりな言い草に、圭嘉の登場から息を殺し離れて様子を見ていた志保が人知れずそっと呟いたが、それは鎧武者の怒りの叫び声でかき消された。
さほど大きくはないははずのその声は不思議と響き、聞いている者に恐怖と深い恨みを伝え、志保はもちろん圭嘉にもそれは影響を及ぼした。汗を掻いたり慌てたりしてこそいたが、常に余裕そうにしていた雰囲気が初めて崩れたのだ。
二人がひるんだその好きに鎧武者は背を向け逃亡し、あっ。と、圭嘉が気づいて声を出したころには姿を消していた。
「うーん逃がしちゃった。他のも何処に行ったかわからないしどうしようかな」
鎧武者が去っていった方角を眺めて圭嘉が呟いていると遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「は、早く逃げなくちゃ」
近隣の住人が警察に通報をしたのであろうことに気が付いた志保は慌てて公園の出口のほうへと駆け出し、それに気が付いた圭嘉も面倒ごとは厄介だと言わんばかりに一度公園の惨状を見渡した後家へと逃げ帰った。
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圭嘉が飛び出して行ってから暫く放心していた愛子だが、三十分くらいたった時遠くにサイレンの音が聞こえて正気に戻った。すぐにリビングの惨状を思い出し、散らばったガラスを片付け始め数分後。ガチャ、と玄関が開き圭嘉が帰ってきた。
「ただいま~」
「おかえりなさい。疲れてるようだけど大丈夫?」
「うん大丈夫ちょっと疲れちゃって」
見たところ怪我はなさそうだがかなり疲れた様な声を出す圭嘉に心配して声をかけ、元気に返されて安心する。が、同時にサイレンと圭嘉が関係あるのでは?と疑問を持つ。
「ねぇ、もしかしてこのサイレン……」
気になって圭嘉の方へと振りむくと壁に寄りかかりすやすやと眠ってしまっていた。
愛らしい寝顔を見て愛子はあらあらと先ほどまでの考えを放棄し、ほほえましい光景に頬を緩ませながら茂樹の自室へ運んでベッドへと寝かせることにた。
「それにしてもこの地震、調べておいたほうがいいかしら」
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「う、うん……?夢……だった、のか?」
翌朝、ベッドの上で目が覚めた茂樹はとっさに昨夜の出来事を思い出すが、体も男のままだし、途中体を動かすことが出来くなり意識もなんだかぼやけていたので夢だったのかとほっと息を吐く。
(そうだよな。あんなわけのわからないこと夢に決まってるよな)
時計を見るといつもより三十分ほど早く起きていたが二度寝するほどではなかったので起きて着替え、一階へと降りていく。
まだ少し頭がぼやけたままでリビングへ入ると大穴の開いた窓が視界に入った。
「え……?」
「あら、茂樹今日は早いわね。おはよう」
「か、母さん。これ、窓、夢じゃなかった……」
「そのことについて話があるから座ってなさい」
台所で料理をしたまま茂樹に座っているように言い、そのまま調理を再開した愛子は朝食を作り終え、テーブルに並べるまでの十分弱茂樹を放置してからようやく口を開いた。
待たされた茂樹はというと、愛子の飄々とした態度に力が抜け、落ち着いた表情でおとなしく待っていた。
「茂樹は昨日の事どれ位覚えてる?」
「昨日……家に帰ってくるまで微妙に意識はあったけど、体は動かなかった。体も元に戻ってるし、夢かと思ってた」
いっそ開き直ってしまったほうが楽になると考えたのか、朝食を食べながら昨夜と違いかなり気楽そうに話している。
「それじゃあ家から出て行ったあと何していたの?」
「公園に行ってなんかよくわかんない、侍みたいなやつを追い払った」
「そう、お母さん昨日の地震のこと気になって調べたんだけど。もしかしたらそれに関係してることかもしれないの」
「それって……?」
「まぁこの事はまだ詳しくわかってないから、帰ってきたら教えるから今日は学校に行きなさい」
愛子は茂樹にあまり心配させないようにふんわりと笑顔を作り、おそらく年単位で食べてなかった一緒の朝食を楽しむことにした。
幸い茂樹はいろいろなことがありすぎて、愛子への嫌悪感が薄れているようなのでこの時は特に、少なくとも表情には嫌そうにしている様子はなかった。
本人が思っているほど実は愛子を恨んではいなかったか、いつか目覚める。というストレスから結果的に解放された事が原因かもしれない。
「ごちそうさま。それじゃ、行ってくる」
何事もなく朝食を食べ終えた茂樹は少し早いが特にやることもないので愛子に言われた通り、学校へ行くために家をでた。
茂樹の通う藍菜中学校は市の東側の住民が通う場所であり、市の中心からやや東南へずれたところに建っている。
茂樹の家は比較的近く徒歩で二十分の距離である。市の広さに対して人口が多く、狭い面積に二つの中学を建てられておりよほど遠くなければ遅くとも三十分でつける距離にあることからか、自転車ではなく徒歩で登校する者も多い。
(そういや昨日俺の体動かしていたやつは誰なんだ?)
いつもより早めに出たせいか人通りの少ない路を歩いていた茂樹はふと、昨晩圭嘉と名乗っていた自分の体を好き勝手に使っていたお気楽な女を思い浮かべるが、その正体がわからない。
(一体なんだ?俺は別に二重人格になった覚えはないし、第一なんで女なんだ?)
(『私はあなたの力から生まれた人格だよ?』)
「うわぁ!?」
一人で考え事をしていたはずなのに、帰ってくるはずのない返事が耳元で言ったようなほど間近に聞こえ、驚いた茂樹は叫び声を上げて飛び上がってしまう。
すぐに今の醜態を見たものはいないか周囲を見渡すが運良く誰も見てはいないようでほっと息。
(『一人でなんかしてるのはいいんだけど、私の話聞いてた?』)
「っ!」
また耳元で声が聞こえたが、二度目なので驚きこそしたが声を出さずにはすんだようだ。
しかし姿の見えない相手に苛立ちと恐怖を感じまた口を開く。
「誰なんだ!」
(『声に出さなくてもわかるから怒鳴らなくても平気だよ』)
「…………」
鬼気迫る様子の茂樹を諭すように語り掛ける声に怒気を削がれた茂樹はおとなしく閉口した。
それに満足したのか声の主、圭嘉は話を再開する。
(『おとなしく聞いててね?まず、私はあなたの中にいる人格なの』)
「それはわかってる」
(『だから!おとなしく聞いててってば。それに、話さなくても伝わるって。こう、ほわわんと思い浮かべてみて』)
(『こうか……?』)
(『そうそう。それでね、さっきも言ったけど私はあなたの力の影響で生まれたの。どういうことかはわからないけど、昨日あなたの力が目覚めたときに私の意識ができたの』)
圭嘉の説明に納得いかないところが多々あった茂樹だが、また止めたらややこしいことになるだろうと思い止めた。
実はその考えも圭嘉に漏れているのだが、圭嘉ちゃんは大人だから気にしないもん!とスルーに勤め、説明に精を出す。
(『何で女の子なのか、その辺もわからないけどとにかく私はあなたの力から生まれて、必要な知識を共有してるの』)
(『それはわかったけどよ、昨日のは何だったんだ?』)
(『それもわかんない。なんか、こう、もやもや~っとね。嫌な感じがしたから勢いで』)
使えないやつだな。反射的にそう思った茂樹の頭に、圭嘉は今度は容赦なく騒音で攻撃をした。
とたんに立眩みを起こすほどのダメージを受け、慌てて謝罪をして事なきを得た。
(『ああ、すげぇめんどくせぇ』)
茂樹がまた騒音攻撃されたのは言うまでもない。
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「ちくしょう、まだくらくらする……」
「どうした茂樹?」
「ああいや、なんでもない」
圭嘉の騒音攻撃で受けた異常は茂樹が学校についても納まらず、級友の二宮 甚太に心配をされた。
考える端から思考が漏れることに耐えかねた茂樹は、圭嘉と共に普段の考えをわける壁作ることに成功したのでもう被害を受けることだけは防げるようになったが、すでに受けた分はどうしようもなく最初の授業中はグロッキー状態であった。
「そういえばさー自然公園の事件聞いた~?」
「事件?何それ~?」
「なんかねー昨日の夜中に騒ぎがあって遊具がぐしゃぐしゃに壊されてたんだって」
「えー、何それやったやつ何がしたかったんだし~おもしろーい」
(……ん!?)
グロッキー状態から立ち直ったものの一日のやる気がすっかり削り取られ、机に突っ伏していた茂樹の耳にそんな噂が聞こえてきたのは昼休みのことであった。
心当たりがありすぎるその噂に不自然に汗がダラダラとこぼれる。
「あーあれか。なんでも暴力団がらみとかいろいろ言われてるみたいだぞ」
気が付けば噂話をしている女子のほうへ眼を向けていたのを、詳細が気になるのか勘違いした甚多が教えるも、頭の中で圭嘉と絶賛会議中であった茂樹にはそれに答える余裕はなかった。
(『おい圭嘉めちゃくちゃまずいことになってんぞ!』)
(『え、えっと、だって……ほら私生まれたばかりだったし。あいつ刀もってとっても危なかったし』)
(『知識共有してんなら限度ぐらいわかんだろうが!』)
「おい茂樹聞いてるか?茂樹!」
「うわっ!だ、大丈夫聞いてる。でもこの辺に暴力団なんていなかったよなぁ」
返事のない茂樹に業を煮やした甚太に揺さぶられてようやく意識を戻し、取り繕う。
「今日のお前何か変だぞ?体調悪いなら保健室行けよ?」
「悪い。ちょっと夜更かししただけだから平気だよ」
正直ちゃんとした笑顔を浮かべていられているか不安になっていた茂樹だが、ふぅん。とあまり気にしていなさそうな甚太にほっと一息つく。
そのまま話はそれていき今度のテストはどうするかなど、特に起伏のない会話をして昼休みは過ぎていった。
「……一体なんだったのよ昨日は」
噂をしていた女子とも茂樹たちの席とも違う場所で、同じように噂を聞いた志保が一人、呟いた。
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