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一話 目覚める力異変の夜

 黒田茂樹(くろだ しげき)は憂鬱な表情で家への帰路についていた。つい先ほどまでは友人と話しながら帰っておりあまり気にならなかったことが、分かれて一人で帰るとなるととたんに気になりだしたのだ。


 はぁ、とため息をついた後に気に病みすぎるのもよくないと頭を振り段々と見えてきた自宅へと目を向ける。

 今日はいいことがあった。誕生日を友達に祝われ、プレゼントももらった。中には自分が欲しかったゲームソフトをくれた者もいた。しかしそれら全てもやはりあそこをみると吹き飛んでしまった。


(絶対何かしてるよな)


 朝、友人の家に出かけるときに見えた母親のそわそわした姿を思い出してうんざりとする。

茂樹はあまり家族とは仲がよくない。父親とはそうでもないが母親とはほとんど会話もせず、食事も別々に食べている。

 母親の方は出来るかぎり距離を縮めようと積極的に会話をしたり買い物に誘ったりしているのだが、彼はそれを拒絶している。


 理由は母親に当たってもどうしようもないものなのだが原因がないわけでもなくとにかく彼は母親を嫌っており、何かとかまってくるのを鬱陶しく思っていた。小さなことでも母と一緒なのが耐え切れず、元は黒かった髪も校則でぎりぎり許される範囲で茶色く染めているほどである。

 いつまでも渋っているわけにもいかずドアを開け、二階にある自分の部屋にさっさと帰ろうとする茂樹。しかしそれは母親に呼び止められて失敗してしまう。

 聞こえない程度の舌打ちを打ちつつめんどくさそうに茂樹は振り返った。


「…何?」

「茂樹、今日誕生日でしょ?お母さんご飯作ったんだけど」

「いらない。友達と食べてきた。疲れたから部屋帰りたいんだけど」

「そ、そう。……ごめんね呼び止めちゃって。ご飯、置いておくからお腹がすいたら暖めて食べなさいね?」


 すでに四十になり、子供一人の親とは思えないほど若々しい黒髪の女性、茂樹の母親である愛子は一瞬悲しそうな顔をしたがすぐに取り繕う笑みを浮かべて謝罪をしてリビングへと戻っていった。


 その様子を冷めた目で見送ったしげきは部屋へと戻るともらったプレゼントを机に置くとそのままベッドへと体を投げ出した。


「……はぁ一気に萎えた。かかわってくんなよ」


 陰鬱な気分になってしまい、やる気が無くなってしまった茂樹はそのまま暫くごろごろとしていたがせっかくもらったゲームもやる気が起きず、やがて眠ってしまった。





 夜、深夜というにはまだ早いがそれほど早いわけでもないころ、茂樹はとてつもない息苦しさに目を覚ました。


(な、んだ…火事?)


 這いずるようにベッドから出てみると特に煙が上がっている様子はなく静まり返っている。しかし息苦しさは未だにある。


「げほっげほっ。み、水」


 何とか立ち上がるとふらふらとしながら水を求めてリビングへと向かい、途中階段や廊下で何度か転びかけるもなんとかつくとコップに注いだ水を飲もうとするが急に体から力が抜け倒れこんでしまう。


(あれ、何だ?力が……)


 落としたコップが割れて水浸しになった床に顔が浸かり不快感に顔をしかめて起き上がろうとするが、腕は動かなく茂樹の意識段々とは薄れていった。


「茂樹!」


白く染まる視界に愛子の姿が写り、茂樹はそのまま意識を失った。




「茂樹、どうしたの!?」


 ガラスの割れる音を聞きつけてリビングへと駆けつけた愛子は倒れている茂樹を見つけると、すぐに抱き起こして呼びかけるが反応はなくぐったりとして目を閉じたままでいる。

 胸が上下しているのを確認して安堵の息を吐き、濡れてしまっている顔を拭いてからとりあえずソファーに寝かせようとしたときそれはおきた。


「何?きゃあ!」


 突然光が茂樹を中心に発生し、包み込んで茂樹の体にあわせて小さくなり、少しずつ形を変えていった。

 黒い靴下は純白のハイソックスとピンク色のかわいらしい靴に履き替えられ、洋服は同じくピンク色のフリフリの装飾や大きなハートがついたドレスのような服へと変わり、極めつけに短かった髪が腰まで長くなり、茶色く染めていた髪が紅へとなり胸部には大きくはないがふくらみが出来て完全に別人へとなっていた。


 よくよく見れば身長も縮まり、顔の造詣も元の少し鋭めの顔から可愛らしい顔へと変わっている。

 愛子はその姿に驚いて固まっていたが茂樹が身じろぎをし我に返った。


「う、うん………?」

「茂樹!」

「母さん?何で俺……うわっ、はなせよ!」

「落ち着いて茂樹。なんともない?」


 少しはっきりしなかった意識を愛子の顔を見たとたんに目覚めさせて離れようとしたが、自分が倒れたことを思い出して素直に動くのを止めた。流石にそこまで考えなしに動いているわけではないし、近くに居て害があるわけではない。


「別に…特にはないけど、何か体が軽い」

「落ち着いて、落ち着いて自分の体を見てみなさい」

「なに?……え、何だ…これはぁ!」


 愛子に促されて自分の体を確認した茂樹はその惨状に気づいて叫び声をあげた。しかしその声すらかわいらしく混乱に拍車をかけ、結局落ち着くにはその後十数分を必要とした。


「はぁ…はぁ…」

「もう平気?」

「大丈夫」


 何とか落ち着きを取り戻した茂樹は愛子とソファに座って向き合っていた。あまりの緊急事態に普段の険悪な態度も鳴りを潜め真剣な互いに様子で話あっている。


「で、母さんはあんまり驚いてないっぽいけど原因わかってるの?」


 最初からあまり焦ったり慌てている様子がない愛子に、疑問を持った茂樹が問いかけると愛子は頷いて口を開いた。


「茂樹ももう十四でしょう?お母さんの周りでは大体そのころからだったから、なんとなく、ね」

「……まさか」


 愛子の返した言葉の含みに気が付いた茂樹は顔を一気に青くして体中に汗を掻いていた。

対して愛子は困ったように硬く微笑みながら一つ頷く。

 それで確信した茂樹は絶望のあまり一瞬意識が飛びかけるが何とか持ち直し思わず叫んだ。


「そんな…ふざけんなよ!」

「ごめんなさい茂樹、でもそれはどうしようもないのよ」


 茂樹が怒り、愛子がしょうがなさそうにいったことは愛子が他の家系が関係している。


 黒田愛子(くろだ あいこ)、旧姓は守御門(もりみかど)愛子である。守御門の歴史は古く突然変異の異能者たちの閉鎖的な村が邪馬台国建国時に付近の豪族に召抱えられたのが始まりで、以来後年にある陰陽師と妖怪との戦いのように歴史の影でさまざまな怪異と戦い国を守護してきた一族である。


 守御門の家系の者は十代になるとそれぞれに力が発現しその力で影の仕事をするという役目をこなしていた。

 その力ゆえに重宝された守御門家は代々、血の拡散と薄まりを恐れて身内同士の結婚が常であったが愛子と父、政文(まさふみ)は学生時に恋愛、駆け落ちをしその間に生まれた茂樹は血こそ薄まったが当然守御門の血が流れている。


 丁度十歳の誕生日に自分に流れる血のことと、愛子に目の前で見せられた力に茂樹が感じたことは恐怖であった。

 ある程度のことについて分別のついていた茂樹は人と違うことがいじめや距離を置かれるということに気が付いていたのである。

 もちろん子供らしく他人にはないスーパーパワーがあるということは憧れであったが、実際にあると聞くとそんなもの吹き飛んでしまっていた。


 それ以来どうしようもない血の呪いがいつか自分にも訪れるのではないかと怯え愛子を恨んでいたのである。

 そして今日恐れていたことが現実になった。


「何で母さんたちの勝手な恋愛で、俺がこんなに悩まなきゃいけないんだよ!」

「茂樹落ちついて っ!」


  興奮して立ち上がった茂樹を落ち着けようと愛子が声をかけようとしたとき、ゴン。と殴りつけるような音とともに大きな振動が襲った。


「うおっ!」

「きゃぁ!」


幸い揺れは長いこと続かず三秒程度の間で収まり、家具なども倒れることはなかったがかなり大きなものであった。


「茂樹大丈夫だった?」

「……」


 揺れたときに座っていた愛子はともかくタイミング悪く立っていた茂樹は倒れて頭を打ってしまっていた。

 愛子の言葉にも反応を示さずに倒れたままの姿勢で沈黙している。

心配になった愛子がそろそろと近づくと、ゆっくりと起き上がり伸びを一つしたので怪我はないようで愛子はいきをはいた。が、


「う~ん、やっと動けるようになった~。さーてみんなお待ちかね魔女っ娘圭嘉(けいか)ちゃんの登場だっよー!」


 絶対に茂樹が言わないような声色で放った素っ頓狂な言葉を聴いた瞬間にビキリと固まってしまった。

 当の本人はそんな様子に気が付かないまま体の調子を確かめるように腕を回したり腰をひねったりしている。


 やがて愛子の様子に気が付いたのかくるりと体をっ向けるとにっこりと笑った。


「始めましてお母さん。私は圭嘉」

「えっ…と…」


 突然すぎてついていけない愛子をよそに茂樹改め圭嘉と名乗った口調からしても少女な彼女は、ふむふむと部屋の中を見回したりとせわしなく動き回っている。が、やがてぴんと体を伸ばすとそわそわとしだした。


「ど、どうしたのしげ…じゃなくてええと」

「圭嘉だよお母さん。ちょっとね、近くでなんか良くない感じがするからいってくる!」

「ちょっと待ちなさ きゃぁっ!」


 いきなり駆け出した圭嘉をとめようとする愛子の声を聞こえないのか、無視をした圭嘉はベランダへ窓も開けずに突っ込んでそのまま行ってしまった。


 普段皿を割ったときの音が生易しく感じるくらい盛大に音を立てて割れた窓の前で、事態についていけなくなった愛子がその場でへたり込んでしまったのは言うまでもなかった。





 村上志保は塾からの帰り道、近道のために公園を抜けていた。

 普段はここを通ることはせずに普通に迂回をしているのだがこの日はいつもよりも長引いてしまい帰り道を急いでいたために通っていた。


「急がなくちゃ」


 時刻はすでに十一時近くになっており、これ以上の遅れは明日の学校にも響く可能性があるため早足でかけていた志保だが突然の地震で足をもつれさせて転んでしまった。


「うわっ。痛いなもう!」


 それほど早くかけていなかったこととうまく手をつけたことで怪我こそなかったが、手に泥がついて悪態をついている志保の近くで地面が小さく割れていた。

それに気が付かず一歩、踏み出した瞬間に黒い煙が勢いよく噴き出した。


「きゃぁぁぁっ!」


 煙は空へと立ち上りながら幾つかの塊に分かれるかのように散っていきすぐに消え去ったが、一つの塊がその場に漂うかのように留まりながらゆっくりと志保に近づいて来ていた。


「な、何? ひっ!?」


 突然の出来事についていけず混乱してぼんやりと煙を眺めていた志保はその中に黒ずんだ骨の手を見てしまい引きつったような悲鳴を上げた。


「ギ……ギ…ァ・・・」

「いや、こないで!」


 ガシャリ、ガシャリと重い音と形容し難い呻き声のようなものを出しながら、にじり寄るように近づいてくる煙に腰を抜かしてしまった志保は動くことが出来ず、わずかな抵抗として持っていた鞄を投げつけるも吸い込まれるようにして消えてしまった。


 捕まったら自分も同じように消えるのではと恐怖し、ずりずりと手の力のみで這いずって逃げようとするがうまくいかずあっという間に追い詰められてしまう。


(何なのこれ…こんなのありえない、意味わかんない!?)


 煙が今まさに触れようとして恐怖から志保が目を閉じたときそれは降ってきた。


「お~っとそこまでー!」

「ゴァ……ッ」


 突然飛来したそれは勢いを落とすことなく煙へと突撃し、めきめきと音を立てて吹き飛ばした。

 第三者の声と煙が離れた気配に目を閉じていた志保が見たものはかわいらしいドレスのような服を着て赤い髪をなびかせた小さな少女であった。


「さ~て女の子に襲い掛かるような悪逆非道なやからはこの圭嘉ちゃんがやっつけちゃうんだからね!」


 そんな宣言とともに、いまだうごめく煙に向けて文字どうり飛んできた圭嘉はびしりと指を指した。

初めての投稿となりますがよろしくお願いします。

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